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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて55

「……ブレイラ、ちちうえとにーさまたちが」  クロードはびっくり顔でハウストと二人のにーさまを見つめています。  唖然とするクロードの顔には水飛沫が飛んできていました。三人はとても激しく戦闘しているので水飛沫まで激しいのです。 「ああクロード、顔まで濡れてます」 「だいじょ、……あ!」  クロードがハッとしておでこを隠しました。  前髪のセットが崩れていると思ったのですね。 「ふふふ、まだ大丈夫ですよ。クロード、私のうしろへ」 「でも」 「いいですから、ほら。そんなところにいては、小さなクロードは引っくり返ってしまいます」  さあとクロードを私の背後へ立たせました。  私は背後にクロードを下がらせて、戦闘が繰り広げられる海を見つめます。 「これはいったいどういう事なんでしょうね……」  目の前の海はとても美しいのに……。  キラキラした陽射しの下、第三国の海は宝石のように輝いています。  そんな海の景色はうっとりするもののはずなのですがね、今ここはそれどころじゃありません。巨大な水柱が立ち上がり、巨大な海の魔獣がぶつかりあい、強大な攻撃魔法が激突しています。そのあまりの激しさに波打ち際にいる私とクロードのところにまで水飛沫が飛んでくるほど。  しかもそんな大波と水飛沫の中、隙あらばこちらに泳いでくる魔王と勇者と冥王。しかしすぐに妨害されて、また誰かが前にでて、またすぐに妨害されて……。  こうして少しずつこちらに近づいてきて、その時、私の目の前で水柱が上がったと思った瞬間。  ッ、ザッパアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!! 「うぷッ……」  頭上から大量の水が大粒の雨のように降ってきました。  全身が頭からずぶ濡れになって、ポタポタ、ポタポタと雫が落ちる。  後ろに引っ込めていたクロードが心配そうにおずおず見上げてくれます。 「ブ、ブレイラ……?」 「私は大丈夫ですよ。あなたが無事で良かったです」  クロードに優しく笑いかけて、また海に視線を戻します。  おや、おかしいですね。さっきまで戦闘で大荒れだった海が今はシンッと静まり返っていますよ。  しかも、魔王と勇者と冥王が海面から顔だけをだしてこちらを恐る恐る見ています。 「…………だ、大丈夫か、ブレイラ?」  ハウストが心配そうに聞いてきました。  イスラとゼロスも「あの、ブレイラ……」と何か言いたげに私を見ています。  おやおかしな反応をしていますね。さっきまであんなに楽しそうに海の戦闘をしていたのに、どうしてそんなに真っ青になっているのか。 「どうしました? 続きはもうしないのですか?」 「いや、そのな……」 「あんなに楽しそうだったじゃないですか。さあどうぞ」 「っ、ブレイラ……。……おい、お前らなに隠れてるんだっ」  気が付けばハウストの後ろにイスラとゼロスが。  最初は横一列に海面から出ていた顔が、いつの間にか縦一列に……。 「親なら俺たちを守ってみせろ」となぜかこういう時も上から目線の長男イスラ。 「助けて父上っ、僕たちを守って」とか弱いアピールをするように瞳を潤ませる次男ゼロス。  そんな二人をハウストは前へ戻そうとするけれど、もちろん二人は抵抗します。 「何が守れだ、お前らこそ今が親孝行のチャンスだぞ」 「ええ~、父上は僕たちが可愛くないの? 可愛いでしょっ。守りたくなっちゃうでしょ!」 「そうだ、可愛い子ども達だろ」 「なにが可愛い子ども達だ。こんだけ育てば充分だっ」  バシャバシャバシャ!!  バシャバシャバシャ!!  三人が取っ組み合いするようにもめています。 「父上なら前へ出ろ」「歴代最強なんだろ、前へでろ」「僕はまだ子どもだから……」「なにが子どもだ、ステキな冥王なんだろ」  バシャバシャもみ合う三人。  放っておくといつまでももめてしまいそうで。 「ハウスト、イスラ、ゼロス」 「「「ッ……!」」」  三人の動きがぴたりっと止まりました。  三人が恐る恐るこちらを振り返ります。 「ゴール、したいんですよね。こちらへどうぞ」  私はニコリと笑いかけ、さあこちらとゴールから両腕を広げてみせます。  おやおかしいですね。こうしてゴールで待っているのに青褪めてしまうとはどういうことですか。 「……お、おこってる。あれ怒ってる時のブレイラだ」とゼロス。 「やばい、ずぶ濡れで怒ってる」とイスラ。 「まずいぞ。面倒くさい時のブレイラだ……」とハウスト。  ……ハウスト、あなた、面倒くさい時の私ってどういう意味ですか。  ハウストの余計な一言にムッとしたけれど、今は優しく手招きしてあげます。 「何をしているのです。さあこちらへ。ゴールは目の前ですよ」  私が呼びかけると三人は警戒しながらじわじわ近づいてきます。  互いに目配せしながらじわじわと……。戦闘中だってそんなに大袈裟に警戒しないのに。  そして三人が海から上がってゴールしました。  クロードが私の後ろからぴょこっと顔を出して、三人にぴゅーっと駆け寄ります。まずクロードのお出迎えです。

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