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Episode1・クロードと二人のにーさま31

「怪鳥のヒナか。高く売れそうだな」 「冥界産なら尚更だ」 「楽しみだぜ、さっさと捕まえようぜ」 「おい、見ろよ。親鳥が突っ込んできたぞ」  ピイイィィィィィィィ!!  上空から甲高い鳥の鳴き声がした。  クロードもハッとして見上げると、大型の怪鳥が地上の密猟団を目掛けて突っ込んでくる。親鳥がヒナの危機を察知したのだ。  その光景にクロードはほっとした。親鳥が守ってくれるならヒナは大丈夫、きっと密猟団をやっつけてしまうはず。  しかしクロードの期待は外れてしまう。  男たちがいっせいに呪縛魔法陣を発動したのだ。 「オラッ! 鳥の分際でいい度胸だぜ!」 「そんなにヒナと離れたくないなら一緒に売っぱらってやるよ」  ピギャアアアアア!!  怪鳥の悲鳴のような鳴き声が響いた。  巨大な翼を呪縛魔法に囚われて地上に墜落してしまったのだ。  親鳥は呪縛魔法に囚われながらも翼をばたつかせ、巣に残されたヒナたちを助けようとする。  本来なら冥界の怪鳥を捕えることは難しいことだったが、この密猟団は冥界に侵入しただけあって戦闘力が高い者たちが多かったのだ。 「そ、そんなっ……。どうしよう、どうしようっ……」  クロードは青褪めた。  絶望的な状況だ。このままだと親鳥もヒナも密猟団に囚われてしまう。  このままじゃダメなのに、クロード一人ではなにも出来ない。  クロードはゼロスがいるはずの洞窟を振り返った。ゼロスにーさまが来てくれたらすぐに助けられるのに、にーさまはまだ来ない。  次にイスラがいる滝の方を振り返った。イスラにーさまが来てくれたらあっという間に解決するのに、にーさまはまだ来ない。  こうしている間にも密猟団は崖を登り始めた。巣ごとヒナを手に入れるつもりなのだ。  接近する密猟団にヒナたちの鳴き声が大きくなっていく。そして男が巣をまるごと掴んだ、その時。 「――――そ、そそ、そんなことしちゃダメです!!」  クロードはたまらずに飛び出していた。  とっても怖かったけれど、足はプルプル震えているけれど、自分より弱いヒナたちを見過ごせなかったのだ。 「なんだこのガキっ」 「なんで冥界にガキがいるんだ!」  突然の幼児の登場に密猟団は驚きを隠しきれない。当然だ、ここは一般人立ち入り禁止の冥界なのである。幼児が一人でいるはずがない場所だった。  でもこれはチャンスである。  密猟団が驚いている隙にクロードは落ちていた小枝を拾うと地面に素早く魔法陣を描く。魔法陣は何度も予習復習したのでしっかり覚えているのだ。 「えいっ!」  クロードは描いた魔法陣に魔力を送った。  すると魔法陣が発光してポンッ、ポンッ、ポンッ、小さな火球が出現する。クロードの火炎攻撃魔法。  小さな火球はぴゅーっと飛んで崖を登っている男たちに纏わりつく。 「アチッ、アチチッ、なんだこれっ……」 「クソッ、離れねぇ! アチチッ」 「うわっ、アチッ! 地味にうぜぇ!」 「しつけぇ火球だな!」  密猟団がふよふよ飛んで纏わりつく火球を邪魔そうに払う。  でもその時、火球を払った男の手が当たって鳥の巣が崖から落下した。 「わあああっ! た、たいへんです……!」  クロードは咄嗟に走って落下した鳥の巣をキャッチする。  クロードの両腕で抱っこした鳥の巣にほっと安堵した。良かった、ヒナたちは全員無事だ。  だが安心したのは束の間、火球を払った密猟団がクロードに激怒した。 「てめぇ、なにしやがる!」 「ガキを捕まえろ!!」 「このガキも売り払っちまえ!!」  