28 / 133
Episode1・クロードと二人のにーさま28
「イスラにーさま、おしえてください。わたしはなにをすればいいですか?」
クロードが期待を込めてイスラを見つめた。
キラキラ瞳のクロードにイスラはたじろぐ。
「クロードも、したいのか……?」
「したいです!」
クロードは意気込んだ。
自分だって勇者と冥王の弟、なにがなんでもお手伝いをしたいのだ。
「……そうか。それならクロードはお」
「『お』なんですか!?」
期待の復唱。
イスラはますますたじろいでしまう。
しかしクロードの期待は最高潮に高まっていく。
勇者と冥王の弟として恥ずかしくない役割がしたい。それが達成できればきっと、きっともっと自信が持てるはず。そうすれば誰になにを言われても平気でいられるはずなのだ。
そしてイスラから役割りが命じられる。
「クロードは…………応援の担当を頼みたい」
「ッ!? ……お、おうえんの……たんとうさん? わたし、おうえんの……」
クロードは愕然とした。
『おうえんのたんとうさん』
それはクロードの家では赤ちゃんが担当する役目なのだ。
「ど、どうしてですかっ。わたし、あかちゃんじゃないのにっ……! あかちゃんじゃないのに、どうして、どうしてっ……!」
嘆くクロードにイスラは居心地悪い顔になる。
クロードの期待を裏切った自覚はあるのだ。だが密猟者捕獲は遊びじゃない。
「どうしてって、当然だろ。今のお前になにが出来るんだ」
「ぐっ……」
クロードは唇を噛みしめる。
イスラの言葉にショックを受けたのだ。なぜなら、それはクロード自身も分かっていることだから。……認めたくないけど、分かっていることだから。
「う、うぅ~~っ……」
クロードは唇を噛みしめてぷるぷるした。
視界がじわじわ滲むけれどグッと堪える。ここで泣くのはもっと赤ちゃんだ。
そうやってイスラとクロードが対峙していたが、それを見ていたゼロスが苦笑して口を挟む。
「クロード、応援の担当さんは嫌だったの?」
「いやですっ。あかちゃんですっ……、グスッ」
「前はクロードだって上手に応援の担当さんしてたのに」
「それはあかちゃんのときですっ……」
ゼロスも説得してみたがクロードが聞き入れる様子はない。
クロードだってワガママは承知だ。でもイスラから応援の担当さんを命じられても断固として拒否するつもりなのだ。
「許すわけないだろ。クロードはここで応援の担当だ。洞窟には防壁魔法を張っておく、絶対にここから出るなよ」
「ええっ、それっておるすばんってことじゃないですか!」
クロードは声をあげて言い返した。
しかしイスラがぎろりっと視線を向けると、クロードは「うっ……」と唇を噛みしめる。
にーさまに怒られるのはやっぱり怖いのだ。
そんな長男と三男のやり取りに、次男は「まあまあ」とまた苦笑して説得する。
「クロードもわがまま言わないの。兄上の防壁の中にいれば安心だよ? 冥界で一番安全な場所になる」
「そうですけど、そうですけど、いやですっ。おるすばんはいやですっ」
「留守番じゃないって応援の担当さん」
「それがいやなんです!」
クロードがプンプンで言い返した。
説得失敗の次男は「わかったわかった」と宥めると、次は長男を振り返る。
「兄上、クロードは留守番は嫌なんだって」
「おうえんのたんとうさんもです!」
「応援の担当さんも嫌なんだって」
すかさず付け足すクロードとゼロス。
イスラの目が据わっていく。
「生意気だな」
「い、いやなものはいやです」
プイッ。クロードはそっぽ向く。
断固拒否である。
幼い弟の生意気な態度にイスラはイラッとした。が。
……態度は生意気でも涙目でプルプルしている。強気なのにプルプルのクロード。
そんな一番下の弟にイスラは眉間の皺を指で揉んだ。
「……たくっ、お前は……」
思えば赤ちゃんの時から妙に生真面目で妙に強気な怒りん坊だった。でも怖くなると両手で顔を覆って隠れてしまって……。しかしハウストやイスラやゼロスが一緒だと気付くとまた急にプンプン強気になる。そんな面倒くさい赤ん坊だ。
そして、イスラだってそんな年の離れた弟を可愛いと思う気持ちはあるのだ。
「…………分かった。留守番は免除してやる」
「ほ、ほんとですか!? イスラにーさまありがとう! それじゃ、おうえんのたんとうさんも!?」
「それは駄目だ。応援の担当してろ」
「ええっ……」
クロードは不満を訴えようとしたが、その前に。
「妥協できるのはここまでだ。それが嫌なら魔界に強制送還させるぞ」
「うぅっ、……わかりました。おうえんのたんとうさん……がんばります」
魔界に強制送還、それを言われたらクロードも折れるしかない。
こうして密猟者の探索が始まる。
クロードも二人のにーさまと一緒に洞窟を出た。今から密猟者を探すのだ。
ともだちにシェアしよう!