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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて47

 大広間に入ると盗賊団討伐から帰ってきたイスラとゼロス、他にも精霊王フェルベオとフェリクトールの姿もありました。魔導書がらみの案件ということもあって精霊王も訪れているのです。  私やクロードの出席を許されているのは、今回は公式の会議というよりプライベートな非公式歓談のようなものだからでした。  大広間の中心には、魔王、精霊王、勇者、冥王の四界の王が集います。  次代の魔王クロードはハウストの側にいましたが、大広間に入ってイスラとゼロスを見つけると「にーさま!」と駆けだして行く。 「にーさまたち、おかえりなさい!」 「ただいまクロード。お留守番ありがとね」 「クロード、ただいま」  無事に帰ってきたゼロスとイスラにクロードも嬉しそうです。 「こんどはわたしもつれてってください!」 「盗賊のアジトに行ってたんだけど大丈夫?」 「わたしだってたたかえます!」  そう言ってクロードはグッと拳を握る。  そんなクロードにイスラは小さく苦笑すると、「まだ早い」と頭にぽんっと手を置きました。  そうやってクロードの相手をすると、次は私の方に歩いてきます。  イスラとゼロス、そんな二人のにーさまと一緒にクロードも。  いつもならイスラは私の手を取って挨拶してくれますが、今は警備兵越しの挨拶です。 「イスラ、お帰りなさい。無事に帰ってきてくれて安心しました」 「心配かけたな。俺たちなら大丈夫だ」 「そのようですね」  私は頷いて次にゼロスを振り返ります。  ゼロスは普段と変わりなく、人好きのする明るい笑顔を浮かべていました。  それはいつもの笑顔、いつもの雰囲気、いつものゼロス。  でもね、あなたが何も思っていないはずはないのです。あなたは強靭な体と強大な魔力を持っているけれど、心は無防備な十五歳なのですから。 「ゼロス、お帰りなさい。疲れたでしょう?」 「うーん、……ちょっとだけ」 「そうですか。がんばりましたね」 「うん」  ゼロスが小さく頷きます。  ……ああ今すぐ抱きしめてあげたい。  でも今はそれができません。まだすべてが終わったわけではないのですから。 「私はどんな時もあなたの味方です。いつもあなたを思っていますよ」 「うん、知ってる。ブレイラは僕が大好きだもんね」  ゼロスが自信満々に言ってくれました。  私は目を細めてゆっくり頷く。それだけは過去も今も未来も変わらないと約束できます。  私はイスラとゼロスにお辞儀して、二人のにーさまと肩を並べているつもりの幼い末っ子に笑いかけます。 「イスラとゼロスが帰ってきて良かったですね。あなたもお留守番をよく頑張りました」 「はいっ」  こうして挨拶を終えるとイスラとゼロスが大広間の中心に戻っていきます。  そこにはハウストとフェルベオがいます。  これから非公式とはいえ魔導書や双子の処遇について話し合われます。特に双子はゼロスが裁くことになるでしょう。 「イスラ、魔導書はあったか?」 「あったぞ。研究所で詳しく調べる必要があるが、双子が使っていた召喚魔法陣で間違いない」  イスラがそう答えると控えていた士官が魔導書を持ってきます。  四界の王の前で魔導書が開かれました。  王たちの中でも史学に造詣が深く、古書の取り扱いにも慣れているフェルベオが興味を示します。 「ふむ、この魔導書ができたのはおおよそ……三万年ほど前のようだ。普通の書物なら原型すら残っていないが、さすが禁書だ。この魔導書そのものに魔力が宿っている。これは星の真実を知る者によって書かれた『本物』だよ」 「本物……」  聞こえてきた言葉に私はごくりと息を飲む。  星の真実を知る者によって書かれた『本物』、その意味は一つ。十万年前の真実に関連しているということでした。  十万年前、レオノーラと初代王の結界によって星は守られました。その守りは現在も続いているのです。  しかし十万年という途方もない年月のなかで真実は歴史に埋もれて忘れ去られました。四界の王さえも世界を区切る結界がなんのためにあるのかも忘れたのです。  でも、それでも、すべての人が忘れたわけではありませんでした。  この十万年という年月の中で、結界に疑問を抱いて謎を解き明かそうとしたり、沈んだ孤島の秘密を暴こうとしたり、古代書にしか残されていない魔力無しの伝承を調べようとした者たちがいたのです。その者たちは星の真実に辿りつき、禁書という形で後世に真実を残しました。  この魔導書もその禁書の中の一つ。詳しい調査が必要ですが、きっとすべてに意味があるのでしょう。 「この魔導書は精霊界で預からせてもらいたい。解読結果は逐一報告しよう」 「頼む。魔界からも研究者を送る」 「人間界からも手配しておく」 「ああ、そうしてほしい。急いだ方がいいだろう。この時代で立て続けに禁書が発見されていることにはきっと意味がある」  フェルベオが重く頷いて魔族と人間の研究者を受け入れました。  各世界の親交が深まっているとはいえ研究分野で積極的な協力体制が築かれるということは、それだけ急を要するということなのでしょう。胸騒ぎを覚えますが、今は調査結果が出揃うまで待つしかありません。  こうして魔導書の案件が片付き、次はいよいよ双子の案件に移ります。  双子は盗賊団に脅迫されていたとはいえ四界会議を襲撃したのですから。 「ここへリオとルカを連れてこい。魔導書の最終確認をさせたのち、四界会議襲撃の処罰を言い渡す」  ハウストが命じました。  間もなくして武装した警備兵に囲まれてリオとルカが大広間に連れてこられました。  リオとルカは大広間に揃っている顔ぶれに怯えてしまう。リオは気丈に四界の王を睨んでいるけれど、ああ可哀想に……、震えて青褪めてしまっているじゃないですか。 「お、王妃様……」  警備兵たちが困惑した顔で私を見ます。  当然でした。私がゆっくりと双子に足を向けたのです。  近づくにつれて警備兵たちはたじろいで、ますます困惑させてしまう。 「どうか私に道を開けてください。私の保護下に置いている子ども達です。問題ないでしょう」  そう言ってハウストを振り返りました。  ハウストは小さくため息をつくと「妃の好きにさせろ」と許可してくれます。  こうしてハウストの許可が下り、私はリオとルカの側へ行くことが許されました。  相変わらず武装した兵士に囲まれたままですが、私が側に立つと二人とも強張っていた表情を幾分か和らげてくれます。

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