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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて3

「母君、お久しぶりです。ご機嫌麗しく」 「精霊王様、お会いできて光栄です」  私は丁寧にお辞儀して精霊王フェルベオを見上げました。  フェルベオに手を差しだされ、そっと乗せると手の甲に唇を寄せられます。  初めて出会った五年前は美少女と見紛う美少年王でしたが、今ではハウストと並ぶ背丈の美丈夫です。息を飲むほど美しい容貌はそのままですが、年を重ねるにつれて威迫が増すようでした。 「母君とお会いするのは前回の四界会議以来ですね。でも母君は出会った時から何一つ変わらない、美しいままです」 「ありがとうございます。ふふふ、照れてしまいますね」  思わず小さく笑うとフェルベオも優しく目を細めてくれました。  こうして四界の王が揃い、晩餐会が始まりました。  乾杯のグラスが掲げられると、楽団が華やかな楽曲を奏でて晩餐会会場は和やかな雰囲気に包まれます。  不干渉状態だった四界の親交が始まったのは五年前のこと。先代魔王討伐を切っ掛けにして始まりました。それから四界は徐々に親交を深めていったのです。  そして現在、初代時代の真実を知ったことで新たな協力関係が結ばれました。  世界の平穏は星の杭になったレオノーラによって保たれているのです。四界の結界は星の杭を守るためのもので、当代四界の王はそれを監視していました。  今回の四界会議では以前冥界に出現した謎の鍾乳洞についても報告されることでしょう。原因不明だからこそ正確な情報交換をする必要がありますからね。  その為、四界会議前夜の晩餐会で四界の王である魔王、精霊王、勇者、冥王は忙しくすごします。  でもそんな大人ばかりの晩餐会の中に子どもが一人、クロードです。 「クロード、お腹空いてませんか?」  私は手を繋いでいるクロードに話しかけました。  クロードはまだ子どもなので普段は晩餐会に参加させていませんが、今夜は四界の王が一堂に会する特別な晩餐会なので参加を許可したのです。  でも今夜の晩餐会は交流重視の立食形式なのでクロードがお腹を空かせていないか心配です。 「だいじょうぶです」 「えらいですね。では退屈ではありませんか?」 「たいくつもないです。ばんさんかいは、たくさんあいさつをして、たくさんおしゃべりをして、いろんなかたがたとしんこうをふかめるものですから」 「頼もしい答えです」  笑いかけるとクロードは誇らしげな顔になりました。  でも、…………グ~ッ。こ、これはお腹の鳴る音!  聞こえてしまったそれにハッとしてクロードを見下ろすと、ああいけませんっ。クロードが顔を真っ赤にしてプルプルしています。唇を噛みしめて、ぎゅっと目を瞑ってプルプルと……。 「ク、クロード、大丈夫ですっ。お腹が鳴るのは元気な証拠、悪いことではないのですよ。ね?」  私は膝をついてクロードと目線を合わせ、プルプルしている小さな肩をなでなでしてあげます。 「でも、でも、だいじなばんさんかいなのに、グーッて、グーッて……」 「そういうこともありますよ、お腹が鳴っているのはクロードだけではありません。きっと他にもいますから大丈夫ですっ」 「……ほんとですか?」 「ほんとですっ。生きていれば誰だってお腹が空くものですっ」 「……じゃあ、ほかにグーッてなったのだれですか?」 「ええっ……」  た、大変です。クロード以外にもお腹を鳴らしている者を探せと所望されてしまいました……。  そんなの分かるはずがありません。  でもクロードは「……やっぱりいないんですね」と唇を噛みしめてプルプルプル……。いけません、このままじゃクロードが落ち込んでしまう。  クロードは今夜の晩餐会に備えて自分でリボンネクタイを選んだり、前髪をセットしたりしていたのです。今夜の晩餐会を成功させてあげたい! 「ま、待ってなさい。今すぐ探してあげますからね!」  私は励ますように言うと周囲をきょろきょろ見回します。  クロード一人に恥をかかせません! 誰でもいいので誰かを腹ペコに仕立て上げ、クロードの道連れにしなければっ!  こうしてクロードを宥めながらきょろきょろしていると、ふと声がかけられます。 「誰か探してるのか?」 「はい、クロードの道連れを」 「おいおい魔界の王妃が物騒だな」  苦笑混じりの突っ込みにハッと顔をあげるとそこにはジェノキスが立っていました。  その姿に嬉しくなります。精霊王直属護衛長官の彼はとても多忙なので、仕事で魔界に来てくれた時くらいしか会えないのです。 「ジェノキス、お久しぶりですっ。やはりあなたも来ていたんですね。会えるなんて嬉しいです」 「王妃様こそご機嫌麗しく。お会いできて恐悦至極」  ジェノキスは大仰なほど丁寧に一礼してくれました。  差し出された手に手を乗せるとそっと唇を寄せられます。いつも飄々とした彼ですが、こういった一つ一つの仕種は精霊界の大貴族イスター家当主らしいものでした。  ジェノキスとは出会って五年が経過しましたが、彼は年齢を重ねる毎に威風が増していく。掴みどころがない風のようなのに、その佇まいも面差しも重厚感を纏っているのです。  ジェノキスは私に挨拶をすると、次にクロードに一礼しました。 「こんにちは、クロード様。お会いできて光栄です」 「こんにちは、ジェノキス」  クロードは少し緊張した面持ちで答えます。  初対面ではないのですが、幼いクロードが政務に関わることはありません。そのこともあって精霊族の大貴族というより私の友人だと思っているようですね。  クロードは私と手を繋いだままジェノキスにおずおずと聞きます。

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