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Episode1・クロードと二人のにーさま30
「クロード、僕ちょっと行ってくる」
「え、どうするんですか?」
「今から洞窟を制圧する」
「ええっ! ほかのみつりょうしゃがかえってくるのをまたないんですか?」
当初は密猟者の人数を把握することが最優先だった。
しかし組織化されているなら話しは別である。組織壊滅が最優先になるのでリーダー格を捕獲して芋づる式に組織壊滅を狙うのだ。
「まずリーダーを押さえる。密猟団組織を壊滅させれば下っ端は散り散りになるから、あとは捕まえるだけってね。そっちの方が手っ取り早いんだ」
「さくせんへんこうですか?」
「そう。その場のノリってこういうこと。洞窟を制圧して特殊工作魔法陣を仕掛けとこうと思って。そうすれば帰ってきた下っ端もそれに引っかかるでしょ」
「なるほど! それじゃあ、わたしもおてつだいします! わたし、とくしゅこうさくまほうじんならべんきょうしました!」
クロードは意気込んでぎゅっと拳を握った。
クロードは魔法陣の勉強もしているので特殊工作魔法陣を描けるのだ。
しかし、こうして隙あらばお手伝いしようとするクロードに、ゼロスは「あー……」と困ったように目を泳がせてしまう。
「……クロード、特殊工作魔法陣の勉強したの?」
「しました。ほかにもいっぱいしました。かんぺきにおぼえてます」
「頑張ってるんだね」
「はい、だからわたしにまかせてください」
「そっか……」
ゼロスは頷きつつも内心頭を抱える。
ゼロスとしては手伝わせてあげたい気持ちもあるのだ。なにせ自分も幼い時は応援の担当さんを断固拒否していたのを薄っすら覚えている。断固拒否で父上や兄上を困らせたのだ。
でも今、あの時に困らせていた父上や兄上の気持ちが少しだけ分かった気がした。
ゼロスは改めてクロードに向き直る。
「クロード」
「なんですか?」
「今日は応援の担当さんだったでしょ? だからさ、今回は応援を頑張ってほしいんだよね」
「ッ!? ゼロスにーさままでっ」
クロードはショックを受けた。
ゼロスと行動することが決まって、もしかしたらと期待していたのである。
それというのもクロードにとってイスラは物心ついた頃から少し遠い存在だ。イスラにーさまは可愛がってくれるがそれは完全に子ども扱いしたものなのである。そしてクロードからしてみてもイスラは大人なのだ。
それに比べてゼロスの方はまだ近しい存在だ。物心つく前からよく構ってくれていたようで、何かにつけて一緒に連れてってくれる。なによりイスラよりゼロスの方がクロードを甘やかしてくれるのだ。
だからゼロスにーさまならどさくさ紛れにいろいろ許してくれるかもしれないと思っていたのだが……。
クロードはぎゅっと眉間を寄せる。
「……わたし、おうえんのたんとうさん……?」
「がんばれそう?」
「…………はい」
渋々ながらも頷いたクロード。
ゼロスはほっとしていい子いい子と頭を撫でてあげた。もちろんセットされた前髪は崩さないように気を付けながら。
ゼロスはクロードの足元に防壁魔法陣を発動させた。ここにいればクロードは安全である。
「そこから出ないようにね。そこは今、冥界で二番目に安全な場所だから」
「いちばんはイスラにーさま?」
「正解、やっぱ強いんだよね~。悔しいけど手合わせで一度も勝てたことない」
「……」
ゼロスが勝てないなら自分なんて永遠に勝てないのでは……。クロードはなんとなくそんなことを思ってしまう。
イスラもゼロスもクロードにはやっぱり遠かった。
「いってらっしゃい、ゼロスにーさま。がんばってください」
「応援ありがと。頑張ってくるからね」
ゼロスはひらひら手を振って洞窟に向かって歩いていく。
そして洞窟に入っていったかと思うと、少しして……。
「何者だテメェ、この、グハァ……!」
「一人で特攻なんていい度胸して、ゴホォッ!!」
「ギャーーー!!」
「グアアアッ!!!!」
洞窟から密猟団の悲鳴が響いてきた。
ゼロスはあっという間に制圧を完了させたのだ。あとは特殊工作魔法陣を仕掛け、まだ帰ってきていない密猟団を捕縛すれば終了である。
クロードは身を潜めてゼロスが戻ってくるのを待っていたが、ふいに。
ピヨピヨ、ピーッ、ピーッ!
ピーー!
ピヨピヨッ!
小さな鳥の鳴き声が聞こえてきた。
しかも危機を知らせるかのように甲高く鳴いている。
「ど、どうしたんだろ……」
突然のそれにクロードは困惑した。
小鳥の鳴き声はとても必死なもので、無視できるそれではなかったのだ。
「なにかあったのかな……」
クロードは確かめに行こうとしたが、その足が止まる。
今クロードがいる場所はゼロスの防壁魔法陣の中。
どこに密猟団が潜んでいるか分からない中で、今ここは冥界で二番目に安全なのである。この魔法陣を出るということがどういうことか分からないクロードではない。
しかし。
ピー! ピー!
小鳥の鳴き声が激しくなっていく。
やはりなにか起きているのだ。
「…………。……イスラにーさま、ゼロスにーさま、ごめんなさい!」
クロードは防壁魔法陣から駆け出した。
二人のにーさまから応援の担当さんを任されていたけれど、担当さんをちょっとお休みだ。
クロードは小鳥の鳴き声に近付いていき、木陰からそっと覗き込む。
「ッ!」
目にした光景に声をあげそうになって、慌てて両手で口を塞いだ。
そこにいたのは人間と魔族と精霊族の男が五人。そう、密猟団だったのだ。
男たちが見上げる崖の上には怪鳥の巣があり、そこにはピヨピヨと助けを求めるヒナたち。密猟団は怪鳥のヒナを狙っているようだった。
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