密猟団の怒号にクロードはハッとし、「に、にげなきゃ!」とすぐに逃げだした。  密猟団も崖から飛び降りてクロードを追いかけてくる。  クロードは鳥の巣を抱いて冥界の森を走った。  もし密猟団に捕まったら大変なことになる。きっともう魔界の父上とブレイラのところに帰れない。  それは絶対に嫌だ。にーさま達と一緒に魔界の父上とブレイラのところに帰るのだ。 「うぅ、にげなきゃっ。にげなきゃ……!」  背後からは密猟団の気配。それは徐々に近づいてきて、緊張と恐怖にクロードの心臓がバクバク鳴る。 「待て! ガキが逃げられると思っているのか!」 「ガキ一人だっ、絶対逃がすな!」 「ちょろちょろしやがって、回り込め!!」 「うぅっ……」  背後から密猟団の怒号が聞こえてくる。  恐ろしい大人の怒号にクロードの顔は恐怖で引きつり、体が強張ってしまいそうだ。だって、クロードは今までこんなふうに怒鳴られたことも追いかけられたこともない。  赤ちゃんの頃から魔界の城で育ったクロードは、物心つく前から父上とブレイラとイスラとゼロスに囲まれていた。ブレイラはどんな時も抱っこしてくれて、クロードが拗ねてもプンプンしても優しく慰めてくれるのだ。クロードは赤ちゃんの時から常に家族が側にいてくれて、一人になることはなかった。  怖くて足がプルプルしているけれど、……ピヨピヨ。腕の中でヒナが鳴いている。 「だいじょうぶっ。わたしがちゃんとまもってあげますっ……」  クロードはヒナたちに話しかけた。  このヒナはクロードが守ってあげるのだ。  クロードは草木が生い茂った森を走っていたが、その時。 「あうっ! ……うぅ、いたい~っ……」  躓いて転がった。木の根に足を引っかけて転倒したのだ。  クロードはプルプルしながら顔をあげた。  打ち付けた膝と腕がジンジンして痛い。でも今はそれよりも。 「だいじょうぶ?」  ピヨピヨ。  抱えこんだヒナたちの鳴き声。良かった、無事だった。  転んだ時に咄嗟に抱えて守ったのだ。  クロードはよろよろしながらも起き上がる。今は早く逃げなければいけない。  しかし密猟団の怒号が近づいてきていた。  また走り出したとしても、相手は大人なのできっとすぐに追いつかれて捕まってしまう。  クロードは迷ったが、震える手をぎゅっと握りしめる。  きっと逃げても追いつかれるだろう。でも追いつかれても捕まらなければいいのだ。ならば。  クロードは小石を拾うと地面に急いで魔法陣を描いた。  少しして密猟団の男たちがクロードを見つける。 「いたぞ、そこだ!」 「世話かけやがってっ、このクソガキがっ!」  そう声を荒げながら密猟団が近づいてくる。  草木を荒々しく掻き分けて男がクロードに向かって踏みだしたが、瞬間、地面から光が放たれる。 「う、うわああっ! トラップだ!!」  男の足元で魔法陣が発光し、地面から木の根が伸びて男の足を絡めとった。  クロードの特殊工作魔法陣である。 「ひっかかりましたね! わたしのトラップです!」 「ガキのくせに小賢しい真似しやがって!」 「クソッ、こっちにもトラップだ!」  密猟団は怒鳴りながら足に絡みつく木の根を払う。  しかし今のクロードの魔力でできるトラップはここまで。男たちはトラップを潜り抜けてしまった。  一人の男がクロードを捕まえようと手を伸ばしたが。 「えいいっ!」 「うわああっ!」  バチッ! 男の手が弾かれた。  捕まる寸前、クロードは防壁魔法を発動したのだ。  そう、特殊工作魔法陣は時間稼ぎだったのである。防壁魔法陣の中に入ってしまえば魔法陣が破られない限り捕まらない。

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