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Episode1・クロードと二人のにーさま18

「わあっ、ヒナだ。かわいい」  クロードはなんだか楽しくなって雛を見つめる。  こんにちはと挨拶するように手を伸ばそうとしたが、その時。  ピイイイイイィィィィィ!!!!  背後から鋭い鳥の鳴き声がした。  ハッとして振り返ると巨大な怪鳥。そう、ヒナたちの親鳥である。 「わっ、わあああ~!!」  怪鳥が猛烈な勢いで突っ込んでくる。  クロードは硬直して縮こまったが、…………予想した怪鳥の攻撃がこない。  おそるおそる振り向くと、怪鳥は襲ってくる寸前に方向転換していた。  不思議に思ったが、その理由はすぐに判明する。怪鳥はすぐ下にいるイスラを警戒していたのだ。  そう、イスラはひと睨みで巨大な怪鳥を竦ませてしまった。  怪鳥は本能的な恐怖に慄き、巣の近くを旋回していることしか出来ない。  イスラの鋭い声があがる。 「クロード、集中力を切らすな!」 「は、はいッ!」  クロードは飛びあがって返事をした。  すぐ下にいるイスラに叱られてしまったのだ。  クロードはまたも縮こまってしまうけれど、がんばって崖登りを再開する。  叱られて胸がぎゅっとしたけれど、これはクロードが悪い。クロードも分かっている。崖登りの途中なのにヒナを見つけて集中力を切らしてしまったのだから。  だから早く登らなければならないのに、崖にしがみ付く手がぷるぷるしてしまう。でも早くしなくちゃと焦って手を伸ばしたが。 「あっ」  クロードは目を見開いた。  手元の岩が崩れてクロードの体が宙に投げ出されたのだ。そして真っ逆さまに地上へ。 「わああああっ!! ぅぐっ!!」  クロードは転落したが、グイッ!! と衝撃がして急停止。  ぷら~んと宙にぶら下がる。そう、下にいたイスラが片手でクロードのシャツを掴んで受け止めたのだ。 「に、にーさま……」  クロードは受け止めてくれたイスラをおそるおそる見上げた。  イスラはクロードをじろりと見下ろし、次に近くを旋回している怪鳥に声を掛ける。 「驚かせて悪かったな。巣を荒らすつもりはない、すぐに去る」  イスラが怪鳥に向かってそう言うと、怪鳥はピイィィとひと鳴きして高い位置を旋回しだした。警戒を解いたのだ。  その様子にクロードは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。  怪鳥は巣にいるヒナを守りたいだけなのだ。クロードがヒナに近付いたから怪鳥を驚かせてしまった。 「……ごめんなさい」  クロードはぽつりと謝った。  そんなクロードにイスラはため息をつくと、ぶら下げているクロードを持ち上げる。 「クロード、俺の背中に移れ」 「でも……」 「グズグズするな。待たせる気か」  待たせてしまっているのは怪鳥とピヨピヨ鳴くヒナたち。イスラはこれ以上クロードを一人で登らせられないと判断したのだ。  それはクロードにとって悔しいことだけど……。 「……わかりました」  クロードは拗ねたい気持ちになったけれど、イスラの背中に乗り移ってぎゅっとしがみついた。結局おんぶだ。 「できました。おねがいします」 「落ちるなよ?」 「はい……」  クロードが返事をすると、イスラが絶壁を登っているとは思えぬ速さで登っていく。それに合わせてゼロスもあっという間だ。  今までにーさまたちはクロードのペースに合わせて登ってくれていたのだ。  こうして三人は絶壁の壁を一気に登り切って頂上に立つ。  クロードもイスラの背中から降りたけれど、顔をあげられずに俯いてしまう。 「……にーさま、ごめんなさい。ありがとう」  クロードはシャツをぎゅっと握って言った。  イスラが見下ろし、視線を感じてクロードは肩を竦めて縮こまってしまう。  そんなクロードにイスラがため息をついた。 「……もういい、次からは気を付けろ」 「はい……」  クロードがおずおずと顔をあげた。  イスラと目が合うと小さな唇を噛みしめてしまう。でもイスラの手がクロードの頭にぽんっと置かれた。 「崖登りまあまあだったぞ。途中までだったけどな」 「っ、にーさま! にーさまが『まあまあ』っていいました!」  クロードの沈んでいた表情が明るくなった。  イスラの『まあまあ』は褒めてくれる時のもの。クロードは弟だから分かるのだ。  ゼロスも笑顔で褒めてくれる。 「クロード、頑張って良かったね」 「はいっ」  まだにーさま達のように登れないのは悔しいが、やっぱりこうして褒められると嬉しくなるのだ。  笑顔になったクロードにゼロスは明るく笑う。 「兄上に怒られて泣いちゃいそうだった?」 「ないてません!」 「そお?」 「そうですっ!」 「分かった分かった。それじゃ行こうか」  こうして三人は崖の上に広がっていた森を進む。  道なき道にクロードは何度も躓きそうになったが踏ん張った。こんな所で一人で転ぶのはなんだか恥ずかしいのだ。 「あっ、あったあった。兄上、あそこに見える洞窟だよ」  そう言ってゼロスが鬱蒼と生い茂る木々を指差す。  クロードにはなにも見えなかったが、もう少し近づくとぽっかり開いた洞窟が見えてきた。 「まだ中には入ってないんだけど、前回玉座に座りに来た時に見つけたんだ」 「それ以前はなかったんだな?」 「なかった」  ゼロスの説明を聞きながら三兄弟は近づいていく。  だが、近づくにつれてゼロスが険しい顔つきになっていく。 「クロード」 「はい」 「僕か兄上から絶対に離れないでね?」 「は、はいっ……」  クロードは緊張感を覚えた。  ゼロスは洞窟を見据えていたのだ。  洞窟につくとゼロスは洞窟の地面を見て「やっぱり……」と厳しい顔になった。  クロードもそこを見て「あっ」と声をあげる。そこには焚き火の跡があったのだ。もちろん三兄弟には身に覚えのないものである。……ということは。 「に、にーさまっ、これってダメなんじゃないですか!?」  クロードは焦って声をあげた。  だってこれは冥界に侵入者がいるということなのだ。  創世期の冥界は特別な許可がなければ入ることを許されない。 「正解、これダメなやつだよ。密猟者かな? 創世期は希少な動植物だらけだから」  この焚き火から分かることは、冥界に密猟者が侵入しているということ。世界を隔てる強力な結界を突破して侵入するくらいなのだから、密猟者はそれなりの魔力を持っていると考えてもいいだろう。  ゼロスは焚き火の跡を調べだす。

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