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Episode1・クロードと二人のにーさま7

「クロード、ついてますよ?」 「あ、わたしとしたことが……」  ふきふき。クロードが慌ててハンカチで口元をふきふきしました。 「クロード、人間界のお菓子はどうですか?」 「おいしいです」 「お口に合ったようで良かったです。イスラがたくさん買ってきてくれましたから、たくさん食べてくださいね」 「はい」  クロードはそう返事をしてくれるものの、ハウストとイスラとゼロスの会話を気にしています。 「どうしました。なにか気になることでもありましたか?」 「にーさまたち、あしたはおでかけですか?」 「そのようですね、二人で冥界へ行くようです」 「……おしごと、ですか?」  クロードがどこか拗ねた口調で聞いてきました。  一緒に行きたいのですね。この子は赤ちゃんの頃からイスラやゼロスのお出かけを察知すると自分も一緒に行く気になってました。  でもね、まだ五歳のあなたを同行させることはできないのですよ。 「そう、お仕事ですよ。冥界に少しでも異変があれば報告書を作成して四界で情報共有する決まりです。大切なお仕事です」  私は説得するように言いました。  三年前、私たち家族は初代時代へ時空転移しました。そこで知ったのです、四界の成り立ちを。この星に課せられた終焉を。  世界を四つに区切る強力な結界は初代王たちによって発動されたものでした。その理由は一つ、レオノーラを封印するため。  十万年前の初代時代から当代まで、この星はレオノーラというたった一人の人間によって守られているのです。  レオノーラは深海の奥深くに今も封印され、星の杭となって終焉を食い止めています。私たちの平穏な暮らしは薄氷の上に営まれていたものだったのです。  世界の真実を知った現在の四界は少しでも早く星の異変を察知するため、四界に協定が結ばれました。その中に情報共有の徹底もあるのです。どんな些細なことでも異変があれば報告する決まりでした。 「…………」  黙り込んでしまったクロード。  私はじーっと見つめます。 「イスラとゼロスはお仕事ですよ?」 「……わかっています」 「付いて行くのはダメですからね?」 「…………」 「クロード?」 「…………わかっています」 「よろしい。では明日は私と一緒にお散歩しませんか? 庭園に綺麗な花が咲いたんです」 「それなら、あしたはブレイラとおさんぽします!」  クロードが嬉しそうに返事してくれました。  良かった。これで明日は一緒に行きたいなんてことにはならないでしょう。  安心しましたが、話しを聞いていたゼロスが立候補します。 「ええっ、いいなあ~。僕もブレイラと散歩したい」 「お前は冥界の調査だ。冥王だろ」  ハウストが呆れた顔で言いました。  ゼロスは少し拗ねた顔になります。 「分かってるよ。最近書類仕事ばっかりだったから。……あ、そうだ! 父上、海に行こうよ! みんなで海に行きたい!」  ゼロスの突然のひらめき。  突然すぎるそれにハウストの眉間に皺が刻まれます。 「お前な、いきなりすぎだろ」 「だって最近ずっと政務とか調査とかばっかりだし」 「冥界を好きにふらついてるだろ」 「ふらついてるんじゃなくて視察! 僕はステキな冥王様なの、玉座に座ってんの。もう父上は~、分かってんの?」  心外だとばかりにゼロスが文句を言いました。  その様子に笑ってしまいましたが、そうですか海ですか。海はよいものですよね。私は泳げませんが大好きですよ。 「ふふふ、海ですか。ハウスト、海だそうですよ。ふふふ」 「……海がどうした」  ハウストがなんとも面倒くさそうな顔で私を見ました。なんですかその『……嫌な予感がする』みたいな顔は。  そんなハウストとは反対にゼロスは私の反応を見てグッと拳を握りしめています。「ヤッタ、海行き決定だッ」と。  気が早いですよゼロス、こういうのはちゃんとハウストにたしかめなければいけません。 「ハウスト、ハウスト」 「…………」 「私、あなたを呼んでますよ? ハウスト」 「…………なんだ」 「あのですね」 「いい、それ以上言うな」 「なにも話してないのにひどいじゃないですか。聞いてください」 「聞かなくてもわかる。自分も海に行きたいとか言うんだろ」 「そんなこと……ありますけど」  お見通しでしたね。  ハウストが仕方ない奴だな……と苦笑して私を見ました。でも鳶色の瞳は優しい色を帯びている。  私はね、その顔が大好きなんです。  私がワガママを言うのは、その顔が見たいからという気持ちもあるからなのですよ。もちろん教えてあげませんが。  今まで話しを聞いていたイスラがそういえばと口を開きます。 「次の四界会議は第三国の孤島だっただろ」 「……お前もその気になっていたのか」 「ブレイラが海に行きたいって言ってるんだ。行くだろ、フツウ」  当然のようにイスラが言いました。  そんなイスラにハウストがムムッと眉間に皺を刻みます。 「ハウスト、癖になってしまいますよ」  モミモミモミモミ。眉間を指でモミモミしてあげました。  するとハウストの眉間の皺もしだいに薄くなって、良かった、ステキな顔に元通りですね。 「……分かった。フェリクトールに調整させる。四界会議の期間中に一日くらい休みもあるだろ」  ハウストが少し呆れながらも了承してくれました。  これから予定の調整をお願いしなければなりませんが、今からその日が待ち遠しいです。 「ヤッタ~! みんなで海だ~!」 「良かったですね、私も楽しみです」  ゼロスと私は大喜びしました。  クロードも興奮した顔で拳を握っています。 「う、うみにいくんですか?」 「そうですよ、楽しみですね」 「はいっ」  そういえばと思いだす。クロードが海へ行ったのは赤ちゃんの時以来でした。さすがに覚えていないので、まるで初めて海へ行く気持ちなのでしょう。  お茶の時間は海のバカンス計画に盛り上がります。四界会議はまだ先なので気が早いかもしれませんが、楽しい話しは気が早くてもよいのです。  こうして楽しいお茶の時間は過ぎていくのでした。

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