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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて50

「精霊王殿! 兄上! お願い、精霊界と人間界の学校にも留学させて! たくさん勉強させてあげたいんだ!」  そう言ってゼロスが両腕でリオとルカの肩を組みました。  まるで二人をアピールするそれに、リオとルカの方が顔を赤くしてしまいます。  そうした冥界組の三人にフェルベオは面白そうに笑い、イスラは呆れた顔で小さく笑いました。二人の答えも決まっているようですね。 「いいだろう、精霊界でも留学を受け入れよう。うちには四界最大の蔵書を誇る書庫がある。よく学ぶといい」 「分かった。人間界でも留学を受け入れる。ただし甘くないぞ、入学レベルに達するように努めろ」 「やった~! 精霊王殿と兄上、ありがと~!! これからも冥界はがんばるからね!!」  フェルベオとイスラの答えにゼロスは満面笑顔で喜びました。  こうした冥王の姿に両側のリオとルカは目を白黒させています。私にとっては見慣れたものですが、初めて見たらびっくりしますよね。王様のイメージとは少し違いますから。  私はゼロスに笑いかけます。 「ゼロス。あなたの決断、見事でしたよ」 「ブレイラも助けてくれてありがとう! 緊張したけど、みんなが協力してくれるって!」 「ふふふ、良かったですね」  私は次にリオとルカに向き直りました。  ゼロスに肩を組まれていた二人はピンッと背筋を伸ばします。  そんな二人にゼロスは目を細めて、「ほら挨拶して」と二人の背中をポンッと押して前に出しました。  リオとルカが緊張した顔で私を見上げます。  私を見つめる二人の瞳には光が差している。その光は希望。  二人は自分たちの未来に希望を抱けたのです。 「あ、ありがとうございました! 王妃様に保護してもらったこと、忘れませんっ……!」 「ありがとうございましたっ……」  リオとルカが深く頭を下げました。  真剣な二人の様子に私も頷きます。もう大丈夫ですね。 「顔をあげてください」  そう言葉をかけると二人がおずおずと顔をあげてくれました。  私は二人を見つめて優しく笑いかけます。 「今までよく頑張って生きていてくれました。あなた達がこうして生きて、私たちと出会ってくれたことを感謝します。これからは自分の望むままに生きてください。冥界と冥王をどうぞよろしくお願いします」 「お、王妃様っ。もったいない御言葉ですっ……!」 「王妃様……っ」  焦ってしまったルカとリオにまた笑いかけました。  そして今度はハウストとイスラとフェルベオを振り返ります。保護している子どもたちのことですから私からもしっかりお礼を伝えなければ。 「ありがとうございました。四界の王の慈悲深さに感謝いたします」  そう言って私は四界の王たちにお辞儀しました。  この留学は魔界、精霊界、人間界で実現されることで大きな意味を持つものになるでしょう。  こうして魔導書とリオとルカの一件は解決しました。  もちろん私のことも。 「ブレイラ、お前を軟禁する理由はなくなった。軟禁を解除する」 「ありがとうございます」  解除宣言をされると、私を取り囲んでいた武装兵士が敬礼して下がりました。  今までは私の逃亡防止を兼ねた警備配置でしたが、今からはいつもどおり私を護衛するための配置です。みなもご苦労様でした。 「ブレイラ!」 「クロード!」  クロードが私に向かってぴゅーっと駆けてきます。  両腕を広げてその小さな体を抱きあげました。 「ブレイラにさわれます! だっこしてもらえます!」 「ふふふ、やっとあなたに触れられます」 「はいっ!」  クロードがぎゅ~っと私に抱きついてきました。  すりすりと頬ずりをされて私は堪らない気持ちがこみあげる。クロードには寂しい思いをさせてしまいました。これは挽回せねばなりませんね。  こうして魔導書と異形の怪物の一件は片付き、延期していた四界会議も無事に再開が決定したのでした。  その夜。就寝前の時間。  私はクロードを寝かしつけると居間に戻りました。 「失礼します。お仕事ですか? お疲れさまです」 「お前こそクロードの相手を疲れただろ。ありがとう」  ハウストはそう言って私を側に呼んでくれます。  でもテーブルには書類の束が……。明日は延期していた四界会議最終日でした。 「お邪魔ではありませんか?」 「邪魔なわけないだろ。こっちへ」 「ではお邪魔します」  私はハウストの隣にゆっくりと腰を下ろします。  彼には改めてお礼を伝えなければいけません。 「ハウスト、ありがとうございます」 「なにがだ?」 「リオとルカのことですよ。王立士官学校の留学を認めてくれたこともそうですが、そのための準備も手配してくれましたよね。感謝しています」  そう、留学には留学準備というものが必要なのです。  それは座学。リオとルカは突然変異レベルの膨大な魔力を持っていますが、小さな村に隠れるように暮らしていたので座学の面がどうしても心許ないのです。  そこでハウストが優秀な講師を手配して留学するまでに基礎学力を身に付けられるようにしてくれたのです。  大広間でリオとルカの留学が決まった後、二人はすぐに魔界へ行きました。留学までに勉強しなければならないことが多いので二人は一分一秒も無駄にできないのです。  それはとても大変なことなのですが、魔界へ向かう二人の表情は明るいものでした。それを思いだすと私も温かな気持ちになります。

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