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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて11

 今、城では四界会議が開かれています。  今回の四界会議の議題は深海で星の杭になったレオノーラ様のことについてでしょう。それは四界の未来について話しあうということです。きっと会議ではたくさんの意見が衝突して紛糾していることでしょう。  私は会議が開かれている部屋の窓を見上げていましたが。 「え?」  窓に人影が見えたと思ったら、あれは……ゼロスですよね。  どうやら休憩中のようでゼロスが窓辺にやってきました。  窓辺に立ったゼロスは士官と談笑しているようですが、……あ、目が合いました。  瞬間、ゼロスが勢いよく窓に張りついて私に向かって大きく手を振ります。 『お~い! ブレイラ、お~い! お~い!』  おかしいですね、遠くて声が聞こえないはずなのに何を言っているか聞こえてくるよう。  私は小さく微笑んでゼロスに向かって手を振りました。  するとゼロスはここからでも分かるほどの笑顔になって、もっと大きく手を振ってくれる。  私はなんだか楽しくなって、波打ち際で遊んでいるクロードを呼びます。 「クロード、こちらへ来てください。ほらこちらです」 「どうしたんですか?」  クロードが不思議そうに私のところに駆け寄ってきます。  私が城の窓を指差すと、クロードもゼロスに気付いてパァッと笑顔になりました。 「にーさまだ! ゼロスにーさま! にーさま~~!!」  クロードも大きく手を振って答えています。  でもゼロスが引っ込んでしまいました。  見えなくなったゼロスにクロードは少し残念そうです。 「……かいぎ、はじまったみたいです。ゼロスにーさま、いってしまいました」 「そうですね、会議の休憩中だったようですね」  残念ですが仕方ありません。私とクロードは散歩の続きをしようとしましたが。 「ああっ! ちちうえとイスラにーさまもきました!!」 「ええっ?」  びっくりしてまた窓を見上げました。  います! ハウストとイスラもいます!  どうやらゼロスは二人を呼んできたようですね。  あ、フェルベオとジェノキスまで来てしまいました。  なんてことでしょうか、窓に魔王と勇者と冥王と精霊王が並んでいます。しかも冥王と精霊王がこちらに手を振ってくれています。  ハウストとイスラは少し呆れた顔をしていますが、それでも浜辺にいる私とクロードを見つめる顔は優しいものでした。 「ブレイラ、みんないます! おーいおーい!」 「ふふふ、そうですね。こちらですよ~」  私もクロードと一緒に手を振りました。  すると今まで見ているだけだったハウストとイスラも苦笑混じりに手をあげてくれます。  四人の四界の王と私とクロードが手を振り合ったりして、なんだか奇妙な光景ですね。でもとっても楽しい。  クロードも夜まで会えないと思っていた父上やにーさま達の顔が見れてとっても嬉しそう。 「あ、そろそろ会議が再開のようですね」  士官が四界の王になにやら話しかけています。  どうやら休憩は終わりのようですね。  ハウストが少し残念そうに私を振り返ります。  目が合って、軽く手をあげた彼に私も頷く。『お疲れさまです。頑張ってくださいね』と気持ちを伝えました。 「かいぎ、はじまったんですね」 「そうですね」  さっきまで四界の王の四人がいた窓にはもう誰もいません。  誰もいない窓を見上げるクロードの眉が八の字になってしまう。 「寂しくなってしまいましたか?」 「……かいぎ、ですから」 「そうですね」  物分かりが良くて助かりますが、『さびしい』と言葉にするくらいはしてほしいものです。だってあなたはまだ五歳なんですから。  でも、それをグッと我慢するのもあなたなのですよね。  ならば、私に出来ることはあなたが限界を迎える前に見つけてあげることだけ。 「クロード、この先に入り江があるんです。行ってみますか?」 「いいんですか?」 「ふふふ、初めてではないので大丈夫ですよ。以前、海賊が隠しアジトにしていた洞窟があるんです」 「えええ~っ、かいぞく!?」  クロードがびっくりして目を丸めました。  もちろん海賊の正体はモルカナ国の現国王アベルです。  でもクロードはアベルの経歴を知りません。アベルとは会ったことがありますが、クロードの物心がついた頃には立派なモルカナ国王をしてますから。 「かいぞくって、えほんにもかいてあったかいぞくですよね! だいじょうぶなんですか!?」  クロードが心配して焦っています。  どうしましょう、なんだか楽しくなってきましたよ。 「じつは私、海賊に攫われたことがあるんです」 「えええええ~! ブレイラ、かいぞくにさらわれたことがあるんですか!?」 「そうなんです。海賊のアジトに迷い込んだ時に攫われたんですよ」  もちろん誘拐犯の海賊とはアベルです。  でもそれを知らないクロードは真っ青になったり真っ赤になったり忙しい。「だいじょうぶなんですか!? ケガはしなかったんですか!?」と心配してくれます。  ああクロード、そんなに心配してくれて……。楽しかったですが、そろそろ種明かしをしましょう。これ以上は可哀想ですよね。  さっそく種明かししようとしましたが。 「ちちうえにおはなしして、まかいのぐんたいをうごかしましょう。かいいきをふうさして、へんなふねがいたらぜんぶつかまえるんです。つかまえたら」 「まってまってまって、まってくださいっ。なに物騒なこと言ってるんですか!」  慌てて止めました。なんだかとんでもないこと呟いてましたよ。  そういえば先日からクロードの戦術の講義が始まったと報告を受けていました。『よいこのせんじゅつ』の教科書を使って専門の講師が教えてくれています。  こんなところで披露してくれるなんて。

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