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Episode1・クロードと二人のにーさま35
「イスラ、ゼロス、クロード、おかえりなさい!」
「あ、ブレイラです! ただいま、ブレイラー!」
クロードが私に気付いてぴゅーと走ってきました。
その姿に嬉しくなって、私も駆け寄りながら両腕を広げます。
「クロード!」
「ブレイラ~!」
両腕に飛び込んできたクロードの小さな体。
温もりを両腕にぎゅ~っと抱きしめます。
「クロード、心配してたんですよ? 勝手に行ってしまってダメじゃないですかっ」
「ごめんなさいっ。でも、にーさまたちといきたかったんですっ……」
「そんなに行きたかったんですか?」
「そんなにいきたかったんです……」
「そんなに?」
「そんなに……」
クロードが私の肩に顔を埋めたまま言いました。
私はクロードを少し離し、肩に手を置いてその顔を覗きます。
「とっても行きたかったんですか?」
「とってもいきたかったんです……」
クロードがおずおずと私を見つめます。
近い距離でじーっと見つめ合っていましたが、少し緊張した顔のクロードにふっと笑いかけました。
「仕方ないですね。無事に帰ってきてくれたので今回はよしとしましょう」
「ブレイラ、ありがとうございます!」
「今回だけですからね? 次からはきちんとお話ししてください」
そう言って私はクロードの手足を確かめました。
良かった、大きな怪我はしていませんね。
でも、手の平にかすり傷があるのに気が付きます。薄っすらと血が滲んでいました。
「ケガをしていますね」
「あ、きづきませんでした。きっところんだときのです」
クロードも自分の両手を見て目をぱちくりさせました。
どうやら今まで気付いてなかったようです。気付かないほど何かに一生懸命になっていたのですね。
私はハンカチを取り出してクロードの手の平を押さえました。血は止まっているけれど、薄っすら残っていた血を拭いてあげます。
「痛くありませんか?」
「だいじょうぶ。ブレイラ、どうしてころんだのかおしえてあげます。わたし、みつりょうだんとたたかったんです!」
「え、戦ったんですか? すごいじゃないですか」
「はい、すごいことできました! いっぱいおはなししてあげます!」
「それは楽しみです。ぜひ聞かせてください。ほら綺麗になりましたよ」
私はクロードの手の平を綺麗に拭くと、その小さな体を抱っこしてあげます。
どうやらクロードはとっても頑張ったようですね。
私はクロードを抱っこしたままイスラとゼロスに向き直りました。
まだ五歳の末っ子クロードが無事に帰ってこれたのは二人のにーさまのおかげです。
「二人ともありがとうございました。密猟団が侵入していたようですね、大変だったでしょう?」
「ブレイラ、ただいま! クロードのことで心配かけてごめんね。クロードもたくさん手伝ってくれたよ。ね、クロード?」
「はいっ」
ゼロスがそう言うと抱っこしているクロードが大きく頷きます。鼻をピクピクさせてこれは誇らしげな顔。
どうやら今回の冥界での一件で自信が付いたようですね。クロードは今までずっとなにかに悩んでいるようでしたが自信を取り戻したようです。
きっとこれからも多くの壁にぶつかるでしょうが、それでも今回のように自分で一歩一歩乗り越えていくのでしょう。クロードならそうできると信じています。
「頑張りましたね、クロード。居間におやつが用意してありますよ」
「やった! おなかすいてたんです!」
クロードは私の抱っこからぴょんっと飛び降りると居間に向かって走っていく。「にーさまもはやく!」と呼ぶとゼロスがおしゃべりしながら一緒に行ってくれます。
「クロード、嬉しそうだね」
「ブレイラがいいよってゆるしてくれたのうれしかったんです。ブレイラ、ニコニコしてくれました」
「怒られると思ってた?」
「ちょっとだけ」
「アハハッ、勝手についてきたもんね」
「ゼロスにーさま!」
からかうゼロスにクロードが言い返しています。
おしゃべりしながら歩いていく二人。楽しそうな二人を見つめているとイスラが話しかけてくれます。
「ブレイラ、ただいま」
「イスラ、おかえりなさい」
改めて挨拶されてイスラに笑いかけました。
でもイスラは少し申し訳なさそうな顔をしています。
「どうしました、そんな顔をして」
「……心配させただろ?」
イスラが窺うように私を見ました。
気遣ってくれるそれに小さく苦笑してしまう。
「ふふふ、やはりイスラにはお見通しですね。心配しなかったといえば嘘になりますが、分かっていますから大丈夫ですよ。それにイスラも一緒なのになにを不安に思うことがあるのです」
「そっか」
イスラが安心した顔になる。
私は優しく笑いかけ、手を伸ばしてイスラの頬を指でそっと撫でてあげます。
そんな私にイスラも目を細めました。
「ああ、心配はいらない。俺がいるから大丈夫だ」
「はい」
私の返事にイスラは頷くと居間に歩いていきました。
ニコニコです。私はニコニコで三人の後ろ姿を見つめます。
子どもたちが居間に行ったので私も向かおうとしましたが。
…………。
………………感じます。視線を感じます。
振り向くとハウスト。彼がじとっとした目で見ていたのです。
「…………なんですか。なにか言いたいことでもあるんですか」
「別に?」
腕を組んで鼻を鳴らすハウスト。
私のニコニコ笑顔もスーッと引いて、またじっとり見つめ合います。
ハウストはニヤリと笑いました。
「えらくあっさり引き下がったな。あいつらが帰ってくるまでぐずぐず言ってたのは誰だった?」
「っ……」
「どうした?」
ハウストがニヤニヤしています。
面白そうにニヤニヤしながら私を見るので、私は、私はっ。
「誰って、私ですよ。私以外に誰がいるんですか。そうです、私がぐずぐず言ってました。当然じゃないですか、三人の前でぐずぐず言えるわけないじゃないですか。でも三人はおやつに行ったので今からぐずぐず言います」
開き直ってやりました。ついでにぐずぐず宣言もしてやりました。
ハウストが「ここで開き直ったか……」と感心していますが容赦なくぐずぐずです。だって今ここにはハウストと私しかいませんから。
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