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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて18
「ど、どうして第三国に……?」
四界会議中はハウストが魔界を離れるのでフェリクトールは留守役でした。
それなのに第三国で会えるなんて嬉しいです。
でもね、でも嬉しいけれど今のフェリクトールはとっても怖い顔をしていて。
「あ、あの、フェリクトール様……」
「なにが『私を許してくださいね』だ。そう言えばなんでも許されると思っているのか」
「聞いてたんですか。は、恥ずかしいっ……」
顔が熱くなって両手で頬を覆いました。
そんな私にフェリクトールは「ここにいる全員聞いていたよ」と呆れた顔をしてしまう。
フェリクトールは次にハウストをギロリッと睨みます。
「君も君だ、なにが『許す』だ。簡単に許すんじゃない。君は王妃に甘すぎるんだよ」
「今更だろ」
「開き直るとは恐れ入った」
「お前こそそろそろ慣れたらどうだ。いつものことだろ」
「私が慣れたら魔界の威厳はどうなる」
フェリクトールが心底嫌そうに言いました。
いつも家族揃ってお世話になっているのでなんだか申し訳ないです。
「フェリクトール様、申し訳ありません。今後は気を付けます」
「その今後とやらがいつ来るのか知らないが、しっかり反省したまえ」
「はい、反省します。でも第三国でフェリクトール様にお会いできて嬉しいです。フェリクトール様がいないのは寂しいので」
そう言って小さく笑いかけました。
私はどんなに叱られてもフェリクトールが大好きなのです。私が魔界で暮らし始めたばかりの時、魔界で初めて私の居場所を作ってくれたのはフェリクトールなのですから。
「うれしいです」
もう一度言ってフェリクトールの衣装の端を指でつまむ。
するとフェリクトールが私を振り返って目が合う。少しして「はあ……」と諦めたような息をつきました。でも表情が僅かに柔らかくなっています。
「……もういい。次から気を付けたまえ」
「ありがとうございます」
やっぱりフェリクトールは厳しいけれど優しいのです。
私は嬉しくなってまたフェリクトールに笑いかけましたが。
「……おいじいさん。ほだされるの早過ぎだろ」とジェノキス。
「途中までは説教しようとする気はあったのにな」とイスラ。
「アハハッ、フェリクトールがんばれてない」とゼロス。
「こ、こらっ。そんなこと言ってはいけません」
私は慌てて注意するけれど、ああいけません。フェリクトールがまた怖い顔になってしまいました。
このままでは良くないので話しを変えてしまうことにします。
「それでフェリクトール様、どうして第三国に?」
「どうしてもなにも、まさに今さっきの現象が原因だよ。クラーケンの出現を無視することはできない」
フェリクトールが厳しい顔つきで言いました。
私も重く頷いてハウストを見つめます。
クラーケンという異形の怪物がなんの前触れもなく出現したのです。それは異常事態でした。
「四界でなにかが起きているということでしょうか……」
「まだ断定はできない。今のところレオノーラが絡んでいる可能性は低いが、異形の怪物が出現したことは重く受け止めねばならん」
ハウストが険しい顔をしながらも答えてくれました。
異形の怪物は四界が不安定になった時に出現が多発します。
四界の不安定要素。それは今まで多くの謎を孕んでいましたが、初代時代に行ったことで多くが解明しました。
四界が不安定になる理由として最も最悪な事態を引き起こすのが深海のレオノーラが原因の時です。それは星の終焉を差しているからです。
ではそれ以外の理由をあげるなら。誰かが意図的に異形の怪物を出現させた可能性でした。
「フェリクトール様、深海に変わりはありませんか?」
「詳しい調査が必要だが、深海からは特に何も感じない」
「そうですか。では誰かが……」
「そう考えるのが妥当だろ。問題はその誰かだが」
フェリクトールはそう言うと四界の王を見ました。
「一度にこれだけの異形の怪物を出現させたんだ。相手はそれなりの力を持っていると見てもいいだろう。君たちになにか心当たりは?」
「精霊界には思い当たることはないかな」
まずフェルベオが答えました。ジェノキスも特に思い当たることはないようです。
「魔界にもないな」
「人間界は各国の調査が必要だが、異形の怪物に繋がる不穏な心当たりはない」
ハウストとイスラも答えました。
すぐに思い当たることはないようです。
でも。
「……ゼロス、どうしました?」
ゼロスがいつになく真剣な顔で黙り込んでいました。
その様子になんだか胸がざわついてしまう。
ハウストとイスラもゼロスの様子に気付いて不思議そう。
私たちの視線を集める中、ゼロスがギギギッ……と音がしそうな重々しさで振り返りました。そして。
「…………僕、……心当たりあるかも」
「ええっ!」
思わず声をあげてしまう。
もちろん驚いたのは私だけではありません。ハウストとイスラとフェルベオも驚きを隠しきれません。
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