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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて8

「クロード、良かったですね。ふふふ、もう大丈夫そうですか?」 「はい、もうだいじょうぶです」  クロードがきょろきょろして答えてくれました。  もう見られている感じはしないようですね。しかも父上の抱っこなので視界が高くなったのも良かったようで、いつもの強気なクロードに戻っていますから。  こうしていると、やはりクロードもいずれ四界の王として玉座に就くのだと分かります。  思えばゼロスが幼い時も精霊王と対面した時は『しらないひとがきた! なにしにきたの!』『ちちうえとあにうえと、おんなじかんじする!』と大騒ぎで警戒していました。  クロードはまだ覚醒していませんが、それでも同格の王として本能的に察知するものがあるのでしょうね。  今は魔王の父上に抱っこされ、勇者と冥王の兄たちに囲まれ、本人は無自覚の甘えっこな末っ子ですがいずれ父上にも劣らぬ四界の王になると信じています。  でも今は。 「ちちうえ、こんやのばんさんかい、わたしじょうずにさんかしてましたよね」 「騒いだだろ。減点だ」 「げんてんっ、わたしが? ゼロスにーさまのせいですっ」 「えっ、それ僕のせいになっちゃうの? ひどくない?」  心外だとばかりのゼロス。  その次男と末っ子のやり取りを長男のイスラはグラスを片手に笑って見ています。  しかしその他人事のような長男には父上のハウストが黙っていません。 「お前これ預かれよ。可愛い弟だろ」  そう言ってハウストが抱っこしているクロードを差しだします。  突然のことにクロードは「わっ、ちちうえ」とハウストの頭にしがみつく。  そんなクロードにイスラがニヤリと笑います。 「ほら、クロードは父上がいいんだろ。な、クロード?」  そう言ってイスラがクロードの額を指でひと撫でしました。  クロードはセットした前髪を崩されてはなるまいといそいそと手入れし、それを見たゼロスが「気になるのそこなんだ」と笑います。  賑やかな父子の様子に私も笑ってしまいました。  こうして四界会議の晩餐会は無事に終わったのでした。  翌日の朝。  私たちは朝から慌ただしくすごしていました。  今日からいよいよ四界会議が始まるのです。  四界会議は二日間にわたって開かれ、四人の四界の王が重要案件について話しあうのです。これは四界にとって最も重要な会議といえるでしょう。  そして今、魔王の控えの間にはハウストと私とクロードがいました。  イスラとゼロスは勇者と冥王なのでそれぞれに控えの間が用意されているのです。  まだ幼い時は例外として一緒の控えの間にいましたが、さすがに今はそれぞれの世界の王としての振る舞いを求められますからね。  今、ハウストと私はソファで書類に目を通していました。今回の議題や検討内容について最終確認をしておかなければなりません。  でもふと窓辺のクロードに目を向けます。  クロードは窓辺の椅子で難しそうな教本を読んでいるようですね。  私は書類を置くとクロードに足を向けました。  気付いたクロードが「あ、ブレイラ」と顔をあげてくれます。 「クロード、なんの本を読んでいるんですか?」 「れきしのほんです。ここにしょだいまおうについてかいてあるんです」 「本当ですね。でも難しくありませんか?」 「だいじょうぶです。かんぺきにおぼえました」 「ふふふ、さすがクロードです」  そう言って笑いかけるとクロードが鼻をぴくぴくさせました。誇らしい時の顔ですね。  いい子いい子と頭を撫でて、クロードの小さな肩に手を置きました。 「クロード、寂しい思いをさせてしまいますが、大丈夫ですか?」 「…………だいじょうぶです」  クロードが少しだけ拗ねた顔になってしまいました。  そう、クロードは今から一人でお留守番なのです。  四界会議に出席できるのは四界の王とその伴侶。あとは各世界の高官やそれに準ずる者だけでした。  その為、クロードが次代の魔王であったとしても参加は許されないのです。 「クロード様、お迎えにあがりました」  世話役の女官がクロードを迎えに来てくれました。  クロードは読んでいた本を閉じると椅子から降ります。  今日のクロードの予定は遊戯室で遊んだりお勉強したりと、世話役の女官たちと過ごすことになっていました。せっかく家族で第三国へ来ているのに少しだけ申し訳ない気持ち。 「わたしもいってきます」 「お部屋までついていってあげましょうか?」  せめてという気持ちで声を掛けます。  クロードは一瞬パッと顔を明るくしたけれど、すぐにいつもの澄ました顔になる。 「わたしはもういつつです。そういうのだいじょうぶですから」 「……そうですか。ではここでお見送りですね」 「はい」  クロードはお利口な返事をすると、ハウストと私に向き直ります。 「ではいってきます。ちちうえとブレイラもかいぎがんばってください」  ぺこりっとお行儀よく頭を下げました。  こうしてクロードは世話役の女官たちと遊戯室に向かっていきました。  遊戯室にはクロードが退屈しないようにたくさんおもちゃや絵本を用意しているけれど……。

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