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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて5

「ふふふ、ゼロスがお世話になっています。なんだか不思議な心地になりますが」 「ハハッ、同感だ。こんなだったのにな」  そう言いながらジェノキスが親指と人差し指を広げてサイズ感を示すけれど、そのサイズはおよそ小指一本分……。 「それは小さすぎですよ。ゼロスはかわいい赤ちゃんでした」  ジェノキスはゼロスが赤ちゃんの頃から知っています。  いいえゼロスだけではなく、イスラもクロードもそうです。幼かったイスラやゼロスやクロードをジェノキスが守ってくれたこともあって、とてもお世話になったのですよ。  だからジェノキスはイスラやゼロスが四界の王として政務をする姿に感慨深さを感じるのでしょうね。  でもそれって……。 「ふふふ、ふふふふふ」 「……なんだ、不気味だぞ」  ジェノキスが訝しげに私を見ます。  でも私は含み笑いが止まりませんよ。  あなたが感慨深く思うように、そんなあなたに私も同じ気持ちになるのです。  とてもくすぐったくて嬉しい気持ち。心がじわりと満たされていく。  だって、それってイスラやゼロスやクロードを見守ってくれているということですよね。  私の子ども達にとって味方となる存在。そんな存在でいてくれることが嬉しいのです。 「不気味とはなんです。感謝の気持ちが溢れているのですよ」 「それでそんな不気味な笑い方になるのかよ」 「あなたが見守ってくれていることが嬉しくて」 「大したことしてねぇよ。あいつらをずっと手元で育てたのはあんただろ」 「私だけではありませんよ。それに、ゼロスが精霊界で仕事をする時はそれとなくフォローしてくれていますよね。私、知ってますからね」  私はニヤニヤしてジェノキスを見てしまう。  イスラはともかくゼロスはまだ冥王として未熟な一面があります。魔界や人間界には父上や兄上がいますが、政務で初めて一人で精霊界に行く時はもう心配で心配で……。でもゼロスは問題なく政務を終えて帰ってきました。あとから聞きましたが、ゼロスが精霊界で初めての政務をこなせるようにジェノキスがフォローしてくれていたようです。  じーっと見つめる私にジェノキスは天井を仰ぐ。あ、照れてしまったでしょうか。  でもジェノキスがちらりと私を見下ろしながら少し恨みがましげな顔になってしまう。 「ブレイラに頼まれたからな」  呆れたような拗ねたような、そんな口調で言いました。  私は目を丸めてしまう。  だって、それはかつての約束。……いいえ、私からの一方的な希望。 「今も覚えてくれているのですね」  私は以前ジェノキスにお願いしたのです。  それは三人の子どもたちのこと。私とハウストは三人の子どもを育てていますが、私たちにとって子育ては手探りなものでした。  なぜなら私は孤児で親というものを知りません。ハウストも決して父親に恵まれていたわけではないのです。  三人が寂しい思いをしないように寄り添って育てたつもりですが、実際のところなにが正しいのか分からないままでした。  そんな私とハウストが持っていないものを持っているのがジェノキスでした。知らないことを知っているのがジェノキスでした。  彼は私の理解者であり、理想なのです。  私とハウストが教えられないことを教えてほしいと願いました。 「ジェノキス、ありがとうございます」 「俺を利用しろって言っただろ。ブレイラにしか許していないことだ」  ジェノキスがニヤリと笑って言いました。  相変わらずの彼に心が優しく満たされる。  私は彼に甘えているのです。  ジェノキスが私を愛してくれていることを知っています。  私はハウストを愛していて、ハウストと結婚しました。それでもジェノキスは私を愛してくれたままで、優しく甘やかしてくれる。  今まで幾度も強引に事を運ぶことが出来たのに、彼はそれをしないのです。それは私のために、彼自身のために、四界のために。 「これからも三人をよろしくお願いします」 「勇者はともかく、冥王と次代の魔王はまだガキだからな」 「えーっ、僕もまだガキ扱いなの? ステキな冥王様してると思うんだけど」  ふとゼロスが会話に入ってきました。  今までクロードに「あ~ん」して構ってくれていましたが、聞き捨てならない発言だったようです。 「ジェノキスも知ってるでしょ。一緒に仕事してるんだから」 「なにがステキな冥王様だ。ステキな冥王なら精霊王との会食直前に好物リクエストするなよ。するならせめて三日前までにしろ。それが間に合わなかったら我慢してなんでも食べろ」 「えっ、ゼロスあなた精霊界でそんなことしたんですか?」  私はギョッとしてゼロスを見つめてしまう。  親交を深める会食は大切な外交の一つですが、だからといって会食直前に好物をリクエストするなんて聞いたことありません。  そんな私の反応にゼロスが焦りだします。

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