23 / 133

Episode1・クロードと二人のにーさま23

「兄上も見てよ。クロードが可愛くしてる」 「イスラにーさま……」  クロードがおずおず見上げると、イスラがじろりと見下ろします。  その視線にクロードが緊張した顔になりました。  イスラは普段通りなのですが、末っ子のクロードから見ればイスラはとても大きく見えているのでしょう。それはただイスラが大人だからというだけの理由ではなく、存在感そのものがとても大きいのです。  そんなクロードにイスラがゆっくり手を伸ばす。指で前髪を斜めになぞって、最後におでこをなでなでされます。 「前髪伸びてたんだな。斜めだから気付かなかった」 「はい……」 「似合ってるぞ」 「はいっ」  一番上のにーさまに褒められてとても嬉しそうです。  クロードは撫でられたおでこを両手で押さえてくふくふ笑いました。  そして最後はハウストですね。  クロードは期待の眼差しで振り返ります。  気付いたハウストが面白そうに目を細めました。  するとクロードが嬉しそうに駆け寄っていく。 「ちちうえ、だっこです。だっこしてください」  クロードがだっことばかりに両腕を差しだすと、ハウストがひょいっと片腕で抱きあげました。  目線が高くなったクロードは瞳をキラキラさせて、見ている私まで嬉しくなりますね。  クロードはハウストにヘアピンが見えるように頭を振ってみせたりして、ちらっちらっと様子を伺っています。  近い距離で末っ子にじっと見つめられてハウストは苦笑しました。 「次代の魔王は随分可愛くされたな」 「……にあいますか?」 「ああ、よく似合っている」  ハウストは抱っこしているクロードの前髪を撫でると、次に私を見ました。 「ブレイラだろ」 「ふふふ、バレましたか」 「魔界の王族にこんなこと出来るのはお前くらいだ」 「次代の魔王さまはかわいい末っ子ですから」  そう言って私も「ね、クロード」とクロードに笑いかけました。  クロードは照れ臭そうにはにかむと、抱っこされたまま私に両腕を伸ばします。今度は私の抱っこを所望のようです。 「どうぞ、来てください」  両手を差しだすと私のところに移ってきた小さな体。  赤ちゃんの時より大きくなったけれど、まだまだ小さなクロードです。  まだ三歳の末っ子は父上と二人のにーさまに褒められてご満悦のよう。 「ちちうえもにーさまも、にあうっていってくれました」 「良かったですね。次の魔王さまは可愛いおしゃれさんです」 「ちちうえみたいなまおうになるんです」 「はい、クロードならなれますよ」 「はいっ」  クロードがかわいくはにかみます。  私も抱っこしているクロードに笑いかけ、ヘアピンで斜めに分けた前髪にそっと唇を寄せたのでした。  クロードがヘアピンをつけるようになって一週間が経過しました。  初めてヘアピンをつけてからお気に入りになったようで、クロードは花以外にも動物や昆虫のマスコット付きヘアピンを前髪につけています。今日も朝から可愛いヒヨコのヘアピンをつけていました。 「クロード、あちらに絵画が飾られているようです。行ってみましょう」 「はい」  今、私はクロードと一緒に王都にある歴史資料館に来ていました。  広大な敷地面積の歴史資料館を手を繋いで歩きます。  それというのも今日はクロードの宿題のお手伝いをするのです。  三歳になったクロードは専属講師による講義が始まりました。そのなかには魔界の歴史の講義もあります。なにごとも真面目なクロードは王都の歴史資料館へ行きたいと希望したのです。  しかし私やクロードは行きたいからといって公共施設にすぐに行くことは出来ません。交通規制や警備などでたくさんの人に影響するからです。  そこで定休日に特別に開園してもらい、私とクロードは貸し切りの歴史資料館を朝からゆっくり回っていました。 「王妃になる前にも勉強しましたが、こうして久しぶりに来ると改めて気付くことがたくさんあります」 「ブレイラもおべんきょうしたんですか?」 「はい、魔界の王妃になる前に勉強しました。私は人間なので知らないことがたくさんあるんですよ」 「おべんきょうしたから、まかいのおうひさまになれたんですか?」 「勉強したからというわけではありませんが、立派な魔界の王妃になるために必要だと思ったから勉強しました」  そう答えると手を繋いでいるクロードが照れながらニコニコします。  嬉しそうな様子に「どうしました?」と問うとクロードが繋いでいる手にぎゅ~っと力を込めました。 「ブレイラがおうひさまになってくれたから、わたしのブレイラです。ありがとうございます」 「クロード、なんて可愛いことを。あなたにそう言ってもらえるなんて王妃になって良かったです」  こうして私たちは仲良くおしゃべりしながら絵画展覧区域へ入りました。  この歴史資料館には文章資料の他に魔界の歴史を綴った絵画も飾られているのです。著名な画家たちによって描かれたそれは貴重な歴史資料として扱われていました。  展覧区域に入るとクロードの瞳が輝きます。 「わあ~、いっぱいあります。ブレイラ、こっちからです」 「はい、ここからですね。初代王の時代、初代魔王デルバート様……」  私は壁に飾られた絵画を見上げました。  そこには見知った男が描かれていました。初代魔王デルバート。  以前私たち家族とジェノキスが初代時代に時空転移したことで、謎とされていた初代時代について多くの真実が解明したのです。  レオノーラの存在は四界最重要機密として伏せられていますが、それ以外の史実は各世界の正式な歴史として刻まれ直しました。  この魔界の歴史資料館でも新たな史実として公開されています。  目の前にある初代魔王デルバートの肖像画もその一つ。以前は各世界において初代王は神話的存在の特別な王でしたが、時空転移した私たちが実際に会ってきたことで正式な肖像画とともに公開されるようになったのです。 「ブレイラ、わたしもあったことあるんですよね?」 「そうですよ。あなたはまだ赤ちゃんでしたが、初代時代であなたもデルバート様にお会いしています。あなたのご先祖様ですよ」 「わたしの」  クロードがじっと肖像画を見上げていました。  私もクロードと並んでデルバートを見つめます。  デルバートの遺体は今も城の地下深くの神域で安置されていました。初代王たちは四界の結界の礎なのです。その礎は今も深海にいるレオノーラを封印するものでした。

ともだちにシェアしよう!