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Episode1・クロードと二人のにーさま24

 こうして初代時代を描いた絵画をゆっくり見て回ります。  初代時代から始まって、次代から次代へと繋がっていく。それは魔界の継承の歴史です。  十万年にもおよぶ魔界の歴史を私とクロードは鑑賞し、やがて当代魔王ハウストの時代になりました。  当代魔王ハウストは先代魔王に叛逆して玉座を継承した魔王です。ハウストは救世の王として歴史に名を刻まれ、その叛逆戦争の模様も絵画に残されていました。 「これ、ちちうえですか?」 「そうですよ。これは叛逆戦争の頃のハウストです」 「ちょっと……わかい?」 「ふふふ、たしかに今よりちょっと若いですね」  顔立ちが今より若々しくて、ちょっと野性的に感じるのは叛逆戦争の真っ只中だからでしょうか。  今の大人の魅力たっぷりのハウストもステキですが、この若いハウストもステキです。どちらかを選ぶなんてできませんね。 「ちちうえ、かっこいいです」  クロードの前には叛逆軍を率いるハウストの絵がありました。  クロードは瞳を輝かせてハウストを指差します。 「このときのちちうえは、どんなだったんですか?」 「この時のハウストは……」  答えようとして言葉が出てこない。  ……叛逆時代のハウスト。この時期、私はハウストから貰った勇者の卵とともに山奥でひっそり暮らしていました。当然ながらハウストとの接触はありません。  でも彼がどんな若者だったのか知らないわけではないのです。以前ハウストの記憶が叛逆時代に戻ったことで、私は彼に環の指輪を返上して一度お別れしていますから。だからこの時代のハウストがどんなふうだったか想像できないわけではないのです。ないのですが……。 「秘密です。でも今も昔も魔界を愛していることは変わっていませんよ」  とりあえずそう答えました。  嘘ではありませんよ、実際ハウストは魔族のために先代に叛逆したわけですからね。  こうして時系列順に飾られた絵画を見ていると、少しして魔界で暮らしている私とイスラが出てきました。 「あ、ブレイラとイスラにーさまです!」 「ふふふ、そうですね。この頃はまだ魔界で暮らし始めたばかりの頃でしょうか」  私とハウストが恋人になったばかりの時期でしょうか。あどけないイスラの顔に懐かしさがこみあげます。  イスラの絵は私との日常や、他にも戦闘中の鬼気迫るものまでありました。イスラの子ども時代は世界が三界から四界へ移っていく過渡期で、イスラは幼い頃から勇者としてたくさんの修羅場を越えているのです。 「あっ、つぎはゼロスにーさまがでてきました。あかちゃんです」 「これはお披露目式典の時の絵ですね。この時のことはよく覚えています」  思い出して口元が綻びました。  お披露目式典では、人間の私がたくさんの魔族に魔界の王妃として受け入れられたのです。私を祝福してくれた大歓声や拍手は今も心の奥に鮮明に残っています。 「あ、わたしです! あかちゃんのわたしがいます!」  クロードが嬉しそうな声をあげました。  ようやく末っ子クロードの登場ですね。イスラは十五歳、ゼロスは三歳の頃でした。 「ここから全員揃うんですね。家族五人です」 「ちちうえとブレイラとイスラにーさまとゼロスにーさまとわたしです」 「ふふふ、そうですよ」  私も絵画を見つめます。  そこにはサロンで過ごす家族五人の風景が描かれていました。  ソファに座ったハウストの隣に私がいて、向かいのソファではイスラが紅茶を飲んでいます。床に敷いたふわふわのラグでは三歳のゼロスと赤ちゃんのクロードが積み木遊びをしていました。それは家族の穏やかな日常風景。  そんな家族の絵もたくさん飾られています。 「ふふふ、クロードは赤ちゃんの頃からゼロスにたくさん遊んでもらっていたんですよ? 覚えてますか?」 「……ちょっとだけ」  クロードが照れながら答えました。  赤ちゃんの頃から今も変わらずゼロスによく構ってもらっているので自覚はあるようです。 「ブレイラ、みてください。わたし、おもちゃばこにはいってます」 「あなたが赤ちゃんの時、ゼロスとこれでお散歩してたんですよ。仲良しですね」  クロードが見ていたのは、城の庭園を三歳のゼロスと赤ちゃんのクロードが散歩している絵でした。もちろんクロードはおもちゃ箱に入っています。  なんだか懐かしいですね、甘えん坊ゼロスと怒りん坊クロードはとっても仲良しでした。  私はほのぼのした気持ちになりましたが。 「あ、ゼロスにーさま、わたしのことツンツンしてます」 「ああ、ゼロス……」  次の絵を見ると、クロードのふっくらしたほっぺをゼロスがツンツンしている絵。楽しそうなゼロスととても迷惑そうな顔をしているクロードでした。  こうして私たちは穏やかな日常風景を見ていましたが、そこに戦闘風景も混じりだします。ハウストやイスラはもちろん、三歳のゼロスも剣を握って戦う姿が描かれていました。 「すごいです。にーさまたち、かっこいい」  クロードはキラキラした憧れの眼差しで絵を見ていましたが、しばらくして。  …………。  ………………クロード?  クロードの様子がおかしいような……。  クロードの瞳はさっきまでキラキラ輝いていたのに、絵を見るにつれて瞳に複雑な色が混じりだしたのです。しかも小さな唇をきゅっと噛み締めて、小さな体がぷるぷるしているような。 「クロード、どうしました? なにかありましたか?」 「…………も、もういちどみてきます!」 「えっ、クロード!?」  クロードがダッと駆け出して、もう一度絵を見直しています。  クロードが食い入るように見ているのは、子どもの頃のイスラが先代魔王と戦っている絵でした。  そこに描かれているイスラは、まだ幼いながらも剣を握って勇ましく立ち向かっていました。  私は困惑しながらも後ろに立って、ぷるぷるしているクロードの背中に話しかけます。

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