29 / 133
Episode1・クロードと二人のにーさま29
三人は南西の方向に向かって歩く。
クロードは五歳だが魔界の城でしっかり勉強しているので方角が分かるのだ。
洞窟を出発する時も太陽の位置を確認して正確な方角を当てて見せた。
「にーさまたち、なんせいはあっちです!」
「おお~、クロードすごいすごい」
「よく勉強してるな」
「はい、とうぜんです。りっぱなまおうはなんせいがわかるんです」
クロードは誇らしげに言った。
父上のような立派な魔王になるために日々勉強しているのである。
そんなクロードの頭上でイスラとゼロスは面白そうに笑っていたが、もちろん二人は褒める以外のことはしない。役に立ってます! と必死にアピールする一番下の弟をちゃかすことはしないのだ。
三人は森の小道を慎重に進んでいく。
密猟者が何人いてどこにいるか不明だった。出来ることならいきなり出くわしてしまうよりも、先に密猟者の情報収集をして一網打尽にするほうが確実なのである。密猟者を一人も逃がすつもりはない。
「あ、ゼロスにーさま、これはじめてみました。しんしゅです」
ふとクロードが見慣れない花を見つけてゼロスに知らせた。
創世期の冥界では他の世界では見ることができない新種の動植物が多く生息しているのだ。
「ほんとだ。よく見つけたね。あとで研究室に送っとかないと」
「わたしはよくみてるので、ちゃんとみつけられるんです」
「ハハッ、えらいえらい」
クロードの『わたしもできるんです』アピールにゼロスは笑って褒めた。
気分が良くなったクロードはもっと探そうときょろきょろしながら進み、気が付けばあっという間に目的地についていた。
ゼロスが周囲を警戒する。
「この辺りかな。クロード、新種探しは終わりだよ。ここからは密猟者探しだからね」
「はいっ」
クロードは気合いを入れて返事をした。
だがイスラが腕を組んで訂正する。
「お前は密猟者を探す俺たちの応援だ。間違えるな」
「…………」
「返事は?」
「……はい」
クロードは渋々返事をした。
面白くないが魔界に強制送還は嫌なのだ。
五歳で応援の担当さんは屈辱だが、与えられた役目はしっかりこなさなければならない。
「……にーさまたち、がんばれ」
律儀にもちゃんと応援するクロード。
変なところで生真面目な末っ子だった。
「兄上、密猟者が潜伏するならあの崖の近くにある洞窟と、ここから先の滝の裏にある洞穴が可能性高いんじゃないかな」
「そうか、なら俺が滝の方を見てくる。お前はそっちの洞窟だ」
「分かった。クロードは僕とおいで。滝の方は隠れる場所がなくて危ないから」
「わかりました」
こうしてイスラは一人で滝へ、ゼロスとクロードは崖の洞窟へ行くことになった。
クロードは滝の方に向かって歩いていくイスラを見送ろうとしたが、その前に。
「イスラにーさま、まって!」
「なんだ」
「がんばってください! おうえんしてます!」
クロードは五歳だけど、将来は立派な魔王になるのできっちり役目を果たすのだ。
クロードの律儀な応援にイスラは苦笑するしかない。
「ああ、分かった」
イスラは片手をあげてそう答えると滝がある方に向かって歩いて行った。
見送ったクロードは張り切ってゼロスに向き直る。
「ゼロスにーさま、はやくいきましょう。みつりょうしゃがにげるかもしれません」
「そうだね、それじゃ僕についてきて。気配殺せる?」
「できます。おけいこでできるようになりました」
「えらいえらい。じゃあ一緒に行けるね」
ゼロスが歩きだして、クロードもその後についていく。
クロードはなんだか嬉しい。
クロードが今までお稽古を頑張っていたから気配を殺せるようになって、こうして一緒に行くことを許してもらえたのだ。
気配を殺して慎重についていく。
小高い丘に登ると、そこからは洞窟が見下ろせた。
二人は木陰に隠れて洞窟を監視する。
「にーさま、あそこですか?」
「そう、あの洞窟。入口は狭いんだけど中は結構広いんだよね」
ゼロスとクロードが監視していると、少しして森から二人の男が洞窟に帰ってきた。やはりアジトに使っていたようで中に入っていく。
「にーさま、あいつら……」
「うん、やっぱり密猟っぽいな」
ゼロスは洞窟を見ながら答えた。
密猟者は複数人いる。しかもさっきいたのは人間と精霊族の男だ。おそらく冥界に侵入したのは、人間と精霊族と魔族が入り混じった広域密猟団だと思っていいだろう。
「にーさま、どうしますか? つかまえますか?」
「捕まえる前に正確な人数を把握しておきたい。できれば一気に捕まえたいから」
「それじゃあ、ぜんいんがどうくつにかえってくるのをまつんですか?」
「そういうこと。もっと近くに行ってみようか。ここからじゃよく見えないから」
「はい」
「ぼくから離れないようにね」
「はい」
「応援もよろしく」
「ゼロスにーさま、がんばれ」
「アハハッ、やる気でた」
ゼロスが笑って言うとクロードは少しムッとする。
こっちは真剣なのにどうして笑っているか分からない。
「なんでわらうんですか」
「ごめんごめん、おこんないで。ほら、近づくからシ~ッ」
「あ、そうだった」
クロードは慌てて口を両手で覆った。
先ほどより洞窟に近づいたのだ。声が聞こえてしまうかもしれない。
また木陰に潜んでいると少しして五人の男が洞窟に帰ってきた。これで七人。しかし密猟団はさらに多いと見ていいだろう。
密猟団が組織化されているなら厄介である。だがゼロスは見逃していない。先ほど帰ってきた五人の中にリーダー格らしき男がいた。組織化されているならリーダーを捕えれば組織ごと壊滅させられる。
ともだちにシェアしよう!