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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて9
「クロード……」
ぽつりとその名を呟きました。
物分かりのいいクロードですが寂しくないわけないのです。ましてや大会議場では自分以外の家族が全員揃っているのですから。
もちろん会議場では政務をしているわけですが、五歳のクロードは寂しがってしまいますよね。
「おいブレイラ」
「はあ、クロード……」
ため息がもれてしまいました。
「ブレイラ。聞こえてるか、ブレイラ」
「今日のクロードはなにをしてすごすのでしょうか……。ああクロード……」
「ブレイラ、おい」
ポンッと肩を叩かれて、「わあっ!」と飛び上がってしまう。
気が付けば背後にハウストが立っていました。
ハウストは呆れた顔をしています。突然声を掛けてきたと思ったらそんな顔してるなんて失礼ですね。
「なんです」
「なんですじゃないだろ。お前、余計なこと考えるなよ?」
「余計なこととはなんですか。まさかそれクロードのこと言ってませんよね」
「なんだ自覚はあるのか」
「……いじわるですよ」
ムッとして睨むとハウストが目元に口付けてくれました。
くすぐったい感触に肩を竦めると、今度は反対側の目元にも口付けてくれます。
「許す気になったか?」
「……まだですね。私はそんな易い王妃ではありません」
勿体ぶるとハウストが目を丸める。でも次には声をあげて笑いだしました。
「アハハッ、そうだな、俺の王妃は易くない」
「分かっていただけたようですね」
そう言って小さく笑うとハウストが優しく目を細めてくれました。
少しして士官が会議の始まりを知らせに来てくれます。今から大会議場で四界会議が開かれるのです。
「行くぞ」
「はい」
私はハウストの隣をゆっくり歩いて大会議場へ向かいます。
会議は四界の王が中心なので私は挨拶をして傾聴するのみなのですが、こういうのは参加することに意味があるのですよね。
こうして私はハウストと一緒に大会議場に向かいました。
一時間後。
張り切って四界会議に参加したわけですが、私は一人だけ静かに大会議場を後にしました。
会議が始まってまだ一時間しか経過していませんが、大丈夫。立派に挨拶をしたので私の役目は無事に果たしましたよ。
途中退席ですがもちろん四界の王にも許しを得ています。
「ブレイラ様、こちらです」
「ありがとうございます」
出迎えてくれたコレットが笑顔で促してくれます。
その先には遊戯室。
そう、そこにクロードがいます。私はどうしてもクロードが気になって、許可を得て会議を退席させていただいたのです。
長い廊下や回廊を歩き、クロードのいる遊戯室へ来ました。
扉の前にいた女官がお辞儀して扉を開けてくれようとしましたが、私は「しーっ」と口元に指をあてて制止しました。
女官は不思議そうな顔をするけれど、ちょっとだけ、ちょっとだけ見たいものが。
控えているコレットが苦笑しています。でもちょっとだけ許してくださいね。
私はそーっと扉の隙間から遊戯室を覗きました。
あ、いました。クロードです。クロードの後ろ姿が見えます。
遊戯室の真ん中にちょこんと座り、周りにはたくさんのぬいぐるみ。なにやら一人で遊んでいます。
「ここにわたしとゼロスにーさまがいて、ここがイスラにーさま、ここにちちうえとブレイラ。これをこうして、こうして」
ぶつぶつ言いながらぬいぐるみを積み上げています。
でも上手に積み上げたと思ったら……。
「ああ~、くずれました。これはイスラにーさまとゼロスにーさまですね、まじめにしないから~。わたしのはちゃんとがんばったのに、ダメじゃないですか~」
大変です、なぜか崩れたのは二人のにーさまのせいということになっています。しかもクロードのぬいぐるみは頑張っていたようです。
次は絵本を並べてその上にぬいぐるみを配置して楽しそう。どうやら絵本はお部屋をイメージしているようで、ぬいぐるみがそこで暮らしているのですね。
「おはようございますは? あさはごあいさつしないとダメです」
「けんかしちゃダメじゃないですか~」
「しゅくだいおわったからおやつですよ」
ぬいぐるみにしゃべらせています。
これってあれです。ままごと遊びではないでしょうか。
イスラはあまりままごと遊びをしなかったので、なんだか新鮮。ゼロスの方は、たしかお店屋さんごっこがお気に入りでしたね。初めての酒場に行ってから酒場の店主さんごっこに夢中になって、ハウストにバーカウンターを買ってほしいと駄々をこねていました。
「クロードはままごと遊びも好きなんですね。ふふふ、可愛いですね」
イスラもゼロスも大きくなったので、こんな可愛い姿を見せてくれるのはもうクロードしかいないのです。いつまでも見ていたくなる姿ですね。
しかしコレットが「そろそろ……」と申し訳なさそうに声をかけてくれます。
「ブレイラ様、もうそれ以上は、その、のぞき見になってしまうというか……」
「あ、そうですね、いけませんね! 立派な王妃はのぞき見なんてしませんからね!」
もうそろそろ限界のようです。ここまでにしておきましょう。
私は気を取り直して扉をコンコン。ノックします。
「クロード、失礼してもいいですか?」
「え、ブレイラ!? ええっ、どうしてここにいるんですか!?」
クロードがパッと振り返って驚いてくれました。
黒い瞳をまん丸にして可愛いですね。
クロードが私に駆け寄ってきてくれます。
「かいぎはどうしたんですか!? なにかあったんですか!?」
驚きながら不思議そうに聞いてくるけれど、その顔は嬉しさが隠しきれていません。
どうしてですか、どうしてですか、と訊ねる顔はキラキラして、飛び跳ねるように私の足元にくっついてちょろちょろしたりローブを引っ張ってみたり。
そんなクロードに私は笑ってしまいそうになりますが、慌てて表情を引き締めます。今は笑ってはいけませんよね。クロードは嬉しいのを必死に隠して心配してくれてるんですから。
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