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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて32

「はい座って、そこに座って。反省だから正座すること」  ゼロスが腕を組んで二人の少年を見ました。  少年の名前はリオとルカ。二人は双子の兄弟でした。  私やイスラに特殊工作魔法陣を仕掛けた方が兄のリオ。けんかっ早くて乱暴な言葉遣いが特徴です。  洞窟でゼロスに捕まっていたのは弟のルカ。おどおどした表情と言葉遣いが特徴です。  顔はそっくりな双子ですが、どうやら性格は正反対のようですね。  リオの方は正座しながらも拳をプルプル震わせています。  反抗的な態度丸出しのリオが隙あらば魔力を高めますが、ガクンッとリオが崩れ落ちる。  ゼロスの圧倒的な魔力がリオを制圧したのです。戦闘が終わって状況はひと段落ついているように見えますが、ここにいるのがゼロスやイスラでなければこの双子を抑えこむのは難しいでしょう。 「クソッ、殺してやるっ……!」 「はいはい、そういうの終わり。僕に勝てないって分かったでしょ?」 「っ……」  リオが悔しげに唇を噛みしめます。  その後ろではルカが不安げにおどおどしていました。  そんな二人の前にゼロスも座ってなんだかお説教モードです。  それというのも、さっきこの二人は異形の怪物を召喚しました。  洞窟にいたルカがゼロスに拘束され、それを目撃したリオが助けようと洞窟に飛び込んだのです。一緒にいた私とイスラも突然リオが走りだしたのでびっくりして後を追いかけたのですよ。  そこで私たちが目にしたのは驚くべきことでした。再開した二人は膨大な魔力を発動して異形の怪物を召喚したのです。  この双子は一人でも特異な魔力を持っていましたが、力を重ね合わせると膨大な魔力を発生させられるようです。それは異形の怪物を召喚させるほどの。  召喚によって大惨事になるはずでしたが。 「あのね、ああいうのは気軽に召喚するものじゃないの。分かってる?」  ゼロスは腕を組み、正座させた二人にお説教。  そう、ゼロスが一人で怪物を倒し、双子もまとめて制圧して捕縛しました。戦闘時間はおよそ三分。あっという間の余裕の制圧でした。イスラは一歩も動かなかったので、ゼロス一人で対処できると判断したのでしょう。  でもこれは対峙したのがゼロスだから双子を制圧できて、しかもお説教までしてしまえるわけです。もしここにいるのがイスラやゼロスでなければ双子を捕縛するのは難しかったでしょうね。  私はお説教するゼロスと、悔しげに正座するリオと、その隣で正座しながらおどおどしているルカ、この三人を交互に見ました。  ……ゼロスが張り切っていますね。  ゼロスは子どもの頃から甘えん坊でやんちゃなイタズラ好きです。どちらかというとお説教をするよりされる方が多かったくらい。 『うわああああん! コラーッてされるのやだあああ!』と泣いていた姿を知っているので、今のように真っ当なことを言いながらお説教する姿はなんだか不思議で……。  私は不思議な気分で見学していましたが、でも少ししてゼロスの側へ。 「ゼロス」 「どうしたの?」  振り返ってくれたゼロスの隣に私も正座しました。  こうしてお説教を遮って、ゼロスに言い聞かせるようにお願いします。 「ゼロス、もう少しお手柔らかにしてあげてください。相手はまだ子どもですよ」 「そうだけど、子どもだから教えておかなきゃいけないこともあるよ。あの怪物をどうして召喚できるのかも聞きたいし」  ああやっぱり不思議な気分。ゼロスも言うようになったじゃないですか。  どうしましょう、ツンツンと突っついていじりたい気分。でも今そんなことをしてはいけませんよね。ゼロスは真剣です。 「そうですね、聴取も大切な仕事です。ではお説教はそろそろ切り上げて、聴取に移行しませんか?」  私はゼロスの親なので、今もゼロスが本気で怒っているわけではないのが分かります。ゼロスは甘えん坊なところもありますが甘やかすのも好きなのですよ。それは弟のクロードがいるからでしょうね、ゼロスは年下に対して面倒見がよくて、なにかとお世話をしようとしてくれますから。  でもここにいる双子はそれを知りませんよね。ゼロスに圧倒的な力で制圧されたのですから恐怖を感じて当然です。きっとこのなにげないお説教にも怯えてしまっていることでしょう。  だから私はゼロスにお願いします。冥王に意見することはできないので、お願いすることしか出来ません。 「ゼロス、お願いです。お説教はそこまでにしてあげてください」 「でもまだ大事なこと言ってないんだけど」 「もう充分伝わっていますよ。それ以上は怖がられてしまうだけです。それでは聴取の方もままならなくなるのではありませんか?」 「えっ、僕って怖いの!?」  ゼロスが驚いた顔になりました。  どうやら気付いてなかったようですね。  でもそれは仕方ないことかもしれません。ゼロスは魔界の城で生まれ、魔王の父上や勇者の兄上に囲まれて成長したのです。そんな自分より強い存在が身近にいる環境で育っているので、世間からの自分の評価を見誤る時がありました。  世間一般から見て、ゼロスは畏怖を覚えられるほど規格外な存在なのですよ。本人はあまり意識していませんが、自覚が甘いのは困りものです。 「私はあなたの優しさを知っています。でもね、それは私があなたの親だから知っているのです。あなたのことをとてもよく知っているから。しかしそうでない人から見たら、あなたの規格外の強さは恐ろしいものに映ることもあるのですよ」 「うーん、たしかにそうかも……」  ゼロスがうーんと考えて納得してくれました。  この素直さは子どもの頃から変わりませんね。 「分かってくれてありがとうございます」  ゼロスに礼を言うと今度は双子を振り返りました。  私は安心させるように優しく笑いかけます。

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