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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて22

「なんなんだこれは……」 「ハウスト、ごめんなさい。許してくださいね。ね?」  ニコニコとハウストを見つめる私。  じーっと私を見つめるハウスト。  少ししてハウストが諦めたようなため息をつきました。 「……分かった。もういい、もう怒っていない」 「許してくれるんですね、ありがとうございます」 「よかった~! ちちうえ、もうおこってないです!」 「ふふふ、クロードのおかげです。ありがとうございました」  お礼を言うとクロードが照れ臭そうにはにかみます。 「ちちうえがおこってたらいやだったんです」 「そうだったんですね。でもどうしてですか?」  そう聞くとクロードがハウストと私を交互に見ました。  そしておずおずと教えてくれます。 「よんかいかいぎがおわったら、みんなでうみにいくから」  クロードはそう答えると私に確認してきます。 「ゼロスにーさまはめいかいにいってるけど、すぐにかえってくるんですよね?」 「はい、会議期間中に帰ってきますよ」 「よかった。イスラにーさまもおしごとおわりますよね?」 「もちろんです。イスラなら間違いなく終わらせてくれますよ」  私が答えるとクロードの顔がパァッと明るくなりました。  その様子に私も温かな気持ちになります。  だってクロードは四界会議が終わった後の海水浴をとっても楽しみにしていたのですから。  そうですよね、家族全員揃って海水浴したいですよね。せっかくならみんながご機嫌なのがいいですよね。  とっても可愛い期待に愛おしさがこみあげて、いい子いい子と頭を撫でてあげました。  家族で海水浴を楽しみにしているクロードが可愛くてしかたありません。  でもふと気になってしまう。  イスラはともかく、冥界へ行ったゼロスは大丈夫でしょうか。  冥王なので大丈夫だと信じていますが、それでも異形の怪物が絡んでいるかと思うと…………。  落ち着かない気持ちになって黙り込んでしまう。  でもハウストの視線を感じて顔をあげる。 「…………な、なんですか?」  ハウストが私をじっと見ていました。  私の心の内を探ろうとするような、見抜こうとするような……。そう、勘ぐるような眼差し。 「……私になにか言いたいことでも?」 「お前こそ俺に後ろめたいことでも?」 「…………」 「…………」  居心地悪い沈黙が落ちました。  ハウストの視線から逃れるようにさりげなく顔を逸らす。  すると丁度、扉が女官にノックされました。 「失礼します。クロード様、そろそろお休みの時間です」  世話役の女官がクロードを呼びに来たのです。  これ幸いと私は「クロード、お休みの時間です」と声を掛ける。話題変更は成功です。  クロードは名残り惜しそうにするけれど読んでいた参考書を片付けました。 「ブレイラ、いきましょう」 「はい、行きましょうか。父上にご挨拶してください」 「ちちうえ、おやすみなさい」  クロードがぺこりっと頭を下げました。とってもお行儀がいい子です。  こうしておやすみの挨拶をすると私と手を繋ぎました。 「ハウスト、ではクロードを寝かせてきますね」 「ああ、頼む」 「任せてください。クロード、行きましょうか」 「はいっ」  難しい参考書を読んだりお行儀が良かったりするクロードですが、こういうところは年相応の甘えん坊です。一人で眠れるようになったけれど添い寝が必要ですからね。  私はクロードを寝かしつけると、またハウストがいる部屋に戻ることにします。  まだ大人が休むには早い時間なので、きっと待ってくれているでしょうから。  廊下を歩いていると、ふと前からイスラが歩いてきました。どうやら政務が終わったようですね。 「イスラ、おかえりなさい。もう政務は終わりですか?」 「ただいま。ああ、終わったところだ」  イスラは私のところへ来ると頬に唇を寄せてくれる。  おかえりの挨拶に目を細め、私からもイスラの頬に唇を寄せました。 「精霊王様との会談はいかがでしたか?」 「問題ない、つつがなくだ。必要な話しは終わらせてきた」 「そうですか、お疲れさまです。クロードがイスラの仕事はちゃんと終わるのかと心配していましたよ」 「なんだそれは」 「ふふふ、みんなで海で遊ぶのを楽しみにしているんです」  私は思い出して小さく笑ってしまう。  クロードは家族で海水浴をするのをとても楽しみにしているのです。  添い寝している時も眠りに落ちる寸前までクロードは海水浴の話しをしていました。にーさまたちと泳いだり遊んだりするそうです。 「それでか。大丈夫だ、二回目の四界会議で今回の政務は落ち着く。それよりゼロスは冥界か?」 「はい、今夜から冥界に行きました。明日には帰ってくるといいのですが」 「大丈夫だろ。あいつは冥王だ」 「そうですね……。…………」  ハウストと同じ返事です。やはりイスラもそう思うのですね。  僅かに視線を落としてしまう。  ……今、ゼロスは冥界でなにをしているでしょうか。  見当がついていると言っていましたが、あの行方不明者は見つかったでしょうか。異形の怪物が出現した謎は解明したでしょうか。  …………気になります。とても、とても気になります。  イスラも一緒に気になったりしてくれないでしょうか。  ちらっ。イスラをちらりと見つめました。  ちら、ちら。またイスラをちらちら見つめました。

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