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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて21

「どうしました? なにかご用でしたか?」 「ごようです。ブレイラ、こっちです」  そう言ってクロードが私の耳元に顔を寄せてこそこそ話しをする。 「ブレイラ、ちちうえにごめんなさいってできましたか?」 「ん?」  目をぱちくりしてしまう。  意味が分かりません。  でもクロードは真剣な顔で私を見つめています。 「ちちうえ、ブレイラにコラーッてしたんですね。ブレイラ、げんきないです」 「んん?」  ハウストが私に?  私が元気がないように見えるのはゼロスが心配だからですが、かといってハウストにコラーと叱られるようなことは……。  …………ああ!! 思い出しました!  そうですっ。私、四界会議中に眠くなってクロードの部屋に遊びに行った設定でした!  私はすっかり忘れていましたが、クロードはずっとそのことを気にしてくれていたようです。今も心配そうに私を見ています。 「ブレイラ、だいじょうぶです。ちちうえがまだおこってるなら、わたしもいっしょにあやまってあげますからね」 「クロードっ……」  なんて優しいっ。胸がきゅんっとしました。  励ましてくれるクロードの小さな手をぎゅっと握りしめます。 「クロード、ありがとうございます。優しいのですね」 「だいじょうぶです。わたしはブレイラのみかたです」  クロードがキリッとした顔で言ってくれました。  いつもの澄ました顔に今はキリッとした凛々しさが見えます。  実際のところハウストに叱られてませんし誤解なのですが、こうして幼い末っ子がなんとかしようと頑張る姿は可愛いのです。  そしてハウストを振り返りました。 「ちちうえ」 「な、なんだ」  いつにない末っ子の様子にハウストが訝しみます。  でも今のクロードは真剣にハウストと対峙する決意のよう。  私の手を引いてハウストの前に連れてくると、「ブレイラ、わたしがいっしょです」などとかっこいいことを言う。  そしてハウストが座っているソファに真剣な顔で正座しました。 「ちちうえ、ブレイラもはんせいしています。そろそろゆるしてあげてください」 「許す?」  ハウストがクロードの後ろに立っている私を見ました。 『おい、こいつはなにを言ってるんだ』と目で訴えてきます。  私もクロードに気付かれないように目と仕種で答える。 『これはクロードの優しさです。応えてあげてください』 『なんだと……』  ハウストが心底面倒くさそうな顔をしました。 『本気か』 『本気です』  重く頷くと、ハウストはクロードを見下ろします。  クロードは真剣な顔で正座していました。ハウストを説得する気満々です。 「ちちうえがおこるきもちはわかります。よんかいかいぎでいねむりするのはダメですよね。ブレイラもよくなかったとおもいます」  クロードが真剣な顔でハウストに話します。  でもそんなクロードの頭上でハウストと私が目だけで会話する。 『四界会議中に居眠りしたのか?』 『設定です。そういう設定なんですっ』 『設定……。お前、またなにかしようとしてたのか?』 『なんですかその言い方は。まるで私がいつも良からぬことを企んでるみたいじゃないですか』 『…………』 『どうして無言なんです』 『……どうしてだろうな』 『ムッ、怒りますよ』 『今は俺がお前を怒ってる設定じゃなかったのか?』 『あ、そうでした』  私は思い出してソファのクロードを見つめます。  せっかくクロードが私のためにハウストを説得しているのに、私の方がハウストを怒ってはいけませんよね。 「ちちうえのきもちはわかりますが、ブレイラだってはんせいしているのに、いつまでもおこっているのはどうでしょうか」  末っ子の説得にハウストがむむっと眉間に皺を刻みます。  それにクロードが目ざとく気付く。 「ああっ、それ! そのこわいおかお! それはダメです! そんなおかおしてると、ブレイラだってこわくなってしまいます!」 「怖い顔……」  心外だなとハウストの眉間の皺が深くなる。  これは癖のようなもので、彼に怖い顔をしているつもりはないのです。  でもクロードはここぞとばかりにプンプンです。 「いつもおもってました! ちちうえ、おこるとこわいかおするのダメです! もっとやさしいかおでおこってください!」  これ、どさくさまぎれに個人的な要求もしてますね。  思い起こせばゼロスも三歳の頃に同じような要求をハウストにしていました。どうやらハウストの眉間に皺を刻んだ顔は子どもにとっては怖い顔のようです。  ハウストが少し呆れた顔で軌道修正させます。 「……クロード、論点ずれてないか?」 「ん? ……あ、ごめんなさい。ついうっかり」  クロードもハッとしました。  照れを誤魔化すようにコホンッとする。 「でも、これでちちうえもわかったんじゃないでしょうか。ブレイラもはんせいしていますから、ゆるしてあげてください」  クロードはハウストにそう言うと私を振り返ります。 「ブレイラもはんせいしてますよね? ね?」 「もちろんです。とっても反省しています。もう居眠りしません」 「ほらブレイラだってこういってます! ね、ちちうえ、だからもうゆるしてあげてください!」 「許してください、ハウスト」  私もクロードに合わせてお願いしました。  必死なクロードと、その後ろでニコニコしてしまう私。だって私のために一生懸命なクロードがかわいくて。こういうのって嬉しいものですね。  しかしハウストの方はなんとも複雑な顔で私を見ています。

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