◆◆◆◆◆◆ 　魔王の居城・北離宮の大庭園。 　北離宮の大庭園には多くの着飾った女性や子ども達の姿があった。 　今日は王妃主催のガーデンパーティーが開かれている。 　パーティーには多くの貴族の夫人や令嬢が参加していたのだ。 「ご機嫌よう。今日が良い天気でよかったわ」 「ほんとうに。皆様にお会いできるのを楽しみにしていたの」 「ご機嫌よう。一緒にいるのはご息女かしら。綺麗になったわね」 「おかげさまで。今日は初めて北離宮に連れてきましたの。どうしても王妃様の御姿をこの子に見せてあげたくて」 「ごきげんよう。よろしくおねがいします！」 「お上手なご挨拶。将来が楽しみね」 「お久しぶり。前回の式典以来かしら。お会いできて嬉しいわ」 「まあ、ステキな衣装ね。とってもいいわ」 　庭園のそこかしこから溢れる華やかな声と笑い声。 　パーティーには本来パーティーに参加できない幼い子どもの姿も多くあった。 　本来王妃主催のパーティーに参加できるのは上級貴族の夫人や令嬢だけだったが、当代王妃ブレイラは階級や幼さを理由に立ち入りを禁じたりはしないのだ。 　夫人や令嬢は楽しそうに歓談しながらも、庭園に特設された豪奢なデッキを見つめてうっとりとため息をついた。 　そこには主催の王妃ブレイラの姿があったのだ。 　しかもブレイラの側に控えるように着席しているのは、北の大公爵夫人ダニエラ、東の大公爵夫人エノ、南の大公爵夫人フェリシア、西の大公爵夫人メルディナ。四大公爵夫人の四人である。 　はっきりいって近寄り難い空間だ。でも遠くから見つめているだけでため息がでてしまう。 「見ているだけで眼福だわ。いったいどんなお話しをしているのかしら」 「ほんとよね。きっと私たちが想像もつかないような高度で高貴なお話しをしているのよ」 「とっても優雅な空間だわ。あそこだけ漂っている雰囲気がちがうもの」 　夫人や令嬢たちはうっとりしながらまたため息をついたのだった。 ◆◆◆◆◆◆ 　晴天の下、北離宮の大庭園はいつにも増して華やかな雰囲気に満ちていました。 　今日は私が主催するガーデンパーティーなのです。 　魔界の各地から貴族の夫人や令嬢たちが集まってくれました。 　華やかな大庭園に特設されたデッキのテーブルには私と四大公爵夫人が着席しています。 　この場所からは大庭園を見渡せるので、楽しそうに歓談している貴婦人たちを見ていると私も自然と笑みが零れました。 　こうしてとってもいい気分だったわけですが。 「なにニヤニヤしてますの。薄気味悪いですわよ？」 「よ、よりにもよって薄気味悪いとはなんですっ」 　メルディナです。 　こんな時に私に水を差すのはだいたいメルディナです。 　メルディナはフフンと笑って私をからかいます。 「自覚ありませんでしたの？　誰が見てもニヤニヤでしたわ」 「ニヤニヤではありません。私がしていたのは『ほほえみ』です。そうでしたよね？」 　私は確認するようにダニエラとエノとフェリシアを振り返りました。 　ダニエラはムッ……とした顔をします。でもこれは困った時の顔。その顔、北の大公爵エンベルトと似てますね。夫婦って似るんですね。 　エノは「あらあら、まあまあ」と微笑みました。これは誤魔化す気満々の顔ですね。 　……ダメです。この二人に聞いても無駄だと分かりました。 　ならば最後にフェリシアを見ました。彼女なら私の期待する答えが聞けるはず。 「王妃様の楽しそうな御姿を拝見することができて幸せです」 　フェリシアが優しい笑顔で言いました。 　…………。 　…………これ完全に誤魔化しましたね。 　しかも全方向に波風立てない非の打ちどころのない返しです。完璧すぎてメルディナですら「……相変わらず太々しいですわ」と若干引いてますよ。 　これは話題を変えた方がいいですね。私の判断は早いのです。 　コホン。咳払いをひとつ。 「みなさん楽しんでいただいているみたいで、ガーデンパーティーを開いてよかったです」 　仕切り直しました。 　分かりやすい仕切り直しでしたが四大公爵夫人の四人は見逃してくれます。 　メルディナは優雅な所作で紅茶を一口飲むと私を見ました。 「それにしても珍しいわね、今回のガーデンパーティーは王妃も積極的だったそうじゃない。こういうのは得意じゃないと思っていたのに」 「得意じゃないわけじゃありませんよ。緊張してしまうだけです」 「緊張？　……王妃になって何年経ちますのよ」 「何年経っても慣れるものじゃないんです。でも、みなの顔が見たくなったのですよ」 　私はそう言って大庭園を見回し、そして四大公爵夫人の四人を見つめました。 　キラキラ輝くような穏やかな陽射しの下でみなは笑顔です。この平穏な日々を当たり前のように思っていたけれど、そうではないのです。 　四界の平穏はレオノーラというたった一人の存在に守られたもの。私たちの世界は薄氷の上だったのです。 　そんな世界の真実を知っているのは四界でも極少数。その中に四大公爵夫人も含まれていました。 　そんな私の気持ちを察してくれたのか、四人の顔つきが真剣なものになる。これは笑って話せる内容ではないのです。 　でも私はそんな顔をしてほしくてガーデンパーティーを開いたのではありませんよ。 「というわけで、せっかくですからなにかおもしろい話しをしましょう！　順番にそれぞれ話していくんです」 「なによ、その暇な会話……」 　メルディナが心底呆れた顔になりました。 　他の四大公爵夫人も複雑な顔をしています。分かっています、無茶ぶりですよね。でもせっかく集まったんですから四人の楽しい話しが聞きたいのです。 　それにこの四大公爵夫人におもしろい話しを所望できるのは私だけなんですよね。せっかくなので、この王妃の権威とやらを使ってみようと思います。