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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて43

「ありがとうございます。海水浴、楽しみですね」 「はい! よかった~~。にーさまたちはおしごとでどっかいくし、ちちうえはブレイラとじこめるし……。だから、かいすいよくだいじょうぶかなっておもってたんです」 「ふふふ、大丈夫に決まってるじゃないですか。イスラとゼロスはお仕事を終わらせてちゃんと帰ってきますし、私もここから出られますよ」 「ほんとですか!?」 「本当です。そのためにイスラとゼロスが頑張ってくれています」 「やっぱりにーさまたちすごいです!」  クロードがはしゃいだ声をあげました。  今ゼロスは厳しい状況ではありますが、クロードからすれば見上げるような存在なのでしょうね。 「そうですよ。だから安心して待っていてくださいね」 「はい!」 「よい返事です」  私は安心させるように笑いかけました。  ごめんなさい、クロードをたくさん心配させていたのですね。  必ず家族で海水浴をしましょう。約束です。絶対に叶えてあげます。  こうして私は廊下の前で、クロードは部屋の前の廊下ですごすのでした。 「……なんでクロードがこんな所で寝てるんだ。しかもテーブルと椅子まで運んできたのか」 「しーっ。さっきお勉強が終わって眠ったところなんですから」  口元に指を立ててハウストに訴えました。  私の目の前ではクロードがテーブルに突っ伏してお昼寝していました。  あれからクロードは魔王襲撃を諦めてくれました。「みんなでかいすいよくですからね」と照れ臭そうに言いながら父上討伐大作戦の模造紙を片付けてくれたのです。  それからは部屋に戻らずここで算術の自主勉強していましたが、うとうと……と睡魔に負けてお昼寝しています。 「……仕方ない奴だな」 「ふふふ、クロードらしいです。すみませんが」 「ああ、分かっている。すぐに戻る」  ハウストはクロードの小さな体をひょいっと抱き上げ、隣室に連れていきました。  隣室にもベッドがあるのでクロードはそこでお昼寝です。  ほんとうは私が連れていってあげたかったけれどここから出られないのです。  待っていると少ししてハウストが軟禁部屋に戻ってきました。 「入るぞ」 「おや、クロードも我慢していたのに?」  そう言うとハウストがじとりっと目を据わらせます。 「それは嫌味か?」 「まさか、魔王様に嫌味なんて畏れ多い」 「俺が命じたんだ。俺だけ出入り自由に決まってるだろ」  当然のように言うとハウストが堂々と私が軟禁されている部屋に入ってきました。  私も立ち上がって恭しくお辞儀します。  でもハウストの視線を感じて顔をあげる。 「どうしました?」 「……いや、なんでもない」  素っ気なく言い返されましたが、……これはなにか誤魔化してますよね。  でもハウストは堂々としたままソファに腰を下ろしました。  私は二人分の紅茶を淹れて隣に座ります。 「政務は終わったんですか?」 「……。まだだ」 「それでは私になにか用事でもありましたか?」  首を傾げました。  でもハウストは眉間に皺を刻んで黙り込んだままで、その反応に深刻な用事なのではと焦ってしまう。 「なにかあったんですか? まさかイスラやゼロスの身になにかあったんじゃ……。教えてくださいっ」 「イスラとゼロスのことじゃない」 「それじゃあ何がっ」 「用事は……ない」 「え、ない? それならどうして……」  意味が分かりません。  私はハウストを見つめましたが、ムムッ……とハウストの眉間の皺が深くなる。  そんな様子に、…………もしかして。気付いてしまう。  私はパッと両手で口元を覆いました。だって口元が緩んでしまいそう。  聞きたい。ああでも勘違いだったら恥ずかしい。いえいえ勘違いだったとしても、もし正解なら嬉しいことです。ぜひ彼の口から聞きたいことです。  うずうずした気持ちを抑えきれなくてハウストの顔を覗き込む。 「もしかして、私のご機嫌伺いに来てくれたんですか?」 「…………」  ムムッ……とハウストの眉間の皺が深くなる。  この顔は照れている顔。どうやら図星だったようです。  私はなんだか嬉しくなって眉間の皺を指でモミモミしてあげました。 「ふふふ。あなたに軟禁された私が不機嫌になっていると思ったんですか?」 「…………」 「まだ政務が残っているのにご機嫌伺いをしなければと思うほど」 「…………別にそこまで思っていない」  ウソですね。これは完全に照れ隠しの顔。  魔王が眉間に皺を刻んでいる顔は怖いけれど、私には分かるのですよ。  普段はこちらが恥ずかしくなってしまうほど甘く口説いてくれるのに、たまに私が図星をつくと照れてぶっきら棒な態度になるんですよね。主導権を握っていたいタイプなのです。  思わず笑ってしまう。  するとハウストは不機嫌になってしまいましたが、少しして諦めたような表情になりました。 「…………笑うなよ。お前には少しの不安要素も残しておきたくない」 「ふふふ、嬉しいことを」  私はハウストの目元にちゅっと口付けました。  近い距離で見つめると今度はハウストが私の唇に口付けてくれます。  互いに口付けを交わして、これでひと安心してくれたでしょうか。 「これで私が怒っていないと分かってもらえましたか?」 「……ああ」 「良かったです。心配されなくても、私だって分かっているんですから」  そう言うと隣のハウストの腕にそっと凭れかかりました。  ハウストも私の肩をそっと抱き寄せてくれます。 「そのようだな。杞憂だったか」 「そうですよ。私だって自分がどうして軟禁されなければいけないのか分かっています。双子を保護した私をあなたは罰しなくては道理が通りませんから」  そう、双子は重罪人です。  どんな理由があれ王妃権限で双子を保護するなら、それに対する代償も支払わなければいけません。でなければ道理が通らない。道理を通さなければ信用などいとも簡単に壊れていくのです。

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