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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて40

「ぅっ、…………わかってる。オレだって分かってるんだっ……」 「リオ……」 「ほんとはオレだって分かってるんだ! もしかしたら、もしかしたらってっ……。でもまた裏切られたらどうするんだ! 今度こそオレ達は殺されるかもしれないんだぞ!!」  リオが叫ぶように言った。  怖いのだ。信じるのが怖いのだ。だって何度も信じたけれど、そのたびに裏切られてきた。  両親を失ってから村人たちが孤児になったリオとルカの面倒を見てくれた。でも二人は知っていた。村人は仕事の面倒を見てくれたけど二人の給金が抜かれていたことを。二人が働きに行っている間、両親の衣服や形見が知らないうちに売られてしまっていたことを。  二人は知っていた。気付いていた。村人は両親を失った二人を表向きは同情していたけれど、裏では侮って搾取していたのだ。  でも二人はなにも言えずに黙っていることしかできなかった。だってこの村で生きるしかなかったから。村人たちはそんなリオとルカの弱味を知っていて搾取していたのだ。  そして村が盗賊に襲撃されると生き残ったリオとルカは連れ去られた。二人の特異な魔力に気付いた盗賊の首領が利用するために攫ったのだ。  それからはアジトに監禁されて仲間になるように強制された。それを拒否すると待っていたのは拷問。最低限の食事と不潔な部屋。アジトはいつも悲鳴や怒号がしていて心から休まることはなかった。  そんな中、二人は盗難品の魔導書を発見して強力な召喚魔法陣を覚えた。異界の怪物を呼びだせる召喚魔法陣を使えば盗賊のアジトから逃げられると思ったのだ。  しかし作戦は失敗してひどい拷問を受けた。このまま死んでしまいたいと思った。  けれど盗賊の首領は取り引きを持ち掛けてきた。  それは、『冥界に侵入し、そこから第三国で行なわれる四界会議で異界の怪物を出現させろ』というものだった。それを成功させれば解放すると言ったのだ。  どうやら盗賊の目的は四界を混乱させることが目的だったようだが、今となってはどうでもいい。二人は本当の目的など知らされていない。  でも、リオとルカは取り調べで嘘をついた。二人は盗賊を倒していない。魔導書があるアジトにはまだたくさんの盗賊がいて、まだなにか企んでいる。 「リオ、それでもちゃんと話そうよ。ぼくは……もう一度、……信じたいっ。信じたいよ……!」 「ルカ、お前……」  二人の間に沈黙が落ちた。  リオは俯いていたが、しばらくしてゆっくり顔をあげる。 「……オレは、オレは信じてるわけじゃない。でも」  それ以上言葉は続けられなかった。それがリオの答えだった。  二人は扉の外にいる警備兵に声を掛けて取り調べの士官を呼びだしてもらう。  話さなければならないことがあるのだ。  二人は少し緊張しながら士官を待っていたが。 「……ルカ」 「なに?」 「ちゃんとにーちゃんって呼べ」 「今それなの!?」  ルカは驚いて突っ込んだが、いつものリオに安心したように笑ったのだった。  魔界の海域にある孤島。  イスラとゼロスがいたのは、リオとルカが話した盗賊のアジトだった。  双子が取り調べで『脱出する時に盗賊は倒した』と話したので、現在アジトの孤島は無人らしいが……。 「兄上、みてみて。似合う?」  ゼロスはそう言うと鳥の羽飾りがついた派手な帽子をかぶって見せた。広いつばの帽子は華やかな印象を与えるもので、ゼロスは片手で帽子を押さえてくるりと回ってポーズを決める。王都で発行されているモデル雑誌で見たイケてるポーズだ。  しかしイスラは呆れた顔で腕を組む。 「なにが似合う? だ。そんなことしてる場合か」 「分かってるって」  ゼロスは片手で帽子を脱ぐと、「君も攫われちゃって可哀想に。あとでちゃんと持ち主のところに帰してあげるからね」とシュッと帽子を投げる。帽子はまっすぐに元あった場所に収まった。  そう、この帽子も、部屋のあらゆるところに置いてある高価な衣装や調度品もすべて盗難品である。  盗賊のアジトに侵入した二人は、魔導書を探してアジトの部屋を片っ端から捜索していた。  侵入した盗賊のアジトはその名のとおり盗難品だらけで、それだけでこの盗賊団がそれなりの規模だったことが知れる。種族の垣根を越えた広域盗賊集団であることは間違いない。  四界は強力な結界で区切られているが、その親交は徐々に深まってきている。人や物が多く行き交うにつれて理解が深まり、親交もより深くなっていく。それは歓迎できることだったが、現実は良いことばかりではない。こういった盗賊集団の規模が広域となって拡大していくことも現実だった。  ゼロスはテーブルに積みあがった書物を確かめながらイスラに聞いてみる。 「兄上、あの双子どう思う?」 「唐突だな。お前が思っている通りだ」 「兄上も信じてるってこと?」 「…………。お前、あれを信じたのか?」 「あ、ちがった?」  ゼロスはきょとんと聞き返した。  そんなゼロスにイスラはため息をつく。 「信じるも信じないも判断材料が少なすぎる」 「そういうことか。でもブレイラは信じてたみたいだよ?」 「ブレイラは一度こうだと決めたら最後まで信じるからな。気付いたら相手の方がブレイラが信じた姿に変化してる。そんな強烈なところがあるのがブレイラだ」 「アハハ、それ分かるかも」  ゼロスも納得したように頷いた。  イスラも自分の答えに頷くが、ゼロスに釘をさすのも忘れない。 「だがブレイラはブレイラだ。俺たちとは違う。お前は王だろ、相手の変化を待てるような悠長な時間は許されない」 「……うん、分かってる。でもね、僕はやっぱり信じたよ」  ゼロスは小さく苦笑して答えた。  そう、ゼロスはブレイラが保護下においた双子を信じていた。  ブレイラが保護下においたから信じたわけじゃない。ゼロスが信じると決めて判断したのだ。  ブレイラが連行されて軟禁された時、ゼロスはショックを受けた。怒りと混乱でいっぱいになったがハウストの言葉に冷水を浴びせられたのだ。

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