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Episode2・冥王ゼロスは修業中にて63

「準備期間は大変だったでしょう。よく乗り越えてくれました」 「いいえ、たくさん勉強させていただいてありがとうございます! ぼくたち、こんなに勉強に集中できたのは初めてでした!」  ルカが嬉しそうに準備期間のことを話してくれます。  以前はぶっきら棒な反応しかしなかったリオも素直にこくりと頷きました。  わずか一ヶ月の準備期間は大変なものだったはずですが、どうやら二人にとって悪くないものだったようです。  専属に付けていた講師から二人の能力が留学に達したと報告を受けています。魔力は申し分ありませんが、座学のほうはようやく基準に達したレベルです。でもそれは仕方ありませんよね。二人が学校に通えていたのは両親が存命の時までだったのですから。  だから一ヶ月でここまで引き上げてくれて充分なくらい。リオもルカも講師もほんとうによく頑張ってくれました。 「魔王様、王妃様、ありがとうございました。王立士官学校ではしっかり学んできます」 「たくさん学びますっ」  改めて二人がハウストと私に深々と礼をしました。  私は頷いて二人に言葉を掛けます。 「留学したらしばらく寮暮らしですね。慣れない生活に戸惑うこともあるでしょうが頑張ってください」 「はい、頑張ってきます」 「頑張ってきます」 「よいお返事です。これからも幾多の困難に立ち止まることがあるでしょう。でも明日から始まる留学はリオとルカに大きな財産をもたらします。これからは自分の望むままに生きるのですよ」 「はいっ」 「はい!」  リオとルカが大きな声で返事をしてくれました。  私は頷くと次にゼロスを見つめます。さあゼロス、あなたも見送りの言葉をかけてあげてください。二人はあなたの冥界の民なのですから。  ゼロスが椅子からゆっくり立ち上がりました。そしてリオとルカの前へ。 「リオ、ルカ」 「は、はいっ」 「はいっ」  リオとルカが背筋を伸ばしてゼロスを見つめました。  冥王ゼロスは二人の王。ゼロスはリオとルカにとってかけがえのない存在になったのです。  ゼロスは厳しい顔つきで二人に言葉をかけます。 「冥王として命令する。留学するからには士官学校で主席を取ってくるように。冥界の民ならそれくらいしてもらわないと困る」 「は、はいっ、がんばりますっ……!」 「っ、がんばりますっ!」  二人が緊張で息を飲みました。  威風堂々とした冥王に圧倒されているのです。  ぴりぴりした緊張感が漂いましたが、少しして……ゼロスがニヤリ。いたずらが成功した子どものような顔で笑います。 「な~んてね、びっくりした?」 「め、冥王さま……」 「ぅ、びっくりした……」  リオとルカがほっと安堵しました。今にも膝から力が抜けそうなほどの安堵です。  かわいそうに、びっくりしてしまいましたよね。  でもゼロスは「ごめんごめん」と軽い調子で言うと、二人を見つめて言葉をかけます。 「せっかく学校に通うんだし、友達をたくさん作っておいで。きっといっぱい楽しいことがあるよ。楽しいことを全部経験して、今よりもっと強くなって帰っておいで。留学おめでとう」 「「ありがとうございます!!」」  リオとルカが声を揃えて言いました。  深々と頭を下げる二人にゼロスも頷きます。 「うん、いってらっしゃい。頑張ってくるんだよ~」 「いってらっしゃい。また会いましょう」 「「行ってきます! ありがとうございました!」」  リオとルカは最後に深々と礼をするとサロンから退室していきました。  こうして無事にリオとルカを見送ることができました。私もゼロスもほっとひと安心です。  これからリオとルカには多くの苦難があるでしょう。でもそれ以上に多くの喜びを得るでしょう。どんな時も二人は力を合わせて前へ進むことができるはずです。二人ならそれができると信じています。 「ゼロス、良かったですね。あなたの初めての民が旅立っていきました。きっと大きく成長して帰ってきます」 「うん、僕もそう信じてる」  ゼロスがニコリと笑って大きく頷きました。  そして真剣な顔になって私を見つめます。 「ブレイラ、ありがとう。ブレイラのおかげだよ」 「どうしました。私は何もしていませんよ」 「ううん、してくれたよ。ブレイラはずっと僕の味方でいてくれた。僕が失敗しちゃった時もずっと味方でいてくれた。だから僕はあの二人を最後まで信じることができたんだ。信じることが怖くなかった。ありがとう、ブレイラ」 「ゼロスっ……」  私は胸がいっぱいになりました。  堪らない気持ちがこみあげて、そっとゼロスを抱きしめました。  ゼロスは嬉しそうに目を細めて私を抱き締め返してくれます。 「ブレイラ、ありがとう。これからも僕の味方でいてね。僕がステキな冥王様してるとこをちゃんと見ててほしいんだ」 「もちろんです。いつもあなたを思っていますよ」 「うん! ブレイラ、大好きだ!」  ぎゅうっと抱きしめられました。  抱きしめてくれる腕は子どもの頃より力強くなったけれど、この無邪気な笑顔は子どもの頃からちっとも変わりませんね。  私はゼロスの背中をポンポンするとみんなのところに戻ります。  イスラが呆れた顔でゼロスを見ていました。 「お前、なにが主席取ってこいだ。お前は座学も訓練もさぼりまくってただろ」 「そうだっけ?」  軽い調子で誤魔化すゼロスにイスラが「とぼけるなよ」と目を据わらせました。  クロードはきょとんとして隣のハウストに聞きます。 「そうだったんですか?」 「ああ、よく北離宮に逃亡していたな」  ハウストが苦笑混じりに答えると、「にーさまが」と目をぱちくりさせています。  そう、ゼロスはそうでした。今でこそ冥王の役目を立派に果たしていますが、幼い頃はそういうところがあったのですよ。  ゼロスには幼い頃から専属の講師をつけていましたが、よく『きょうはおやすみしよっか!』や『きょうのしゅくだい、ちょっとおおいとおもうの』などと駄々をこねて講師を困らせていました。なんでもやれば出来る子なのですが、長く椅子に座っていると辛くなってしまうようでした。 「もういいでしょ。みんなで忘れよ!」  どうやらゼロスは強硬に誤魔化すことにしたようですね。  そんなゼロスにイスラが「開き直るなよ」と笑います。  それにゼロスが笑うとクロードも笑いました。息子たちが笑うとハウストも楽しそうに目を細めて口元に笑みを刻みます。  そんなハウストと息子たちに、私も楽しい気持ちになって頬がとろけてしまいそう。  こうして私たち家族の日常は穏やかにすぎていくのでした。 終わり ―――――― 読んでくれてありがとうございました。 ゼロスはイスラやハウストと比べるとまだ未熟なんですが、そんなゼロスが頑張る話しでした。ゼロスの成長を書けて良かったです。 今回の双子については冥界の初めての民です。魔王や精霊王や勇者にはそれぞれ優秀な人材がいるので、完結編を書く前にゼロスにもゼロスの手足となって動ける優秀な人材が欲しかったんですよ。 次はEpisode3です。 クロードに出自の話しをしたり、ブレイラとゼロスとクロードが視察に行く話しです。 このまま続きます。よろしくお願いします。

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