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Episode1・クロードと二人のにーさま33

「嘘だろ……?」 「な、何者だテメェっ……」 「なんて力だ……」  男たちは騒然とした。  たった一撃で分からされたのだ。格の違いを。  男たちは昏倒した男の姿にごくりっと息を飲む。圧倒的な力を前に男たちは青褪めて後ずさった。  しかしゼロスは昏倒した男に一瞥すらせず残りの男たちを見る。  残りは四人。  次は左右にいる二人に目を向けた。 「僕の弟いじめたのどっち?」 「ち、ちょっと待て、オレは……」 「待てっ、頼むからっ……!」 「ねぇどっち? どっち? どっちも~」  バキィッ!! ドカァッ!!  左右の二人が吹っ飛んだ。  すべてが一瞬。ゼロスの拳と蹴りが炸裂したのだ。 「これで残りは二人だね。他にも仲間いるの?」  ゼロスは聞きながら一歩一歩近づいていく。  ゼロスの様子は普段と変わらず飄々としたものだが、男たちの表情はみるみる恐怖に歪んでいき、そして。 「っ、に、逃げろ!!」 「このままで済むと思うなよ!!」  残っていた二人は脱兎のごとく逃げ出してしまった。  逃げ足の速い二人はあっという間に見えなくなって、クロードは慌ててしまう。 「にーさまたいへんです! あいつらにげてきますよ!」  相手は冥界に侵入した密猟団である。決して逃がしてはいけないはずなのだ。  しかしゼロスに慌てた様子はない。「大丈夫大丈夫」と男たちの後ろ姿にひらひら手を振っている。  それよりもとゼロスがクロードを振り返った。  ぺたんっと座り込んだままのクロードにゼロスが手を差しだす。  でもクロードは不満顔だ。ゼロスなら逃げた二人を捕縛することができるはずなのだから。  そんな様子にゼロスは小さく苦笑した。「ほら立って」とゼロスはクロードの脇に手を入れて抱っこで立たせてあげる。ついでにズボンのお尻についた土も払ってあげた。 「あいつらよりクロードの方が大事だよ。魔力だってもう残ってないんでしょ?」 「…………。……そうでした」  創世期の冥界は危険なのである。  しかも今のクロードは魔力が底をついているのだ。  ゼロスは目を細めると、クロードが抱っこしているヒナたちを見る。  ピヨピヨ。元気に鳴いているヒナたち。  ゼロスは指でヒナを撫でるとクロードに笑いかける。 「クロードが守ってくれたんだね。冥界の鳥を守ってくれてありがとう。冥王として感謝するよ」 「にーさまっ……!」  瞬間、クロードの顔がパァッと輝いた。  にーさまとしてではなく、冥王として感謝されたことがなんだか嬉しかったのだ。  クロードは口元がニマニマ緩んでしまいそうになったが慌てて引き締めたのだった。  ガサガサガサ。  ゼロスから逃げ出した密猟団は冥界の森を必死に走っていた。  この密猟団は冥界に侵入できるほどの強さを持っている。だからこそ分かるのだ。あんな化け物染みた強さの男に勝てるはずがないと。 「仕切り直しだ!」 「せっかく冥界に侵入したってのに台無しじゃねぇか!」  男たちは忌々しげに吐き捨てる。  悔しいが今はいち早く撤退して組織を建て直さなければならない。しばらく冥界に侵入することは難しくなるだろうが、必ず組織を再起させて冥界で密猟するつもりだ。冥界の動植物は希少種だらけ、ここで諦めるには惜しいのだ。  諦めの悪い男たちは冥界の森を逃げていたが、ふと前方に人影が見えた。  男たちの方に向かってゆっくり歩いてくる人影。そう、イスラである。  男たちは腹いせに襲撃しようとしたが。 「邪魔だっ、ど」 「え」 「弟が世話になったな」  ザンッ……!  すれ違う間際、男たちは一瞬にして昏倒した。  イスラが音よりも早く抜刀し、一閃で切り伏せたのだ。  イスラは気絶した男たちに一瞥もせず、前を向いたまま立ち去った。  そしてしばらく歩いた先にゼロスとクロードがいる。 「にーさま! イスラにーさま!」  クロードがイスラに気付いて顔をあげた。  イスラの姿に安心して嬉しそうに駆け寄ってくる。 「イスラにーさま、みつりょうだんがいたんです!」  クロードは興奮した顔で話そうとしたが、イスラはじろりと見下ろす。 「応援はどうした」 「ん? ……あっ!」  クロードはハッとして口を両手で塞いだ。  そうである。クロードは応援の担当さんだったのだ。それなのに勝手にゼロスの防壁を出てしまった。無事に密猟団を倒せたからよかったものの、もし捕まっていたら大変なことになっていたのだ。 「に、にに、にーさま、……わたし、あの」  クロードはあわあわと慌てだした。  イスラがじーっと見下ろす。  その視線にクロードはみるみる青褪めていく。 「クロード」 「は、はいっ……」  クロードはプルプルした。  怒られる。怒られてしまう。もう冥界に連れてきてもらえないかもしれない。  クロードはおそるおそるイスラを見上げたが、――――ポンッ。頭にイスラの手が置かれた。 「えらかったぞ。よく戦った」 「え、にーさまっ……」 「そのヒナ、クロードが守ったんだろ?」  クロードの両腕にはピヨピヨ鳴くヒナたち。  その様子にイスラは状況を察したのだ。  クロードの顔がパァッと輝く。

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