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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて25
「きのうは、ちちうえはだいじょうぶ。ブレイラもだいじょうぶ。イスラにーさまは……ちょっとおそかったけどだいじょうぶっていってました」
クロードはノートを開いて書き込んでいく。
家族全員が昨日も予定通りすごせたかちゃんとチェックしているのである。
昨夜のイスラは遅くまで精霊王と政務をしていたので会うことはできなかった。でもブレイラがイスラなら大丈夫と言っていたので大丈夫なのだ。
「えーっと、ゼロスにーさまは、…………。……ゼロスにーさま~~」
思わずクロードの声が低くなった。
だってゼロスは急遽冥界へ行ってしまったのだ。政務だから仕方ないと分かっていても予定外のことである。海水浴までにちゃんと帰ってきてくれるのかクロードはハラハラだ。
クロードはムムッとチェックノートを見つめる。心配だ。とっても心配だ。
クロードはみんなで海水浴がしたいのだ。ちゃんと帰ってきてくれなくちゃ困る。
「ゼロスにーさまだいじょうぶかなあ……。ブレイラはすぐかえってくるっていってたから、……だいじょうぶですよね。ゼロスにーさまはめいおうだし」
クロードはチェックノートに書きこんだ。
昨日の家族の生活チェックが終わると今日の予定を確認する。
今日もクロードは一人でお留守番だが、もしかしたら昨日のようにブレイラが来てくれるかもしれない。
ブレイラが一緒だと寂しくなくて、留守番でもとっても楽しくすごせるのだ。
そう思うとワクワクしたが、ハッとして頭を横に振る。
「そうだっ、いけないことでした! ブレイラはおしごとなんですから!」
ブレイラはお仕事で第三国に来ているのだ。クロードと一緒に遊んでいてはダメなのである。
だから今日はブレイラが『クロード、居眠りしそうです』って言ってきても、『いねむりはダメですよ。ブレイラはおしごとです』と言ってあげよう。ブレイラは拗ねてしまうかもしれないけれど、今日はがんばってくださいって応援するのだ。
クロードはそう決めるとチェックノートを持って寝室を出た。
すれ違う女官や侍女から挨拶されながら広間へ向かう。今から朝食なのである。
朝食の広間にはすでに父上とブレイラがいることだろう。ゼロスにーさまは冥界でいないけど、イスラにーさまはきっといるはずだ。みんな揃って食事をするのは家族の決まり事である。クロードはこの時間が大好きだ。
クロードは長い廊下を歩きながら窓の外を見た。
第三国は今日も朝からとっても良い天気。空も海もキラキラ輝いて、朝からとってもいい気分。今日も第三国のステキな一日が始まった。
そう、この時クロードは知らなかった。自分が就寝中に想定外の出来事が起こっていたことを……。
クロードは朝食の広間に入った。
でも。
「おはようございます。……あれ?」
広間にいたのは父上であるハウストだけだった。
もちろん女官や給仕もいるけれど、いると思っていたブレイラとイスラがいない。
クロードはきょろきょろしながら朝食の椅子に着席した。
「ちちうえ、ブレイラとイスラにーさまは?」
不思議に思って聞いてみた。
あの二人が寝坊しているとは考え難い。ここに父上がいるなら尚更だ。
しかし質問した瞬間、ハウストがハッとした顔でクロードを見た。『そうだ! お前がいた!』とばかりに……。
「ちちうえ?」
いつにないハウストの反応にクロードは首を傾げてしまう。
でもハウストは……コホンッと咳払いすると改めてクロードを見た。
「おはよう、クロード」
「う、うん。おはようございます」
二度目の挨拶だ。
やっぱりいつにないハウストの反応である。なにか困惑している気がした。
クロードは不思議に思いながらもまた質問する。
「それで、ブレイラとイスラにーさまは? ふたりはまだなんですか?」
「…………」
「ちちうえ、ブレイラとイスラにーさまは?」
質問しながら持ってきていたチェックノートを開いた。
自分の朝食は今日もいつもの時間。〇印をつける。
父上もいつもの時間に朝食。〇印をつける。
ゼロスにーさまは冥界だから『めいかいでおしごと』と書いておく。
ブレイラとイスラもいつもの時間……。いつもの時間になっているのに二人は広間に来てくれない。
「ねえちちうえ、ブレイラとイスラにーさまはまだなんですか?」
「…………」
「ふたりはなにしてるんですか?」
「…………」
「ちちうえ……?」
ここにきてクロードも異変に気付いた。
父上の様子がおかしい……。
クロードはハッとする。もしかしてブレイラとイスラになにかあったのかもしれない!!
「ブレイラとイスラにーさまになにかあったんですか!? びょうきとか!!」
「待て、そういうわけじゃない。そういうわけじゃないんだっ……」
ハウストは焦って否定した。
放っておくとクロードは広間を飛び出してブレイラを探しに行きそうだったのだ。
「それじゃあブレイラとイスラにーさまはどうしてこないんですか!? なにしてるんですか!?」
「……二人は」
「ふたりは!?」
「二人は…………冥界に行った」
「えっ?」
……めいかい?
めいかい。……冥界。
「ど、ど、どうしてですかあああああああ~~!!!!」
クロードは絶叫した。
お腹の底から絶叫した。
椅子からぴょんっと飛び降りるとハウストのところに駆け寄る。
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