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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて45
「とっとと片付けるぞ。生け捕りだ、吐かせたいことがある」
「りょうか~い」
イスラとゼロスは剣を出現させた。
自在に武器を出現させた二人に盗賊たちに緊張が走る。
だが首領は即座に魔力に特化した部隊を前に出した。広域盗賊団だけあって軍隊のように組織化されていたのだ。
「俺たちを舐めてもらっちゃ困るぜ! 四界の王から第三国を乗っ取り、世界に名を轟かせる俺たち、……お、おれたちをっ…………」
威勢よかった首領がみるみる青褪めていく。
自慢の魔法部隊だったが、イスラがたった一人であっという間に壊滅させたのだ。
それだけじゃない、残虐非道な戦闘部隊もゼロスが瞬く間に蹴散らしていく。
しかもイスラとゼロスは呪縛魔法で全員を生け捕りにする余裕まである。盗賊団の中には卑怯上等な即死レベルの高等トラップを仕掛ける男たちもいるというのに、まるで相手になっていないのだ。
圧倒的な力に首領は愕然とする。
「そ、そんなバカなっ。ここにいるのは魔族と精霊族と人間の中でも選りすぐりの力を持ってるやべぇ奴らばかりで……」
「残念だったな、名を残せなくて」
イスラがそう言った次の瞬間。
ガッ!
「ゴハアアッ……!」
首領が吹っ飛んだ。
イスラの強烈な蹴りが炸裂し、吹っ飛ばされて昏倒したのだ。
こうして魔界の孤島に巣食っていた広域盗賊団の本拠地は壊滅したのである。
「よし、これでおしまい」
「ああ。あとは各地に散らばっている盗賊団の残党だが、それは時間の問題だろ」
「そうだね」
ゼロスは頷いた。
そんなゼロスはいつもと変わらない飄々とした顔をしている。
先ほどの戦闘でもゼロスに油断はなく、いつも通りに見えるものだろう。そう、他人には。
イスラはゼロスの兄である。ゼロスのことは赤ん坊の頃から知っている。
「…………兄上、なに? 僕のことじーっと見て。僕、ブレイラじゃないんだけど」
「当たり前だ。お前をブレイラと一緒にするか」
「それはそれでひどいんだけど……」
ゼロスはおどけるようにいじけてみせたが、やはりイスラは兄である。ちゃんと気付いている。
「そうじゃない。お前、どうするつもりだ。あの双子は四界の王である俺たちを欺いたぞ。ここにいる連中と同じだ、処刑しとくか?」
「それは聞かないでほしいんだけど……」
ゼロスの顔がくしゃりっと崩れた。泣いてはいない、でも気取っていた平静さがくしゃりっと。
イスラはそんな弟を黙って見つめた。
もしここにブレイラがいればゼロスに寄り添うように抱き締めるのだろう。ブレイラは四界の王に対して出過ぎるような真似はしない。しかし親である。親としてゼロスを慰めるだろう。
だが今ここにブレイラはいない。
ここにいるのは兄である勇者と弟の冥王だ。兄であるイスラはブレイラのようにゼロスを優しく慰める気はない。
「ぬるいことは言うなよ?」
「…………あの二人は逃がしてあげるとか」
「もう一度言ってみろ」
「すみません、なんでもないです」
ゼロスは即座に撤回した。
さすがに逃がすのは良くない、それはゼロス自身も分かっている。
でもゼロスは分からない。どうすれば良かったのだろう。冥界で不審な動きをした時に放置しなければ良かったのだろうか……。
「兄上、信じるって難しいね。兄上はどうしてんの? 兄上は人間の王で、人間の保護者みたいなもんでしょ? 人間ってたくさんいるけどどうしてんの?」
「言っただろ。信じるな、だが信じろ。それだけだ」
「えー……」
それが分からないから聞いているというのに……。
眉を八の字にしたゼロスにイスラはため息をつく。
「俺たちに立ち止まる時間はない。進みながら最善を選択しろ」
「……絶対間違えるなってこと?」
「間違えたとしても、それを正解に捻じ曲げろってことだ。俺たちの強さはその為にある」
「分かるような、分からないような……」
ゼロスはうーんと悩んだ。
イスラは素っ気なく事後処理を始める。これ以上付き合う気はないということだ。
そうしていると、ふいに海から見慣れた鷹が飛んできた。
「あ、父上の鷹だ。おーい!」
鷹はハウストの使役獣だった。
ゼロスが大きく手を振ると、鷹が空を旋回して降りてくる。
ゼロスの肩に降り立った鷹の足には手紙が括られていた。
「父上からだ。なんだろ」
ゼロスは手紙を読む。読み進むにつれて目を見開き、口元はみるみる笑みの形に緩んでいく。
「兄上、見てこれ! 兄上!」
「なんだ」
「これこれ! これってさ、司法取引ってことにならないの?」
そう言ってゼロスが見せた手紙には、双子が広域盗賊団について黙っていたことを話しだしたというものだった。
四界各地にあった盗賊団の隠しアジトの場所や、第三国以外も襲撃しようとしていたこと。なによりこの孤島のアジトには罠が張り巡らされているということ。
もちろん罠が張り巡らされている孤島とはここのことだ。孤島のアジトは壊滅させたので今更報せが来ても遅いのだが、そんなことはゼロスには関係ない。双子たちが自分から話してくれたことに意味があったのだ。
ゼロスは嬉しそうに続ける。
「あ、ほらほら、ここ以外のアジトは精鋭部隊が制圧したって。盗賊団の大規模な計画を事前に阻止できたんだって」
「それがどうした。欺いたことに変わりないだろ」
「そうだけど、僕たち強すぎて平気だったじゃん。僕たちの強さはその為にあるんでしょ? 間違えた悪路も、僕たちの強さなら正道に捻じ曲げられる!」
「お前な……」
イスラは頭が痛くなった。
間違っていない。間違っていないが、ゼロスが言うと軽率に響いてしまうのはなぜなのか。
だが。
「……まあいい、帰るぞ。あの双子の裁きはお前がしろ」
「え、僕が?」
「当たり前だろ。そもそもお前の失態から始まったことだ。それにあの双子は魔族でも精霊族でもないからな。できるか? 甘ったれのお前に」
イスラがゼロスを見た。
ゼロスはこくりと頷く。
「できる!」
ゼロスは緊張した顔で返事をしたのだった。
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