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Episode1・クロードと二人のにーさま13
「これとこれと、あとこれも」
リュックにお出かけグッズを詰め込んでいく。
ハンカチ、着替え、植物図鑑、魔法陣図鑑、もしもの時のために薬品も忘れない。あとおやつのお菓子もだ。テーブルの焼き菓子を袋に詰めてリュックに入れた。これで完璧だ。
クロードはリュックを背負い、扉を少し開けて外を確認する。
誰もいない。行くなら今しかない。
でも。
「ブレイラ……」
小さく呟いてぎゅっと目を閉じる。
思い出すのは昨日のブレイラ。クロードの耳に顔を寄せ、内緒話をするように乗馬に誘ってくれた。
びっくりしたけれどクロードはとても嬉しかったのだ。
だって父上もにーさま達もお仕事の話しをしていて、クロードは静かに話しを聞いているだけだった。まるで仲間外れ。そんな時にブレイラが「クロード」と優しく呼んでくれたのだ。そうするとクロードは寂しくなくなって、胸がいっぱいになって、とっても暖かくなる。
ブレイラはいつもそう。
ブレイラはいつも側にいてくれて、手を繋いでくれて、たくさん話しかけてくれて、たくさん抱っこしてくれて、クロードを寂しい気持ちにしないのだ。
だから乗馬に誘ってくれて嬉しかった。嬉しかったけど、でも。
「っ、……ブレイラ、ごめんなさいっ……!」
クロードはダッと駆け出した。
廊下を駆け抜けて城外へ。
途中で訓練場の倉庫に忍び込むと訓練用の剣を手に取った。背中に括りつけて完璧だ。
本当は自由に武器を出現させるようになりたいけれど、クロードの魔力ではまだ出来なかった。
こうしてクロードは背中にお出かけリュックと剣を括りつけてにーさま達を探す。士官に訊ねるとどうやら二人は転移魔法陣がある広場に向かったようだった。きっとそこから冥界へ行くのだ。急げばまだ間に合う。
クロードは息を切らせながら全力で走った。
広場が見えてくるとそこに見慣れた姿。イスラとゼロスだ。二人は今にも転移魔法陣を発動しようとしている。
「まってください! にーさまたち、まって~~!」
クロードが走りながら呼びがけた。
するとイスラとゼロスが走ってくるクロードに驚いた顔をする。
クロードはひと安心。良かった、間に合ったのだ。
到着して呼吸を整えるクロード。
そんなクロードをゼロスがしゃがんで覗き込む。
「クロード、どうしたの?」
「わたしもいっしょにいきますっ」
「ええっ……」
ゼロスが驚きで目を丸めた。
腕を組んで見ていたイスラも眉間に皺を刻む。
しかしクロードは二人のにーさまに一生懸命お願いする。
「わたしもいっしょにつれてってください! おねがいします!」
「クロード……」
必死なクロードにゼロスは困ったように頭をかく。
ゼロスとしては連れていってあげたい気もするけれど……、どう思う? とイスラを振り返る。
「兄上、どうしよ。クロードこんなこと言ってる」
「冗談だろ」
「ハハッ、冗談だよね。クロード、残念だけど今日はお留守番」
「……いやですっ。いつもならつれていってくれるじゃないですか」
「その時は父上やブレイラも一緒だし、護衛もたくさんつくでしょ?」
ゼロスが説得したがクロードは拗ねてしまう。
でも今にも泣きだしそうな顔をしていて、ゼロスは苦笑してクロードの頬をツンツンした。
「そんな顔しないでよ」
「つれてってください」
「うーん、困ったなあ。兄上、どうする?」
「駄目だ。足手纏いだ」
イスラがきっぱり反対した。
創世期の冥界は気軽に遊びに行くような場所ではないのだ。
クロードもそんなことよく分かっている。分かっているけど、にーさま達と一緒に行きたいのだ。
クロードは少し恨みがましげな顔でイスラを見上げる。そして。
「……ブレイラはつれてったのに」
ぼそっと小声で言い返した。
クロードはイスラと目を合わせないようにしたまま続ける。
「ちちうえもごえいもいなかったのに、ブレイラが『おねがいします』っていったらイスラにーさまは『いいよ』って……」
「お前……」
イスラがじろりっと見下ろします。
イスラの眼力にクロードは怯みながらも勇気を振り絞る。
「ブレイラが『めいわくをかけてごめんなさい』っていったら、イスラにーさまは『おれがいるからだいじょうぶ』ってかっこよくいってた」
「…………。……見てたのか」
「みてた。めいかいはあぶないのに、ブレイラにはいいよって」
「………………」
沈黙するイスラ。
しゃがんで肩を震わせているゼロス。両手で口を抑えて必死に笑うのを耐えている。
五歳のクロードはブレイラと一緒にいる時間が長いのでいろいろ目撃するのだ。
「てんいまほうじんのまえで、イスラにーさまはニコニコしてブレイラとてをつないで」
「ああもう分かったっ。分かったからちょっと黙れっ」
イスラは頭を抱えて遮った。
人間の王である勇者イスラは歴代最強と名高い勇者で、勇敢さと強さと聡明さを兼ね備えた完全無欠のパーフェクト勇者である。……が、ブレイラには弱かった。
「兄上がニコニコっ……。プッ、アハハハハハハッ!!」
ゼロスが耐え切れずにとうとう噴き出した。
ゼロスも負けず劣らずのブレイラ大好きなのだが、今はいつも厳しい兄上のことなので笑ってしまう。
「ゼロス、なにが可笑しい」
「アハハハハッ! ご、ごめんなさいっ。でも、うぅっ」
ぎろりっと睨まれてゼロスは慌てて口を塞ぐ。
これ以上笑うと後でとんでもないことになりそうだ。必死で我慢だ。
こうしてゼロスを黙らせたイスラはまたクロードを見下ろした。
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