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Episode1・クロードと二人のにーさま34
「はいっ、わたし、ぼうへきまほうしたんです! あととくしゅこうさくまほうじんも!」
いっぱい練習したから上手に発動できたのだ。
クロードは興奮した口調でイスラに説明した。
そんなクロードの話しをイスラは苦笑しながらも聞いていたが、…………長い、長すぎる。嬉しいのは分かるが長い。
クロードは五歳ながらとても頭の良い子なので細部まで徹底的に説明できるのだ。
「……分かった。分かったから続きは帰ってからだ」
「ええ~、これからがいいところなんです!」
「後でな。帰ったらブレイラにも聞かせてやれ」
「あ、そうだ、ブレイラ! ブレイラにおはなししてあげないと!」
クロードが嬉しそうな顔になった。
ブレイラはクロードがどんなお話しをしてもニコニコしながら聞いてくれて、いつもいろんなことをお話ししているのである。きっと今回のことも聞きたいと思ってくれているはず。
納得したクロードにイスラはひと安心すると今度はゼロスを振り返った。
「これで全員だな」
「うん。冥界にいる密猟者は兄上が倒したので全部。あとはそれぞれの世界に送還するだけ」
冥界に侵入していた密猟団を全員捕縛することができた。今回の捕縛によって広域密猟団の組織図を暴き、最終的には組織壊滅を目指すのだ。
こうして三兄弟の冥界調査は無事に終了した。
当初の調査は原因不明のままなのでしばらく調査の継続が必要だが、三人は無事に魔界へ帰るのだった。
◆◆◆◆◆◆
魔界・魔王の城。
私は城の居間でいまかいまかとその時を待っていました。
朝から落ち着かずに部屋の中を行ったり来たりしてしまう。
もちろん理由は冥界にいったクロードです。イスラとゼロスが一緒だと分かっていても心配で落ち着かないのです。
それなのにハウストはソファに座って涼しい顔で紅茶を飲んでいて……、……なんなんですかあの態度。私と一緒に行ったり来たりしてくれてもいいのに。
なんだか恨みがましい気分になってハウストにじとりとした目を向けました。
「なんでそんなに落ち着いてるんですか」
「逆に聞くが、どうしてそんなに落ち着かないんだ」
ハウストが少し呆れた顔で言いました。
私たちはじりじりと見つめ合う。
「逆に逆に聞きますが、あなたはなんとも思わないのですか? 相手は密猟団ですよ?」
「逆に逆に逆に聞くが、お前こそイスラとゼロスが一緒なのになにをそんなに心配するんだ。あえて心配することがあるなら密猟団を生け捕りにできたかどうかだけだろ」
ハウストの言いたいことは分かります。
ハウストだって心配してないわけではありませんが、魔王の彼は状況を理解しているからこういう反応なのです。でも悔しいのでわざと困らせてやります。
「私にクロードより密猟団の心配をしろというのですか」
「そういうつもりじゃない。お前、わざと俺を困らせたな」
「…………それは気のせいです」
すぐにバレてしまいました。
でもなんだか少しだけ肩の力が抜けた気がしましたよ。
「…………私も分かっているんです」
「反省する感じになったのか?」
「反省はしません。ちょっと落ち着いてみようと思っただけです」
私はそう言ってハウストの隣に座りました。
そっと抱き寄せられて、こてんっと肩にもたれかかります。
触れあっている場所から温もりを感じてほっとため息を漏らしました。
「あなたが大丈夫だというなら、クロードは大丈夫なんですよね。それは私も分かっているんです」
あなたは私に嘘はつかない。
誤魔化すことはありますが私に対しては決して嘘をつかない。
「我慢できそうか?」
「……できます」
「よし、えらいぞ」
「…………」
まるで聞き分けのいい子どもを褒めるみたいなそれ。…………なんですか、まるで子ども扱いじゃないですか。
ムッとして言いたくなったけれど、私は大人なのでここは冷静に交渉です。
「落ち着いたので、あと一時間遅ければ迎えに行きます。あなたも準備しといてくださいね」
「早いだろ。まだ昼過ぎだぞ? 落ち着いたんじゃなかったのか?」
「だから譲歩したんじゃないですか」
「これは譲歩だったのか……」
ハウストが少し目を丸めました。
視線が痛いですが構いません。
「お忘れですか、クロードはまだ五歳ですよ?」
「……たしかに五歳だが」
「昨夜だって寂しくて眠れなかったかもしれません」
「イスラとゼロスもいるのに寂しいとかないだろ」
「そうかもしれませんが、いつも添い寝してるのは私ですから」
胸を張って言いました。
私には分かるのです。あの子は背伸びして大人ぶるところがありますが、添い寝すると嬉しそうにはにかんで、もぞもぞと擦り寄ってくれるのです。その時のクロードときたらもう可愛くて可愛くてっ……!
思い出すと、ほうっ……。ため息が漏れましたよ。
イスラとゼロスは大きくなったので、もう添い寝はクロードしかさせてくれないのです。貴重な時間なんですよ。
こうして私とハウストがおしゃべりしながら三兄弟の帰りを待っていると、しばらくして侍従から三兄弟帰還を報告されました。
聞いた瞬間、安堵の気持ちでいっぱいになる。
「帰ってきました! ハウスト、早くそこまで迎えに行きましょうっ」
「行くのか? ここで待っていればいいだろ」
「ダメですっ。無事な姿を見るまでは安心できません!!」
そう、姿を見るまでは無事に帰ってきたとは言わないのです。
私はハウストの腕を引いて居間から飛び出しました。
早く会いたくて小走りのようになってしまう。
侍従に案内されて回廊を進み、角を曲がったその先に三兄弟が歩いてくる姿が見えます。
ああ良かった。無事に帰ってきてくれたのですね。
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