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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて39

「ちちうえ、どうしてブレイラをとじこめるんですか! ブレイラをだしてください!」 「それは出来ない」 「どうしてですか!」 「俺がそう命じたからだ」 「てっかいは」 「するわけないだろ」 「ちちうえはブレイラのことすきじゃないんですか!?」 「そういう問題じゃない」 「うそです! ちちうえはブレイラのこと」 「クロード、いい加減にしろ」 「うぐっ……」  クロードは唇を噛みしめた。  ハウストの声が低くなったのだ。こわい……。  クロードはプルプルしそうになる。  もしここににーさま達がいれば父上をやっつけられたかもしれない。父上はとっても強いけど、クロードの二人のにーさまもとっても強いのだ。だからにーさま達と自分が力を合わせれば父上だってやっつけられるはず!  クロードは瞳を潤ませながらもキッとハウストを睨む。 「にーさまたちがかえってきたら、またやっつけにきますからね!」  クロードは宣戦布告すると、ブレイラがいる軟禁部屋に向かって逃げていく。  ハウストはそれを見送ったが。 「あうっ!」 「あ」  転んだ。結構派手に転んだ。  クロードは転んだままプルプルしていたが、少ししてむくりっと起き上がる。  悔しかったのかダンダンダンッ! 自分が転んだ場所を足でダンダンしている。八つ当たりだ。  そして涙目になりながらもハウストを振り返った。 「うぅ~っ、なにみてるんですか! わらいたいならわらえばいいじゃないですかっ!」 「ええ……」  これも完全に八つ当たりだ。  こうしてクロードはハウストに八つ当たりすると、今度こそブレイラがいる軟禁部屋に逃げていったのだった。 「あれはいったいなんなんだ……」  我が息子ながらよく分からない。  息子も三人目なので分かった気になっていたが、やはり子どもとは不可解だ。あれを三人も理解してきたブレイラに感心する。  ハウストは見送ったが、見守っていたフェリクトールが「当代魔王と次代の魔王が親子喧嘩とは」と呆れた顔をしている。 「勇者と冥王が参戦したらさすがに君でも苦戦するんじゃないかね」 「なんだと?」  長男の勇者イスラ、次男の冥王ゼロス、末っ子の次代の魔王クロード、この三人が結託して当代魔王を襲撃。もし決行されれば間違いなく四界の歴史に残る大事変になるだろう。……面倒くさすぎる。  ハウストは想像してげんなりしたのだった……。  離宮にある東の塔の一室。  今ここにはリオとルカが軟禁されていた。  ルカは部屋の隅で膝を抱えながらおずおずとリオを見た。 「……あのさ、リオ」 「にーちゃんって呼べ」 「ご、ごめん。にーちゃん、あのさ……、おなか……いっぱいになったね」  ルカがぽつりと言った。  リオが無言のまま唇を噛みしめる。それは無言の肯定だった。  今、二人は軟禁されている。でもその待遇は二人が想像していたものとはまったく違うものだった。  連行された時はとても恐ろしかった。だって幼い頃に両親を失くした二人は知っている。世界は無慈悲だということを。大人は冷酷だということを。だからどんな厳しい尋問と拷問をされるのかと怯えていた。  しかしここにきて最初に連れていかれたのは大浴場。入浴補助や洗髪を行なう専門の侍女によって丁寧に全身を洗われた。全身がたっぷりの湯につかったのも、全身がたっぷりの石鹸の泡に包まれたのも両親が生きている時以来だった。  入浴が終わると清潔な衣服を着せられ、見たことがない豪華な食事がたくさん用意されていた。最初は不審に思って食事を躊躇ったが、おいしそうな匂いに負けてひと口食べた。するともうダメだった、いともたやすく意地と我慢が決壊して次から次へと口に放り込んでいた。気付いたら並んでいた料理は全部なくなり、空腹が満たされて胸がいっぱいになっていた。  ルカはそのことを思い出すと無意識に口元が綻んでしまう。こんなに心と体が満たされたのはいつぶりだろうか。  だからもう一度リオに問いかける。 「…………こんなに良くしてもらったのに、ぼくたち、……嘘ついて」 「ッ、言うな!」 「っ、ご、ごめんなさい!」  ルカがびくりっとする。リオに怒鳴られてびっくりしたのだ。  ルカは困惑する。軟禁されて食事が終わると士官によって取り調べが行なわれた。取り調べといっても決して怒鳴られることはなく、丁寧に話しを聞こうとしてくれたのだ。  それなのに、……嘘をついた。取り調べで双子は嘘をついたのだ。  嘘をついても士官は疑うことはなく、ゆっくり休むようにといって部屋を出ていったのである。  それを思いだすとルカは罪悪感でいっぱいになるのだ。  きっとリオだって同じ気持ちのはずだ。  ルカはリオを見つめる。  両親を失くしてから双子の兄のリオは今までずっとルカを守ってくれた。そんなリオがルカは大好きだ。世界で一番かっこいい兄だと思っている。  でも、それでも今はっ……! 「……やっぱり、ダメだよ。ダメだよ。ほんとうのこと話そうよっ……!」 「そんなのダメだ! そんなことしたらオレたちは殺される! ルカを守ってやれなくなる!!」 「そ、そそ、そんなのいらないよ! ぼくだってリオを守りたいよ!!」  ルカが勇気を振り絞って怒鳴り返した。  その反応にリオも驚くがカッとして言い返す。 「ッ、にーちゃんって言え!」 「双子なんだからリオはリオだ!」 「生意気だぞ!」 「今は生意気でいい!! ……だって今、ぼく達のために魔界の王妃様も軟禁されてるんだよ? 今までぼく達のためにそこまでしてくれた大人はいない。リオだって分かってるでしょ?」 「っ……」  リオは唇を噛んで黙り込んだ。  そう、こうして身寄りのないリオとルカが好待遇で軟禁されているのは魔界の王妃ブレイラの保護下にいるから。  しかし、それと引き替えに王妃まで軟禁されてしまっているのだ。

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