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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて23
「…………」
イスラが無言になります。
だから私はイスラをじーっと見つめたわけですが。
「……ブレイラ」
「なんでしょうか」
「…………ダメだぞ」
イスラが困惑しながらも言いました。
「私はまだなにも言ってませんよ」
「だいたい分かる。ゼロスが心配だから冥界に連れていけとでも言うつもりなんだろ」
「ち、違いますっ」
慌てて言い返しました。
でももちろんウソです。図星です。
そんなのゼロスが心配に決まってるじゃないですか。でも見透かされていたようでなんだか悔しい。しかも少し呆れた顔をしていて、ますます悔しいじゃないですか。
「なんだ違うのか」
「そうです、違います。私はただ…………イスラもゼロスを心配してるのではないかと思っただけで」
「そうきたか」
イスラが腕を組んで感心した顔をしました。
……なんですか、なんだか生意気ですね。
「…………違うのですか?」
「違わないけど、それはブレイラが」
「ん?」
下から顔を覗き込んでやりました。
大人になったイスラの背丈は私をとっくに超えて、今やハウストと並んでも見劣りしないまでになりました。
立派に成長してくれたことは嬉しいですが、こうして見上げていると少しだけ悔しい気もします。なので今はその気持ちもこめて、「どうなんです? んん?」と下からじーっと見つめてやりました。
するとイスラが両手をあげて降参してくれます。
「ああ、心配だ。俺も心配してる。よく分かったな」
「イスラのことなので」
「降参。俺の負けだ」
「ふふふ、私だってイスラには負けてばかりですよ?」
私はニコリと微笑んで答えました。イスラの答えに満足ですよ。
そんな私にイスラが優しく目を細めてくれます。
さあそうと決まれば冥界へ行きましょう。すぐにでも行きたいところでしたが。
「――――そんなことだろうと思ったぞ、ブレイラ」
「ハウスト!」
背後からハウストの声。
ハッとして振り返るとハウストが立っていました。
「どうしてここにっ」
「お前の今までの行動パターンを考えれば分かる」
ハウストはそう言うと今度はイスラを見ます。
「お前、勝てよ。負けるなよ。即降参とはどういうことだ、少しは戦え」
「ハウストがそれを言うのか」
「お前より戦えるはずだ」
ハウストはイスラにそう答えると、また私に視線を戻しました。
いつもより厳しい顔で私を見ます。
「ブレイラ」
「なんでしょうか」
……私、怒られてしまうのでしょうか。
おずおずとハウストを見上げます。
目が合うと、ムムッ……とハウストが眉間の皺を深くする。
「……ごめんなさい、怒っていますよね」
「理由は分かっているな?」
「はい……。冥界へ行こうとしたことです」
「そうだ。創世期の冥界は人間が行って無事でいられる世界じゃない。お前も分かってるはずだ」
「だからイスラにお願いして」
「それが言い訳になると思っているのか」
ハウストが遮るように言いました。
そんなハウストにイスラは感心した様子で「おお~、戦ってる。こんなに頑張ってるハウストは初めてだ」と呟いてます。
なんだか少し楽しそうにしているイスラですが、私は、わたしはっ……。
「っ……」
胸が締めつけられたかのようにぎゅっとする。鼻がツンとして、顔までぎゅっとしてしまって……。
「お、おい、ブレイラ?」
ハウストのぎょっとした声。
でもなんとなく目を逸らしてしまう。
今はなんだか顔を見られたくありません。
「ブレイラ……。その、なんだ、俺はお前を思って……」
「…………」
右からそっと顔を覗かれたので、そっと左を向きました。
ハウストが悪くないのは分かっています。悪いのは私ですよね、でも今は顔を見られたくありません。
「……さ、さっきは言い訳になると思っているのかとか言ったが、よく考えたらちゃんと言い訳になっているな。よく考えたら立派な理由だ。お前の言い分も理解しよう」
そう言って今度は左から顔を覗かれたので、そっと右を向きました。
もちろんハウストが悪くないのは分かっているのですよ。悪いのは間違いなく私です。ワガママ言いましたよね。でも今は顔を見られたくありません。
「…………ブレイラ、頼むからこっちを見ろ」
「……いやです。……きっと今の私、顔がくしゃっとしてるんです。見られたくありません」
「俺はどんな顔も見たい。もちろん笑ってくれるのが一番いいが」
「……では、あなたが私を笑顔にしてください。今はあなたしか出来ないことです」
「ブレイラっ」
返事をした私にハウストが少しだけ安堵する。
その様子に私も内心で嬉しくなります。だって見つめあえないことをハウストも不安に思ってくれたということですよね。
ハウストは少し思案するとイスラを見ます。
「イスラ、分かっているな?」
「いいのか?」
「いいもなにも、お前に止められるのか?」
「経験上無理だ」
「同意見だ」
「あ~あ、善戦してたのに一瞬で敗戦したな。無駄な抵抗だった」
「うるさいぞ」
ハウストはイラッとした口調でイスラと話しましたが、また私に向き直ります。
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