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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて2
「ふふふ、ハウストもそこまでにしてあげてください」
「ブレイラ~っ」
ゼロスがパァッと顔を輝かせました。
そのまま嬉しそうに私のところに来ると、そっと手を取られて手の甲に唇を寄せられます。
「ブレイラは今日も綺麗だね。毎日綺麗だけど、今日はもっと綺麗だ」
「ありがとうございます」
こうして挨拶をしてくれる姿は洗練されて大人びて見えますが……。
「ブレイラ、さっきの聞いてた? 父上が僕にいじわる言ってる。ひどいよね」
ハウストをちらちら見ながら私の耳元にこそこそ言いました。
子どものようなゼロスに私は肩を震わせて笑ってしまいますが、ハウストは眉間に皺を刻んでしまいます。ああ、もうすぐ晩餐会なのに怖いお顔になってしまいました。
「ハウスト、そんな顔しないでください」
「誰のせいだ。お前もそいつをあまり甘やかすなよ」
「そんなつもりはないんですが」
私はそう言ってハウストを宥めるとゼロスに向き直ります。
「ゼロス、どうしました? ハウストになにかお話しがあるのでしょう?」
「あ、そうだった! さっき兄上のとこにも相談しに行ってたんだけど」
ゼロスはそう言うとハウストになにごとかを話しだします。
それは明日の四界会議の内容でした。
現在、四界の王の最優先事項は深海で星の杭となったレオノーラを監視することです。明日の議題でも重点的に話し合われることでした。
こうして相談を終えるとゼロスはほっと安堵した顔になります。
成長してステキな冥王様になりつつあるゼロスですが、まだまだ十五歳ですから冥王として悩むこともたくさんあるのでしょうね。
子どもの頃から素直な甘えん坊ですから、孤立に陥るような心配はしていませんが……。
「ありがと、父上。明日の会議もよろしくね」
「なにがよろしくねだ。どうして魔王の俺が冥王の面倒を見るんだ」
「ええ~、父上は僕が可愛くないの?」
「お前な……」
ハウストは目を据わらせますがゼロスは気にした様子はありません。
「ブレイラ、クロード、四界会議が終わったら海水浴しようね~」
ゼロスはそう言うとひらひら手を振って控えの間を出て行きました。
私とクロードは海水浴の約束に思わずニコニコですが、ハウストは呆れた顔でため息をつきます。
「……あいつは成長しないな」
「そんなことはありませんよ。四界会議の前にこうしてあなたやイスラに相談するのも、冥王として間違いのないように働くためなんですから」
「そうかもしれないが、…………いや、なんでもない」
ハウストがなにか言いかけて、でも途中で口を閉ざしてしまいました。
なんだか気になって聞き返そうとしましたが、その前に侍従が晩餐会会場へと呼びに来てしまいます。
「ブレイラ、クロード、行くぞ」
「はい。クロード、こちらへ」
私が呼ぶとクロードが駆け寄ってきます。
頑張って整えていたクロードの前髪は完璧ですね。自分でできるなんてお利口です。
「かっこいいですよ、クロード」
「はいっ」
私はクロードのシャツの襟を整えて笑いかけました。
クロードは自分で身支度できる子ですが、最後に整えてあげると照れ臭そうな顔をするのです。それが可愛くて、ついついたくさん構ってしまうのです。
「さあ行きましょう」
クロードと手を繋ぎ、ハウストの隣を歩きます。
長い廊下を歩いた先に豪奢な装飾の両扉がありました。晩餐会会場です。
侍従が両扉を開くと大きな拍手と歓声で出迎えられ、進行役の士官に高らかに紹介されます。
「魔界より魔王ハウスト様! 王妃ブレイラ様! クロード様!」
各世界の高官や貴族たちの出迎えに私は微笑んで応えました。
こうして入場した後、今度は私たちが出迎える番です。
今夜の晩餐会は魔王主催のものでした。
四界会議を主催する役目は四界の王が持ち回りで担当しているのです。今回の四界会議は魔王主催でした。
「冥界より冥王ゼロス様!」
続いてゼロスが入場しました。
子どもの時はこういう場所には私と手を繋いで入場していたゼロスですが、今は冥王ゼロスとして入場します。
ゼロスは歓声に笑顔を振りまきながらハウストのところに向かって歩いてきました。
二人は四界の王として挨拶を交わします。親子関係ですがここでは同格の王同士ですからね。
ゼロスは魔王ハウストへの挨拶を終えると次は私を見つめてくれる。
私は微笑んでお辞儀しました。ゼロスは冥王、私より格上の存在です。
「今夜は楽しみましょう」
「うん、ブレイラも」
ゼロスが私の手を取って恭しくお辞儀してくれました。
さて次はイスラです。
「人間界より勇者イスラ様!」
イスラが入場しました。
出迎えの歓声にイスラは手をあげて応えると、まず主催者である魔王ハウストに挨拶します。
それを終えると次は私のところへ。
「ブレイラ、今夜も綺麗だ。もちろん四界で一番に」
「ふふふ、ありがとうございます」
大人になったイスラですが、こういうところは子どもの頃から変わりませんね。
こうして冥王と勇者がここに揃うと最後は精霊王です。
「精霊界より精霊王フェルベオ様!」
精霊王フェルベオが入場しました。
精霊王と会うのは前回の四界会議以来です。
フェルベオはハウストやイスラやゼロスと挨拶を交わすと、最後に私の前にきてくれました。
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