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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて13

「ハハハッ、そんなつもりはないが丁度いい頃合いだ」  フェルベオは朗らかに笑った。  こうして休憩となり、四界の王の四人はそれぞれ思い思いにすごしだす。会議に参加していた士官たちもほっとしたひと時をすごしだした。  ハウストとフェルベオは軽い世間話をしたり、その近くではイスラがジェノキスとなにげない談笑をしている。  ゼロスは席から立つと大きく伸びをしたりぐるぐる腕を回したり……。  その姿にハウストは呆れた顔になるとフェルベオを見た。 「悪いな、まだ子どもとはいえ冥王だというのに」 「気にしないでくれ。会議中に昼寝をしなくなったじゃないか。赤ん坊の頃から知っているからかな、感慨深く思っている」  フェルベオがそう言うと少し離れた場所にいるイスラをちらりと見る。 「勇者殿がまだ子どもだった時のことも知っているしな」  そんなフェルベオの声が聞こえていたイスラが少し不機嫌そうに振り返った。 「あんただって子どもだっただろ」 「勇者殿より年上だぞ」 「誤差みたいなものだ」  こうしてハウスト、イスラ、フェルベオ、ジェノキスはちょっとした談笑をする。  四界の王のなかで一番年下のゼロスは士官と談笑しながら窓辺に向かう。  最初は海を眺めながら楽しそうにしていたゼロスだったが。 「あっ!」  なにかに気付いて窓に張りついた。  満面笑顔になったゼロスは浜辺を見下ろしながら大きく手を振る。 「ブレイラとクロードだ! お~い、ブレイラ~!」  そう、浜辺をブレイラとクロードが散歩していたのだ。  浜辺のブレイラとクロードもゼロスに気付いているようで、嬉しそうに手を振り合っている。 「ブレイラとクロードは海を散歩か~。いいなあ。僕も行っちゃおうかなあ」  聞こえてくるひとり言。  気持ちは分かるが実行は許されない。  フェルベオは鷹揚に笑い、イスラは若干同意気味で聞き流し、ハウストは呆れた顔になった。  でも少ししてゼロスがハウストたちの方へ歩いてくる。 「みんなもこっちおいでよ。ブレイラとクロードが見えるよ!」  ゼロスが呼びに来た。  本当ならそんな誘いには乗らないが、浜辺にいるのはブレイラ。クロードもいる。  イスラとハウストとジェノキスが浜辺にいるというブレイラを気にならないはずがなかった。そして面白そうなのでフェルベオも行く。  四界の王が揃いも揃ってぞろぞろと窓辺に向かう光景はなんとも言えないものだが、仕方ないのだ。そこにブレイラがいるのだから。 「ほらあそこ。お~い、ブレイラ~!」  ゼロスが浜辺に向かって手を振った。  ハウストも見下ろすと、そこには日傘の下で微笑むブレイラがいた。  ブレイラの隣ではクロードが嬉しそうに手を振っている。そんな二人の側には女官や侍女たちが控えていた。  王妃の華やかな一団が海辺を散歩する光景は絵画のように美しいものだ。  ブレイラがこちらを見上げて手を振る。  それにハウストも手をあげて応えると、ブレイラが眩しそうに目を細めた。  その光を纏ったような煌めく微笑にハウストの気分も浮上する。  ハウストの性格的にゼロスのように大きく手を振って応えることはない。そんな子どものような真似はできない。しかしここは第三国の海、今日くらいは大きく手を振っていいかもしれない。ハウストは手を振りかけたが。 「…………」 「…………」  隣にいるイスラと目が合った。  見るとイスラも手を振りかけた状態で止まっていて……。  気まずい。  非情に気まずい。  イスラもハウストと同じくこういう時にゼロスのように手を大きく振れないタイプなのだ。  …………。  ………………。  二人の間に沈黙が落ちる。  少ししてどちらからともなくそっと目を逸らした。  結局、二人とも手は大きく振れず、ブレイラには手をあげて応えるだけに留まった……。  こうして浜辺を散歩するブレイラを眺めていたが、ジェノキスが手を振りながらニヤリと笑う。 「ブレイラは相変わらず美人だな」 「俺の前でいい度胸だ」  ハウストの目が据わった。  だがジェノキスは浜辺のブレイラを見つめて笑顔のままである。 「あの時と変わらないままだ。あの時、ブレイラと一緒に浜辺にいたガキはすっかりガキじゃなくなったけどな。でもブレイラは変わらない」  もちろんあの時のガキとはイスラのことだ。  断絶状態だった魔界と精霊界が先代魔王討伐を切っ掛けに距離を縮め、初めて親交を深める会議が開かれたのもここだ。  その会議でも今回のようにハウストとジェノキスはここからブレイラを見ていた。  あの時と今の違いは、ブレイラがハウストと結婚して三人の子持ちになったこと。  だがジェノキスは怯まない。諦めが悪い男だと自負している。 「あれで子持ちってのがいい」 「いい加減に諦めろ」 「無理だな。きっと死ぬまで」  ジェノキスは軽い口調で言った。  口調は軽いが言葉は重い。それはハウストの逆鱗に触れるもの。

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