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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて46
軟禁されている書斎で私は読書をして過ごしていました。
書斎にはなぜかハウストまでいます。私の軟禁命令を出した張本人だというのにここにいていいのでしょうか。不思議に思って聞いてみると、命令した本人だから良いのだそうです。
政務が残っているはずなのですが、ここに書類を持ち込んで目を通していました。……ハウストってこういうところありますよね。
「イスラとゼロスが帰ってきたようだな」
報告を受けたハウストが教えてくれました。
私も読んでいた書物から顔をあげます。
「行くんですか?」
「ああ」
今からイスラとゼロスの報告を吟味して広域盗賊団の始末をつけるのでしょう。そして異界の怪物の召喚方法を記された魔導書の解明を行ない、そして最後はリオとルカを裁かなければならなくなるでしょう。
軟禁中の私はここで待たなければならないのですが。
「……ハウスト、あの、私も」
「行きたいとか言うんだろ。お前、自分の立場を分かってるか? 軟禁中だぞ?」
ハウストがため息混じりに言いました。
私を呆れた顔で見ていて心苦しいけれど、どうしても一緒に連れていってほしいです。
「そ、そうですけど。……あっ、そうだ! 私、あなたの襲撃計画を阻止しましたよ? これって軟禁を解除されてもいいくらいの大活躍だと思いませんか?」
「俺の襲撃計画……、クロードだな。あいつ、諦めてなかったのか」
「クロードはがんばり屋さんなので一度失敗したくらいではめげません。たくさん試行錯誤して何度も挑戦できる子です。真面目で努力家、そして失敗を恐れない勇気があるんですね」
「待て、その勇気は俺を襲撃する勇気だろ。なんでも褒めるな」
ハウストは若干引きながら言い返してきました。
でも呆れた顔をしながらも許してくれます。
「……分かった。ただし軟禁中であることに変わりはない、見張りを置かせてもらう。いいな?」
「充分です。ありがとうございます」
私はお辞儀して感謝を伝えました。
見張られていたとしても充分な待遇です。
こうして私はハウストと一緒に軟禁されていた部屋を出ました。
いつもは隣に並びますが、今は軟禁中の身なので彼の後ろを歩きます。私の両側には武装した警備兵士がいるので物々しい雰囲気ですが、今は仕方ありませんね。
でも。
「あ、ブレイラ!」
ふいに背後からクロードの声がしました。
振り向くとクロード。どうやらお昼寝から目覚めたようですね。
「ブレイラ、どこにいくんですか!? わたしもいきます!」
クロードが私に向かって走ってきました。
しかし軟禁中の私にクロードの手は届きません。両側にいた警備兵士が遮ったのです。
「うぅ~っ、またじゃまして~~!!」
「ク、クロード様、申し訳ありませんっ……」
「申し訳ありません。クロード様」
警備兵は申し訳なさそうですが、クロードが「どいてください!」と悔しそうに睨みあげます。私が武装した兵士に囲まれているので不安になっているのです。
ああでも、このままではいけません。まだ幼い子どもとはいえクロードは次代の魔王なのですから。
「クロード、みなさんを困らせてはいけませんよ」
「ブレイラ!」
クロードが泣きそうな顔で私を見ました。
その表情に切ない気持ちになる。今は手を握ってあげることも、いい子いい子と頭を撫でてあげることも出来ないのです。
「私を心配してくれているのですね」
「……はい、ブレイラはなにもわるいことしてないのに……。うぅ」
「あなたの気持ちを嬉しく思います。クロード、ありがとうございます」
「ブレイラっ……」
良かった、クロードの顔が少しだけ明るくなりました。
私はクロードにそっと笑いかけます。
「私は大丈夫ですから、今は父上のところに」
「でも……」
「大丈夫。いつもみたいに手は繋いであげられませんが、私はあなたの側にいますよ」
「……わかりました……」
クロードは渋々ながらも頷いてくれました。
そして私を気にしながらも前にいたハウストのところへ。
魔王から一歩下がった位置に幼い次代の魔王が並びましたが。
「ちちうえがしたから……」
クロードがキッと睨んでいます。
クロードは襲撃に失敗したことも、私が軟禁されたままなのも父上のせいにするようですね。
そんな末っ子にハウストは頭を抱えます。
「どうして俺のせいなんだ」
「ちちうえがめいれいしたから……」
相変わらず恨みがましげです。
こうしてまた歩き出しましたが、…………ああクロード。
クロードは後ろの私がどうしても気になるのか、三歩歩いたら、くるり。また三歩歩いたら、くるり。私を振り返っています。
ああ、そんな歩き方をしているから。
「あう!」
ああほら転びました。
クロードは転んだ体勢のままプルプルしています。転んでしまったことがショックなようです。
すぐに側に駆け寄りたいけれど軟禁中なので行けません。
ハラハラしながら見ているとクロードがむくりっと起き上がります。
後ろから見えるクロードの耳が赤い。どうやら恥ずかしさが込み上げてきたようですね。
「…………。ちちうえが~」
「なんで俺のせいになるんだ。お前が勝手に転んだんだろ」
「ちちうえがしたから」
「何もしてないぞ」
「ちちうえです」
めげないクロード。
……これは完全に八つ当たりですね。
こうして私はハウストに八つ当たりするクロードを見ながら、イスラとゼロスがいる大広間へと向かいました。
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