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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて7
「クロード、隠れてしまってはお顔が見えませんよ」
そう言って振り返ると、クロードが緊張した顔で私を見上げていました。
初対面というわけではないのですが、フェルベオと対面するたびにこんな感じです。
クロードは私のローブをぎゅっと握りしめたままフェルベオを見上げました。
「……こ、こんにちは。クロードです……」
「こんにちは。どれ未来の魔王の顔をよく見せてくれ」
「こ、ここんなかおしてますっ……」
困惑しながらも顔を突きだしたクロード。
フェルベオがよく見えるようにしながらも、緊張でプルプルしていますね。
「アハハッ、なるほどこれはいい顔だ。次の魔王殿はいい顔をしているな」
フェルベオが楽しそうに笑いました。
クロードはどうして笑っているのか分からず「?」と首を傾げていますが、とりあえず怒られているわけではないので安心したようです。
「ふふふ、上手にご挨拶できましたね」
「も、もちろんですっ。わたしもりっぱなまおうになりますから」
「楽しみです」
「りっぱなまおうになったら、ブレイラもわたしのことステキっておもうとおもいます」
「今もステキだと思っていますよ?」
私がそう言うとクロードが恥ずかしそうにはにかみました。
照れているお顔が可愛くていい子いい子と撫でてあげましたが。
「あ、クロードがガチガチに緊張してる」
ゼロスがクロードの様子に気付いて笑ってからかいます。
しかもクロードの前にしゃがんでおでこをツンツンツン。
「いっつもプンプンしてんのに、やっぱり緊張しちゃう? もっとケーキ持ってきてあげようか?」
「うっ、にーさま~~~!!」
クロードが私の後ろから飛び出してゼロスをポカポカポカ。
今まで緊張していたクロードですが我慢できずにポカポカポカポカポカ。
「アハハハッ。ごめんごめん、許して~」
「わたしはきんちょうしてませんっ。わらったらダメですっ」
「そうだね、緊張してないね。そうだったそうだった、もう笑わないから」
ゼロスは謝りますがクロードはプンプンです。
騒がしくなった二人の様子に、ああいけません。ハウストの眉間に皺が刻まれてます。
「おい、騒ぐな」
ハウストがじろりっとゼロスとクロードを見ました。
けれどプンプンのクロードは逆にハウストに訴えだします。
「ちちうえ、ゼロスにーさまがわたしをからかったんです!」
「あ、父上に告げ口しちゃうの?」
「します! ちちうえ、みてましたよね! わたしはきんちょうしてなかったのにっ!」
クロードがプンプンでハウストに訴えまくりました。
ハウストは眉間の皺を深くし、呆れた顔で足元のクロードを見下ろします。
「おい、騒ぐなと言ってるだろ」
「さわいでませんっ。わたしはちゃんとばんさんかいにさんかしてるのに、にーさまが!」
そう言ってクロードがハウストのズボンを掴んでグイグイしています。
ちちうえもおこって! とお願いしているよう。
そんな末っ子のお願いにハウストはため息をつきます。
「いいのか、そんな甘ったれたことをして」
「あまったれてません! じょうずにごあいさつもできました!」
「俺の跡を継いで立派な魔王になるんじゃなかったのか?」
「そうですけど?」
それがなにか、とクロードが強気にプンプンです。
腰に手を当てて自信満々ですね。でも。
「その立派な魔王がこんなことで注目されていいのか?」
「え? ……あっ!」
クロードはハッとして表情を変えました。
そう、私たちはとっても注目されていたのです。
当然ですよね、ここには四界の王が全員揃っているのですから。
そんな中でプンプンしているクロードはとても目立っているようで、遠巻きながらも見られています。「あれがクロード様なのね」「とってもお元気なのね」と囁く声までして、クロードの顔がカァッと赤くなりました。
クロードは次代の魔王として注目されていることもありますが、普段は晩餐会に参加しないので物珍しさもあるのです。
見られていることに気付いたクロードは今までグイグイしていたハウストの足に顔を埋めました。恥ずかしくなって隠れてしまったのです。
「ち、ちちうえ、だっこですっ。だっこしてくださいっ……!」
「立派な魔王はどうした。ブレイラにステキだと思われる魔王になるんだろ」
「……わたし、まだまおうになってないからいいんです」
「いいのか」
「いいんです。はやく」
ハウストは苦笑すると、ひょいっとクロードの小さな体を抱きあげました。
片腕で抱っこされたクロードはひと安心です。
さすがにハウストをじろじろ見ようとする強心臓の参加者はいませんからね。
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