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Episode1・クロードと二人のにーさま32

「おまえたちなんかに、ぜったいつかまりませんっ……!」 「クソッ、防壁魔法か。舐めた真似を」 「それで籠城したつもりか?」  特殊工作魔法陣から脱出した他の男たちも歩いてきた。  クロードは防壁魔法陣の中でごくりっと息を飲む。  密猟団は五人。魔法陣を囲むようにして立ち、ニヤニヤとクロードを見下ろしていた。 「おもしれぇ、まずは俺からだ」  男はそう言うと攻撃魔法を発動した。  激しい炎がクロードに襲いかかる。  防壁魔法で防御できたが、クロードは油断せずに魔法陣を強化した。  密猟団たちは余裕の顔で笑っているのだ。まだ試されている段階である。 「ガキにしては悪くない防御だ」 「やはり普通のガキじゃねぇみたいだな」 「そりゃそうだろ。こんな所にいる一般人がいるかよ」 「どこのお貴族様か知らねぇが、とっ捕まえて売ってやる」  男はそう言うと火炎攻撃魔法の威力を上げた。  クロードは歯を食いしばると防壁魔法をさらに強化する。まだ大丈夫、まだ耐えられる。  だがそんなクロードを面白がるように他の男も攻撃魔法を発動した。 「オラッ! これで二倍だ! どこまで耐えられるか試してやる!」 「くっ、うぅ……!」  ズンッと威力が増した。  クロードは歯を食いしばって耐える。  だが、ピシリッ……!  防壁の壁にピシリッと亀裂が走った。 「わ、わあ~っ! えいっ!」  クロードは慌てて魔力を送って補強した。  亀裂は塞がれて元に戻ったけれど、男たちはニヤニヤしながらクロードを見ている。 「どうやら限界が近いみたいだな」 「なんだここまでか、たいしたことねぇな」 「ガハハッ、全員で仕掛けたら吹っ飛んでくんじゃねぇか?」 「おいおい、こんなガキに可哀想なこと言うなよ」 「そうだ、ケガさせんなよ。高く売れなくなる」  そう言いながら全員が魔力を高める。  それを見てクロードは全身の血の気が引いた。 「そ、そんな……」  今でも精一杯の魔力を使っているのに、全員にいっせいに攻撃されたら防壁魔法は破られてしまう。  クロードは青褪めながらも神経を集中する。  足がプルプルして逃げ出したかったけれど、ここに逃げ場所はない。立ち向かうしかないのだ。  男たちは攻撃魔法陣を発動した。猛烈な火炎がクロードに襲いかかる。 「オラアアア!!」 「ガキが、そろそろ観念しやがれ!」 「くっ、うああっ……!!」  ピシッ! ピシピシピシピシッ……!  防壁に亀裂が走り、それが魔法陣全体に広がっていく。  防壁を弾き飛ばすような威力にクロードの限界が近づいてくる。  でも、ピヨピヨ。ピヨピヨ。ヒナたちが鳴いている。  このヒナたちはクロードよりも弱いから、クロードが守ってあげなきゃダメなのだ。  クロードは息もたえだえになりながらヒナたちに話しかける。 「だ、だいじょうぶです。このなかは、めいかいで……くっ、さんばんめに、あんぜんなんです。だからっ……!」  そう、今冥界に父上と精霊王はいないので、実質的に一番強いのはイスラ。次はゼロス。その次はクロードでなければならない。  だからここは三番目に安全な場所でなければならないのだ。 「っ、えいいいっ!!」  クロードは魔力を振り絞った。  瞬間、――――ドオオンッ!!  凄まじい衝撃音。防壁魔法が爆発的に膨らんで男たちをいっせいに弾き飛ばしたのだ。 「……はあ、はあ……。……やった、やったぁ……! わたしが、やっつけたんだっ……!」  クロードの強張っていた顔がみるみる明るくなっていく。  自分一人でやっつけたんだという興奮で全身がプルプルした。  クロードはプルプルする手をぎゅっと握りしめる。  覚醒したわけじゃないけれど、でも冥界で三番目に強い防壁魔法を発動することができたのだ。  クロードはヒナたちを両腕に抱っこした。  嬉しそうにピヨピヨ鳴くヒナたちに口元が緩む。クロードが守ってあげたのだ。 「よかったです。ちゃんとかえしてあげますからね」  ピヨピヨ。  クロードはヒナたちの親鳥のところに行こうとしたが、その足がピタリと止まる。 「ぐっ、ッ……このガキがっ」 「クソッ、調子に乗りやがってっ……!」  地面に転がっていた男たちがよろよろと起き上がった。  男たちは今までにない怒気を纏い、クロードをぎろりっと睨み下ろした。 「そ、そんな……。やっつけたとおもったのにっ……」  クロードは青褪めた。  吹っ飛ばしたはずの男たちがクロードにじりじりと近づいてきたのだ。  クロードはハッとしてまた防壁魔法陣を発動しようとする。しかし。 「ちからがでないっ……」  クロードは愕然とした。  魔法陣に魔力を送りたいのに、先ほどの発動ですっかり底をついてしまったのだ。  そんなクロードを男たちは嘲笑う。 「なんだ。もう限界か?」 「もうガキだからって容赦しねぇ」  男たちが一歩一歩近づいてくる。  クロードは走って逃げようとしたが、相手は五人。どこへ逃げても捕まってしまう。  そして一人の男がクロードを捕まえようと手を伸ばす。 「もう終わりだ。観念しやがれ」 「っ、うぅっ……」  逃げなきゃダメなのに、戦わなきゃダメなのに、足がプルプル震えてしまう。  捕まってしまうと思った、その寸前。 「僕の弟になんか用?」 「ぎ、ぎゃあああ!!!!」  男の悲鳴があがった。  そこにいたのはクロードの二番目のにーさま。ゼロスだった!  クロードが捕まる寸前、ゼロスが男の手を捻りあげたのだ。 「ゼ、ゼロスにーさま!」  ゼロスの姿にクロードの全身から力が抜けていく。  助かった。もう大丈夫なのだ。  腰を抜かしたようにペタンッと座り込んだクロードにゼロスは目を細める。 「クロード、もう大丈夫。えらかったね」 「う、うぅ、おそいですっ……!」 「ごめんごめん。こいつらやっつけちゃうから許してよ」 「……それなら、いいですよ」  クロードが少し拗ねた顔で頷いた。  素直じゃない弟にゼロスはおかしそうに笑う。 「どうもありがとう。それじゃ遠慮なく」  ゼロスはそう言うと密猟団の男たちを見据えた。  まず一人目。ゼロスが男の捻っていた腕を離した刹那、ドガアァァッ!!  重い打撃音。ゼロスの強烈な蹴りが炸裂したのだ。  衝撃に吹っ飛んだ男は悲鳴すらあげられずに気絶した。

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