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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて49

「今まで魔族や精霊族にもなれなかったんだから、今からどちらかに属するのは難しいよね。それなら冥界の民にする!」 「そういうことか」 「なるほど、一理ある。たしかに混血児の保護が遅れていたのは僕と魔王殿の落ち度だ」  ハウストとフェルベオが真顔で考え込む。  そんな二人の王に冥王ゼロスは緊張で焦りだします。「……べ、べつに落ち度とか責めてるわけじゃなくてね」などと前置きしてフォローしています。まだ十五歳の最年少四界の王が魔王と精霊王の二人を相手にするのは大変ですからね。  でもゼロスも譲りません。 「リオとルカの証言で広域盗賊団を壊滅させられたんだから、司法取引の条件には充分当て嵌まってる。だから、冥界の民になることを認めてほしい」 「二人を冥界の民にしてどうするつもりだ」  ハウストがゼロスを見据えて問いかけました。  重圧感にゼロスはやっぱりたじろいでしまいますが、それでも一歩も引きません。 「冥界の民は僕が裁く。冥王なんだから許されるよね」 「一任させろということか」 「うん」 「お前に出来るのか?」 「できる!」  ゼロスが大きく頷きました。  自信があるようです。  ハウストはゼロスをまっすぐ見据えていましたが、少ししてフェルベオを振り返りました。  目が合うと精霊王フェルベオが苦笑して頷きました。了承ということです。  次にハウストは勇者イスラを見ました。イスラも頷いて了承します。  精霊王と勇者が了承するとハウストはまたゼロスを見ました。  ゼロスの瞳はキラキラ期待に輝いて、ハウストは少し呆れた顔になります。 「分かった。冥界の民にでもなんにでもするといい。リオとルカの裁きは冥王の手にゆだねよう」 「ありがとう、父上! じゃなかった、魔王殿!!」  ゼロスが興奮した声をあげました。  思わず『父上』と出てしまって慌てて訂正。でももういつもの笑顔ですね。  他の王たちに認められたゼロスは自信満々の顔でリオとルカの前に立ちました。  今から冥王の裁きが下されます。 「リオ、ルカ、君たちへの罰は一つ。冥界の民として魔界と精霊界と人間界に留学し、たくさん勉強して冥界のために力を尽くすこと。それだけだ」 「えっ…?」 「なに、それ……」  リオとルカが目を丸めてゼロスを凝視しました。  ゼロスはニコリと笑うと二人に説明します。 「だから、冥界の民として魔界と精霊界と人間界に留学してほしいの。冥界はまだ創世期だから、冥界の発展のために僕のお手伝いしてよ。二人の魔力はいい線いってるから、あとはたくさん勉強して賢くなるだけ。冥界のために勉強してきて。もちろん拒否権はないよ。これ処罰だから拒否したら投獄することになる」  ゼロスが言い渡した裁きは、またしても誰も想像していなかったものでした。  でもそれはまっさらな冥界の創世の王だから言い渡せる処罰。私は胸が熱くなりました。  ゼロスの裁きは、リオとルカに未来を与えるものだったからです。  こうしてゼロスは冥王として最善の裁きをしてくれました。  でも。 「そんなわけで父上」  くるり。ゼロスがハウストを振り返りました。  あ、呼び方が父上になっています。これは甘える気満々ですね。 「お願い、僕の冥界の子たちを魔界の学校に入れてよ。ほら、僕がまだ子どもの頃に視察に行ったとこあるでしょ? あそこは学生の寄宿舎もあるし、そこで勉強させてあげたいんだ。お願い!」 「お前な……」  ハウストがムムッ……と眉間に皺を刻みます。  でもこれは怖い顔の方ではありません。検討を始めた時の顔です。  ゼロスが言う魔界の学校とは王立士官学校。  王立士官学校は魔界の王都と各領土にそれぞれ創設され、十二歳から二十歳までの少年少女が寄宿舎で共同生活をしながら学んでいます。  学校には貴族の子女だけでなく各地から優秀な子どもたちが集められて未来の士官や高官になるよう教育されていました。いわゆるエリート養成学校のようなものです。  王立士官学校へは私も一年に何度か視察へ行っています。三歳のゼロスと赤ちゃんのクロードも連れていったことがあるので、ゼロスはその時のことを覚えていたようですね。  検討するハウストにゼロスが両手を合わせて畳みかけます。 「同じ四界の仲間なんだから、力を合わせて頑張ろうよ!!」 「なにが四界の仲間だ……」 「大事な息子の僕が可愛くないの!?」 「今それ関係ないだろ」 「そうかなあ」 「そうだ」  ハウストが呆れた顔で言い返しています。  私は二人のやり取りに笑ってしまいそうになる。  最初は最年少ということでたじろいでいたゼロスですが、今度は最年少ということを最大限に利用してごり押ししています。子どもの頃から甘え上手な次男でした。  でも今は笑ってはいけませんよね。リオとルカの未来のための大切な決断なのですから。 「ハウスト、どうか私からもお願いします。王立士官学校でリオとルカの留学を受け入れてください」 「お前もか……」  ハウストが少し苦々しい顔で私を見ました。  知っていますよ。そんな顔をしているけれど、本当はもう答えは決まっていますよね。 「ふふふ、私が保護している子どもたちです。そんな子どもたちの未来を案じることは当然のことでしょう。だから、どうかお願いします」  私はゆっくりと頭を下げました。  ハウストはため息を一つつくと、改めてゼロスとリオとルカを見ます。 「分かった、冥界からの留学を許可しよう」 「父上、ありがと~!! 父上ならそう言ってくれるって信じてた!!」  感極まったゼロスがハウストに抱きつこうとしたけれど、ガシリッ!! 頭を鷲掴まれてしまいました……。子どもの頃はよくよじ登っていましたが、さすがに十五歳ですからね。 「ち、父上、痛い。痛いからっ……」 「留学先は魔界だけじゃないだろ」 「うん、人間界と精霊界にも!」  ゼロスはパッと顔をあげるとイスラとフェルベオに向き直ります。

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