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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて33
「私、双子の子どもをこうして近くで見たのは初めてなんですけど、双子ってほんとうにそっくりなんですね」
「余計なことするなっ」
リオにギロリっと睨まれました。
場を和ませようとしたのですが失敗です。リオはピリピリして警戒心を剥き出しです。
でも。
「……そうなんです。……ぼくたちとってもそっくりなんです」
ルカの方が答えてくれました。
相変わらずおどおどしているけれど、さっきより少しだけ安心してくれたようです。
でもそんなルカにリオが怒鳴りつける。
「ルカ、なに答えてるんだよ! こんなヤツ相手にすんな!」
「で、でも、ぼくたちに優しくしてくれたし……」
「信用すんな! オレたちを利用する気なんだ!」
リオの警戒心はかなり高いようですね。
きっとこの双子は今まで二人で生きてきたのでしょう。二人はお互いしか信じていないのです。
「オレたちに関わるな! ルカ、こっちに来い!」
「う、うん……」
ルカがこちらを気にしながらもリオの後ろに隠れます。
二人は互いを庇いながら私たちと向き合いました。
やはりとても警戒されている様子。しかし二人には確かめなければならないことがあります。
「冥界に移民として一時的に滞在し、そのまま行方を眩ませたのはあなた達ですね。行方不明者は一人だと思っていたのですが、まさか双子だったなんて」
そう言った私にゼロスもうんうん頷きます。
「そう、あの移民たちの中にいたのは一人だった。僕が見てたから間違いないよ」
「ならば答えは一つだろ。密入国だな。先に一人が冥界に入り、もう一人を呼び寄せた。常人なら難しいがこの双子の魔力なら可能だ」
イスラが淡々とした口調で言いました。
少し離れた場所に腕を組んで立ち、淡々とした涼しい面差しで私たちを見ています。
それは少し無愛想に見えますが私にとってはいつものイスラ。でも……。
「っ、……」
「うぅ……」
リオとルカは警戒を強めました。
そうですよね、怯えてしまいますよね。
私は苦笑して「大丈夫ですよ」と双子を宥めます。
「大丈夫です、二人に危害は加えません。約束します」
「嘘だ! 大人はそうやって嘘をつく! オレたちを利用する気なんだろ!」
「そんなつもりはありません。こんな子どもだというのに、あなた達のなにを利用するのです」
「魔力! オレたちの魔力が強いからっ……!」
リオが私たちを睨みつけて声を荒げました。
私は困ってしまいます。「たしかに強いですが……」と誤解を解こうとしましたが。
「強い? え、強いの? たしかに強い方だと思うけど」
ゼロスがきょとんとした顔で言いました。
そんなゼロスにイスラが呆れたため息をつきます。
「ゼロス、言ってやるな。たしかに二人は一般的に考えれば強い方だ。俺たちはこの程度の魔力に興味はないが、一般的には利用されることもあるだろ」
「ああ、そういうこと。僕たちが利用するとか言ってるから、なにに利用するんだろうと思って」
目の前で交わされたイスラとゼロスの会話。
その会話にリオとルカが羞恥と混乱と困惑で真っ赤になっている。
「ご、ごめんなさい、二人に悪気はないんですっ」
私は慌てて双子に謝りました。
ああイスラ、ゼロス……。この兄弟はほんとうにもうっ。
でもイスラとゼロスの言葉は妙な説得力があるようでした。ルカがおずおずと口を開いたのです。
「……勝手に冥界に入ってごめんなさい。ぼくたち、逃げてきたんです……」
「ルカ!」
「……にーちゃん、もう全部話そうよ。それに、もう逃げられないってにーちゃんも分かってるよね……」
「っ、……もういい勝手にしろ!」
ルカは荒っぽく言い返しました。でも拗ねた顔で黙り込んだので諦めてくれたようです。
話す決意をしてくれた二人に私はほっと安堵する。この二人が冥界に侵入していたことには変わりなく、こうして捕縛したなら連行しなければならないのです。そうすれば子どもとはいえ厳しい尋問は免れません。でもここで話しを聞ければ、その理由によっては保護という形式をとれるかもしれませんから。
「聞かせてください。逃げてきたとはどういう意味ですか?」
「……ぼくたちは、どこの世界にも居場所がないんです。ぼくたちは魔族と精霊族の混血だから」
「混血……」
リオとルカは魔族と精霊族の混血児でした。
その事実にイスラが納得したように頷きます。
「その魔力の強さは混血だからか」
「混血だと強くなるとか、そういうものなんですか?」
「絶対ってわけじゃないけど、そういう傾向だっていう論文がある。しかも一パーセント以下の確立で突然変異の魔力を持って生まれる子どももいるようだ」
「そうでしたか」
両親の魔力が強ければ子どもも強い魔力を持っていることが多いです。混血児はその傾向が特に強いようですが、この双子の場合は突然変異に分類されるということでしょう。これで二人の特異な魔力の強さも納得できます。
本来は魔力が強いと尊ばれるものですが、二人にとってはそうでなかったようですね……。
大きな力は自分を守ることができるけれど、望まない災いを呼んでしまうこともあるのです。
「あなた達が冥界に逃げてきたのは、魔界にも精霊界にもいられない事情があるからですね」
「はい……。ぼくたちは魔界の小さな村で暮らしていたんですが、両親はぼくたちが小さい頃に病死しました。両親が結婚した時は今みたいに魔界と精霊界が仲良くなかったから、両親が倒れた時も誰にも頼ることができなくて……、うぅ」
その時のことを思い出したのかルカが話しながら涙ぐんでしまう。
リオも悔しそうに唇を噛みしめています。
この双子はゼロスよりも年下の子どもだというのに、辛い記憶が胸に刻まれてしまっているのです。それは理不尽な現実という悲しい記憶。
当時は今のように魔界と精霊界が親交を結んでいなかったので、異種族の結婚や混血児は差別や迫害されることもありました。私がハウストと出会ったばかりの頃も、人間界に嫁いできた魔族の女性が殺されたことを覚えています。
「ごめんなさい。辛いことを思い出させてしまいました。少し休みますか?」
「大丈夫です、話せます……。両親が死んでから村の助けでなんとか暮らしていましたが、ぼくたちの村が盗賊に襲われたんです。ぼくたちは魔力が強かったから殺されなかったけど、捕まって仲間にされてっ……。でも盗賊なんて嫌だったから、強い魔法陣を覚えて、盗賊をやっつけてここに逃げてきたんです……」
「そうでしたか。大変な思いをしましたね」
聞いているだけで私は胸が痛くなりました。
でもイスラは疑問を覚えたようです。
「おい、強い魔法陣を覚えたっていうのはどういうことだ」
イスラが訝しげに聞きました。
双子の境遇に同情しながらも、強い魔法陣という言葉が引っ掛かったのです。だってそれが指すのは一つ、異形の怪物の魔法陣。
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