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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて10

「お邪魔してもいいですか?」 「ええっ、かいぎちゅうなのに!? でも、おじゃましていいですよ! どうぞ!」  ぐいぐいと私を引っ張って遊戯室へ。  私は笑ってクロードについて行きます。 「どうぞここにすわってください! はい、ここにどうぞ!」 「ふふふ、どうもありがとうございます」  ふわふわのクッションを置いてくれました。  クッションに正座するとクロードが私の背中にくっついたり肩に抱きついたり。今ここにいるはずがない私が訪ねてきたことに興奮していますね。  いつになくはしゃいだ様子に、やはりこちらに来て良かったと思いました。  クロード本人は澄ました顔でさびしくありませんと言っているけれど、まだ五歳なのです。やっぱり寂しいですよね。 「ブレイラ、かいぎはいいんですか? ここにいてもだいじょうぶなんですか?」  真剣に相談に乗ってくれようとするクロードにやっぱり笑ってしまいそうになる。  でもダメです。笑ってはいけません。クロードは本気で心配してくれています。  しかし本当のことは言えませんよね。寂しがっていると思ったからなんて、クロードのプライドを傷付けてしまいますから。  どうやって誤魔化そうかと少し悩みましたが……閃きました。  私は視線を落として困った口調で話します。 「…………じつは」 「じつは?」 「じつは、……会議中にもかかわらず…………眠くなってしまって」 「ええ~っ、かいぎなのにねむくなったんですか~!?」 「じつはそうなんです。うとうとしてしまって……」 「かいぎはちゃんとさんかしないとダメです!」 「そうですよね。どうも旅の疲れがでたみたいで」 「え、だいじょうぶなんですか?」  クロードが私の顔を覗きこみます。  心配してくれるクロードに少しだけ罪悪感。でも今日はあなたと一緒にいたい。 「大丈夫ですよ、ありがとうございます。今日は私もここにいていいですか?」 「えっ、ブレイラが!?」  クロードがパッと表情を輝かせました。  でもすぐに慌てて首を横に振る。喜んじゃいけないと思っているようです。  クロードは励ますように私を見つめます。 「ここにいてもいいですよ。わたしがいるからあんしんしてください」 「頼もしいですね」 「あとで、わたしもいっしょにちちうえにあやまってあげますから、げんきだしてください」 「ありがとうございます。安心したので元気がでてきました」  クロードに元気づけられてしまいました。  しかも会議中に居眠りして途中退席したことをハウストに一緒に謝ってくれるそうです。 「ブレイラ、いまからなにしますか? えほんよみますか? あ、でもおひるねしたほうがいいかな。つかれてますよね?」  クロードが嬉しそうに私に提案してくれます。  しかも旅疲れ中ということになっている私のためにお昼寝まで考えてくれるなんて優しいですね。 「心配してくれてありがとうございます。お昼寝も魅力的ですが、一つしたいことがあるんです」 「したいことですか?」 「はい、私と海を散歩しませんか? ここは白い砂浜が美しい海岸なんです」 「えっ、うみをおさんぽ!? いきたいです! わたしもいきたいです!!」  クロードの顔がパァッと輝きました。  はやくいきましょう! と興奮して私の肩に抱きついたり腕を引っ張ったり。急かす姿が可愛いですね。 「では行きましょうか。コレット、よろしくお願いします」 「畏まりました」  コレットは一礼すると女官や侍女に指示してくれます。  私とクロードは外出する支度をすると、さっそく浜辺へと繰り出しました。 「おお~っ、うみです! これうみですよ! お~い! お~~い!!」 「ふふふ、もっと近くに行ってきてもいいですよ」  浜辺に出ると手を繋いでいたクロードが興奮を隠し切れなくなりました。  うずうずして今にも駆けだしていきそう。 「いいんですか!?」 「いいですよ。行きたいんですよね」 「い、いってきます!」  クロードが海に向かってぴゅーっと駆けだしていく。我慢できなかったのですね。  寄せては返す波打ち際でキャーキャーと歓声をあげています。 「クロード、一人で海に入ってはいけませんよ? 気を付けてくださいね!」 「わかってます~! あ、まって! まってください~! ああ、こんどはおいかけてきた!」 「ふふふ、波と追いかけっこしてます」  はしゃいでいるクロードに目を細めました。  私は侍女が差してくれる日傘の下でクロードの姿を眺めます。 「なんだか懐かしいですね」  会議中にこの浜辺を散歩するのは初めてではありません。  イスラが子どもの時、魔王ハウストと精霊王フェルベオが会議している時にこうして一緒にお散歩したのです。丁度、今のクロードと同じ五歳くらいの時でしたね。  私は背後の城を振り返りました。

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