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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて62
「リオとルカがわざわざ来てくれたんですね。通してください」
私はそうお願いしましたが、侍従長は「よ、よろしいんですか?」と困惑した反応をしました。
不思議に思いましたが……。
「ああ、そういうことでしたか。イスラ、そろそろゼロスを解放してあげてください。リオとルカが来るのに、さすがにそれは……」
冥王が勇者に首根っこを掴まれたままでした。
いくら兄弟とはいえ冥界の民に見せていい姿ではありませんよね。守らねばならない威厳もあるのです。今までハチミツの量で揉めていたなんて知られてはいけないはず。
「それもそうだな」
イスラがゼロスを解放してくれました。
これで安心ですね。
「ゼロス、ちゃんとしてください。リオとルカは初めての冥界の民、二人が冥界の民であることを誇って留学できるようにかっこよくお見送りするんです」
「それもそうだね。どうしよ、父上や兄上と並んでる感じの方がいいかな。そっちの方が威厳でる? ステキな冥王様っぽいのがいいんだけど」
ゼロスはそう言ったかと思うと、「ちょっと、父上と兄上こっちきて~」と二人を呼びました。
なにをするかと見ていると。
「父上はこうして。ここでこうして。そう、目線を下にしたままさり気なく前髪かきあげるみたいに」
突然始まったポーズの指導。
ハウストは迷惑そうな顔をしますがゼロスはお構いなしです。
「なんなんだ、おいゼロス」
「お願い、僕のためだと思って父上も協力してよ。初めて冥界に民が出来たんだから父上だっていいとこ見せたいでしょ? そうそう、いい感じ」
ゼロスはハウストのポーズに満足すると次はイスラです。
「兄上は斜めに構えるみたいに立って、目線は上から見下ろすみたいにして。指はこっちにバンッて撃ち抜くみたいにして、俺様っぽい顔するの。うんうん、さすが兄上。偉そうな感じが兄上って感じ」
ゼロスはうんうん頷く。イスラのポーズに大満足のようです。
そして最後にゼロスが二人の真ん中に立つと、首の裏に手を置いて気だるげに顔をあげました。気だるげなのになぜかとってもキメ顔です。
「こんなのはどう?」
「ゼロス、あなたという子はっ……。ステキなのは否定しませんがっ」
ああ目眩がしました。
まるでモデル。王都の若い魔族に人気のモデル雑誌に出てくるようなモデルポーズでした。三人とも美形なのでとても様になっていますが、魔王と勇者と冥王のモデルポーズなんて破壊力強すぎます。
「でもダメですっ、ステキの方向性が違います! フツウに出迎えればいいんです! そもそもこんなの見たらリオとルカがびっくりしてしまいますよ?」
「そうかなあ」
「そうです!」
「……分かった、ブレイラがそう言うなら」
良かった、説得すると渋々ながらも分かってくれましたね。
ゼロスは「いいポーズだと思ったんだけどなあ」と少し不満そうだけど、さっきのポーズを許すわけにはいきません。
きっとハウストとイスラも呆れているはずで……。
「……なに満更でもないみたいな顔をしてるんですか」
違いました。ハウストとイスラはとっても気取った顔のままでした。これはポーズの余韻を引きずった顔ですね。どこか満足そうです。
まさかっと思ってクロードを振り返ると。
「クロード、あなたまで……」
クロードがいつもよりキリッとした顔で首の裏に手を置いてました……。五歳児がそんなことしてもお昼寝で寝違えた幼児にしか見えませんよ。
「まったくあなた達は揃いも揃って……」
私が呆れるとハウストたちが誤魔化すように目を逸らしてしまう。
どうやらハウストもイスラもクロードもこういうのは基本的に嫌いではないようです。そういえば結構カッコつけでしたね。
こうしている間にもリオとルカがサロンの前まで来ました。
ゼロスは最後までポーズを考えようとしてましたがいつも通りでいいのです。
私はイスラとゼロスをそれぞれ一人掛けの椅子に座らせて、ハウストと私はクロードを真ん中にして長椅子へ。
「どうぞ、二人を通してください」
「畏まりました」
少しすると緊張した様子のリオとルカが入ってきました。
「し、失礼しますっ」
「失礼します……!」
入ってきた二人はサロンに揃っていた顔ぶれに一瞬びっくりした顔をしましたが、慌てて背筋を伸ばして姿勢を正します。いつもは生意気なリオも畏まった顔をしていました。
「御無沙汰していますっ。第三国ではありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
そう言って二人は深々と頭を下げました。
二人に出会ったのは一ヶ月前ですが、以前より明らかに様子が変わっています。
以前は瞳に諦めの陰りが見えて、表情も攻撃的なものでした。でも今は瞳に煌めく希望が宿り、表情は穏やかに前を向いていました。
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