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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて54

 クロードも張り切って三人に並びます。そして。 「いきます! よーいドンッ!」  クロードが大きな声でよーいドンッとすると三人は海に駆け出して、勢いよく飛び込んで泳ぎだしたわけですが……。  ――――ドドドドドドドドドドドドッ!!!! 「……なんですか、あれは」  唖然としてしまう。  だって水飛沫が水柱……。三人の立てる水飛沫はまるで水柱のようにたちあがり、三人の手が水をかくたびに海面が割れてしまいそうな勢いなのです。  しかも三人が目指したのは私がいる浜辺からはるか遠くに見える小さな無人島。特別な訓練を受けなければ辿りつくことすら困難なのですが、もちろん四界の王には関係ありませんでしたね。  クロードがびっくり顔で遠ざかる三人を見ます。 「……あっというまにみえなくなっちゃいました」 「そうですね。三人とも、ほんとうに……」  三人とも本気になってました。  せっかくの海水浴ですから本気で楽しもうというのですね。ならば私も。 「クロード」 「なんですか? ワッ!」  パシャッ!  振り返ったクロードにパシャッ! 両手で海水をすくってかけてあげました。 「ブ、ブレイラ……」  黒い瞳をまん丸にするクロード。  びっくり顔のクロードにクスクス笑ってしまう。 「ふふふ、驚きましたか? もう一回、えいっ!」 「わあっ! もう~、ブレイラは~っ。わたしだって、えいえいっ!」 「わああっ、私だって負けませんよ? えいえいえいっ!」  パシャパシャパシャ!  パシャパシャパシャ! 「アハハッ! ブレイラ、ずぶぬれです!」 「誰のせいだと思ってるんですか? えい!」 「わたしも! もっとえいえいっ!」  クロードが力いっぱい水をかけてきました。  でも私だって負けません。クロードをずぶ濡れにしてやるのです。  明るい陽射しの下で水飛沫がキラキラしてとっても綺麗。クロードの笑顔もキラキラですね。  こうして私とクロードは浅瀬で水の掛け合いっこをしていましたが、しばらくして、――――ドドドドドドドドドドドドッ!!!!  水柱のような猛烈な水飛沫が近づいてきます。もちろん魔王と勇者と冥王。  常人なら何十時間もかかりそうな距離をわずか数分で泳いだのです。 「わああっ、ちちうえとにーさまたちです!! もうすぐゴールです!!」 「本当にあっという間でしたね。さて誰が一番なんでしょうか」  目を凝らして三人の順位をたしかめます。  こちらに向かって猛烈な勢いで泳いでくる三つの影。まだ三人は沖にいますが私は山暮らしだったので視力には自信があるのですよ。 「うーん、……あ、見えました。一番は……ハウストかイスラです。どちらが勝ってもおかしくありませんね。その少し後ろをゼロスです」  ゼロスはまだ成長途中の体ですからね、ハウストとイスラに比べるとどうしても力が劣ってしまいます。……といっても、そのゼロスも常人と比べると規格外なのですがね。  このままハウストとイスラが一位を競いながらゴールするかと思われた、その時。  ザバアアアアアアアアアアアアアン!!!!  突如、ハウストとイスラの目の前に不自然な大波が立ちはだかりました。そう、ゼロスの妨害です。  二人が大波に怯んだ瞬間、ゼロスがニヤリと笑って追い越していく。 「父上と兄上、油断しちゃダメだって習わなかった? おさきに~」  そう言ってゼロスがそのまま一位でゴールしようとしたけれど。 「僕、いっちば~ん! ぐはっ!」  ゼロスが突如出現した氷壁に激突しました。  今度はイスラです。しかも。 「させるか。一番は歴代最強の勇者にこそ相応しい」 「クソッ、イスラ!」  しかもイスラはゼロスだけでなくハウストの前にまで分厚い氷壁。歴代最強の勇者はなんとしても勝ちたいようです。  しかし魔王がここで黙っているわけがありません。  ドゴオオッ!! バリーーーーン!!!!  砕かれた氷壁の欠片が飛び散りました。ハウストが拳一つで破壊したのです。 「いい度胸だ。ゴール前が一番危険だということを教えてやる」  ハウストが低い声で言った、次の瞬間。  ザッパアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!  魔界の巨大海洋生物が召喚されました。  クジラのような巨大さとサメのような鋭い眼光と牙。獰猛な海の魔獣です。  巨大な海の魔獣は浅瀬だろうと関係なく暴れまわり、イスラとゼロスに襲いかかりました。  イスラは寸前で避けて召喚主のハウストを攻撃しますが、ゼロスの方は巨大な海の魔獣が気になるようで。 「お~い、こっちだよ~」  寸前で魔獣の攻撃を避けると、ひらりっと高く跳躍します。空中でくるくる回転するゼロスに魔獣が襲いかかったけれど、もちろん冥王が動じることはありません。  まるで犬とじゃれるように魔獣の鼻先に手の平をあてて「どうどう」と動きを制止させます。 「ねえ、僕と友達になんない? 君のこといっぱい構ってあげるし大事にするよ? どうかな、考えてみてほしいんだけど」 「グオオオオオオオオオオオオッ!!」 「ああ~、やっぱダメか~。さすが父上の召喚獣、簡単にはいかないね」  フラれたゼロスは残念そう。  魔獣に攻撃されている真っ最中なのですが、名残り惜しげに召還魔法陣を出現させます。ゼロスは召喚獣を傷付けたくないので強制召還させるようです。魔王の召喚魔法を打ち消す召還魔法なんて、こんなの四界の王同士でなければできないことですね。 「バイバイ、またね~!」  ゼロスは召還させて見送ると、戦闘中のハウストとイスラに混ざります。 「父上~、さっきの子また召喚してよ~!」 「人の召喚獣を勝手に引き抜こうとするな」  ハウストが呆れながらもイスラとゼロスに攻撃魔法を仕掛けます。  イスラは応戦しながら楽しげにニヤリと笑う。 「あいつ、欲しい魔獣を見つけるとすぐ口説くんだ。他人の召喚獣でも平等に口説いてるぞ」 「なにが平等だ。どうしようもない奴だな」 「可愛かったから、つい」  三人は軽口を交わしていますが、もちろんゴールを目指して戦闘中。  誰かがゴールに近づくとすかさず攻撃を仕掛けて妨害しまくってます。

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