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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて12

「クロード、落ち着いてください。海賊に攫われたのはクロードが生まれる前のことですよ。ゼロスだって生まれていませんでした」 「でも、さらうなんてひどいです! ブレイラ、こわかったでしょ? そんなのダメです」 「クロード……」  きゅんっ……。  胸がきゅんとしました。  ああクロード、そんなにも私のことを……。  ちょっと感動してしまいますが。 「だからしっかりつかまえときましょう! もしかしたら、まだかいぞくがいるかもしれません! すぐにかいぐんを」 「こらこらこら。クロード、落ち着いてっ」  慌てて止めました。感動している場合ではなかったですね。  それにしてもハウストとクロードはやはり親子ですね。  ハウストも私が攫われた時にこの海域を魔界の戦艦だらけにしたのです。海賊を拿捕するために戦艦の大軍が海を埋め尽くした光景は忘れたくても忘れられません。 「わたし、おちついてますよ? れいせいさがだいじだって、こうぎでならいました」 「しっかりお勉強していてお利口ですね。でももう大丈夫ですから。たしかに攫われましたが、こうしてあなたの目の前にいるじゃないですか。とっても元気ですよ?」  ほら元気、と腕を曲げて力こぶをつくってみたり。  もちろんハウストやイスラやゼロスと比べると細身ですが、それでも山暮らしだったので体は丈夫なのです。 「わかってくれましたか?」 「……わかりました。じゃあ、こんかいはがまんします」 「ふふふ、それでお願いします」  私はクロードに笑いかけ、手を繋いで歩きだしました。  浜辺をゆっくり散歩して入り江に向かっていきます。  前回は入り江でとんでもない目に遭いましたが、今回は大丈夫。四界会議が開かれるので警備は厳重です。  しかもこの場所は私が攫われた場所なので、会議期間中は常に警備兵の目が光っていました。  こうして私とクロードは手を繋いで入り江まで歩くのでした。 ◆◆◆◆◆◆  第三国の離宮・大会議場。  今、ここでは四界会議が開催されていた。  魔王ハウスト、勇者イスラ、精霊王フェルベオ、冥王ゼロス。この四人の王が中心となり、四界のこれからを話しあうのである。  会議は厳粛な雰囲気で進んでいたが。  チラッ、チラチラッ、チラッ。  ゼロスはさり気なく窓の外を気にしていた。  窓から臨めるのはキラキラ輝く大海原。  波の音に誘われて、今すぐ大海原に飛び出してしまいたい!  四界会議の日程がすべて終了したら家族で海水浴の予定だが待ち切れない。  こうしてうずうずしていたゼロスだが、正面に着席していたハウストが目を据わらせる。ゼロスのうずうずは父上にバレていたのだ。 「おいゼロス」 「なに?」 「なにじゃないだろ。集中しろ」 「え、僕がさぼってるっていうの? こんなに真面目に会議に出席してるのに?」  心外だとゼロスが訴えた。  しかしハウストの眉間に皺が刻まれていく。 「さっきからチラチラチラチラ、鬱陶しいんだ。俺が気付いてないと思っているのか」 「あ、やっぱり気付いてた?」  ゼロスはえへっと誤魔化す。  十五歳の少年だが人懐っこい笑顔は三歳の甘えん坊の時と変わらない。  しかし父上には通じなかった。なぜならゼロスの席から海にちらりと視線を向けた時、偶然にもハウストが丁度視界に入ってしまうのである。 「ごめんね、父上がそこにいたから」 「俺が悪いみたいな言い方するな。海を背にして座らすぞ」 「どうしてそんないじわる言うかなあ」 「なにが意地悪だ」  ハウストはそう言うとフェルベオを振り返る。 「中断させて悪かった。あとで言い聞かせておく」 「いや気にしていない。今日は海も穏やかで美しいからな」  フェルベオが笑って言った。  ゼロスも海への興味を振り切るように頭を振ると、「がんばるぞ!」と気合いを入れて書類を手に持った。……ハウストからすれば疑わしい気合いだ。  三歳の時は『うわああああんっ、こらーってされるのやだああ!!』と泣いていたが、さすがに十五歳なのでもう父上の説教も平気だ。  そんな息子であり冥王にハウストは頭が痛いが、それでも幼かった時より成長したのは間違いない。ゼロスが三歳だった時の四界会議ではだいたいスヤスヤ昼寝かお絵描き遊びをしていた。そう、会議中に騒がないようにお絵描き遊び用の画用紙が用意され、白熱する会議の横で『みんなのおかおかいてあげるね』とひたすらお絵描きしていたのだ。しかも『冥王様が描いてくれた似顔絵』ということで似顔絵を描いてもらえた高官たちは額縁に入れて今でも自分の館に飾っているのだという。代々引き継ぐ家宝にしたと聞いた時は耳を疑い、もっといい物を引き継げと心底思ったものだ。ハウストからすればあれはただの子どもの落書き、顔らしき丸に四本の棒が突き刺さっているだけの物体なのである。  もちろん幼児とはいえ厳粛な会議をと反感を覚える者がいなかったわけではないが、それでも替えの利かない神格の存在という立場から許されていた。  その時に比べればゼロスも成長したと思いたい。いまいち緊張感は足りないが。 「そろそろ休憩にしようか」  フェルベオが提案した。  それにゼロスの顔がパッと輝き、イスラは賛成とばかりに書類を置く。  しかしハウストの眉間に皺が刻まれる。 「おい、そいつを甘やかすな」  ハウストとしても休憩に異論はないが、このタイミングはあまり好ましくない。ゼロスの集中力が切れたタイミングで、まるでゼロスのためのタイミング。

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