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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は6
「うぅ、もうダメです……」
気が遠くなる私にイスラとゼロスも駆け寄ってきて慰めてくれます。
「ブレイラ、しっかりしろ。頼むから元気をだしてくれ」
「イスラ……。でもクロードが」
「これからのことを考えよう。今はクロードもショックかもしれないが、あいつならちゃんと立ち直れるから」
「そうだよ、なにか元気が出ることをしてあげようよ!」
「クロードの元気がでること……。そうですね、それがいいかもしれません。それ採用です」
私も大きく頷きました。
そうです、少しでもクロードが気持ちを楽にできるようにしてあげましょう。
私は支えてくれていたハウストの腕から立ち上がり、クロードの喜ぶことを提案します。
「では、私はクロードの好きなおやつを作ってあげましょう。いつもよりたくさん作ってあげるんです」
「名案だな。では俺はクロードに馬を一頭やろう。乗馬の稽古が始まったと聞いている」
「それは良い案です。赤ちゃんの時はとっても上手に木馬に乗っていたんです。きっと乗馬もすぐに上手になりますね」
ハウストの提案に私も頷きます。
あの子はイスラやゼロスが颯爽と乗馬する姿に憧れていたので、ずっと自分の馬を欲しがっていたのです。きっと喜んでくれるはずです。
次はイスラが提案してくれます。
「俺はクロードを人間界の博物館に連れてってやる。新しくできた博物館に連れていけとねだられていたんだ」
「それはいいですね。クロードは博物館が大好きですから」
先月、人間界の大国に新しい巨大博物館が開館したのです。その話しを聞いたクロードがイスラに自分も行ってみたいとねだっていたのです。きっとクロードは喜んで元気をだしてくれるでしょう。
次はゼロスが提案してくれます。
「僕はクロードを冥界の火山帯に連れてってあげるよ。前から連れてけってお願いされてたんだけど、溶岩たっぷりの危険地帯だからまだダメって言ったんだ。でもクロードが元気だしてくれるなら連れてくよ」
「ぜひ連れていってあげてください。でも危ないですからちゃんと抱っこしててあげてくださいね」
「もちろん! 抱っこも肩車もおんぶもしてあげる!」
「はい、お願いします」
溶岩たっぷりの危険地帯は心配ですがクロードが望んでいるならぜひ連れていってあげてください。でも溶岩たっぷりは心配で……。
するとイスラが察したように頷いてくれます。
「心配するな、俺も同行する」
「えっ、兄上も来てくれるの? やった~!」
「イスラ、ありがとうございます。お願いします」
イスラも一緒に行ってくれるなら安心です。
きっとクロードも二人の兄とお出掛けすることを喜ぶでしょう。
「クロードが戻ってきたら皆で迎えましょう。力を合わせてクロードを元気にするんです」
こうして私たちはクロードを元気にするための計画を立てました。家族総出でクロードを元気にするんです。私たちが力を合わせればきっと大丈夫!
その時、コンコンコン。扉をノックする音。クロードが戻ってきました!
私たちは素早く目配せし合って心の準備をします。みんなで頑張りましょう!
「クロード、どうぞ入ってくださいっ」
私は焦る気持ちを押さえて返事をしました。
カチャリ。クロードが俯き加減に部屋に入ってきました。
その元気がない姿に息を飲む。だってクロードは深刻そうな雰囲気だったのです。
クロードは深刻そうな様子でソファに来ると、またちょこんと座ります。私とハウストの真ん中の位置。隣に座ってくれたことに安心しますが、それでもクロードの顔は深刻なまま……。なんとかしなければっ!
「ク、クロード、今度のお休みにおやつを作ろうと思うんですっ。クロードの好きなものを作ってあげますね、なんでも言ってくださいね!」
私はことさらに明るい声で言いました。
クロードは深刻な様子で俯いたままですが、……ぴくり。少しだけ肩が反応しました! 私は見逃しません! 今です! 畳みかけるのです!
「クロード、馬をやろうか。前から欲しがってただろ」とハウスト。
「クロード、人間界の博物館に連れてってやる。行きたがってただろ?」とイスラ。
「今度、冥界の火山帯に連れてってあげるね。真上から噴火口を見せてあげるよ!」とゼロス。
次々に畳みかけました。
それはまさにクロードの嬉しいこと波状攻撃!
これならクロードも元気をだしてくれるはずっ! 私は期待を込めてクロードを見ましたが……。
「クロード……」
クロードは深刻なままでした。
俯いたまま真剣な顔で足元を見ているのです。
広間に沈黙が落ちて、私とハウストとイスラとゼロスは愕然とする。もう、クロードは私たちに笑顔を見せてくれないのでしょうか。もう、もうダメなのでしょうかっ……。
絶望した、その時。
「…………ブレイラ」
ふとクロードの声。
ハッとして振り向くと、クロードがおずおずと顔をあげました。真剣な顔で私を見つめます。
「クロード、なんですか? なんでも言ってくださいっ」
「……なんでも?」
「はいっ、なんでもっ。なんでも聞きますから!」
「…………分かりました。それなら……」
クロードは自分を落ち着けるように深呼吸を一つ。
そして私を見つめたままゆっくり言葉を紡ぎます。
「いいですか、ブレイラ。よくきいてください。だんせいは、あかちゃんを、うめないんです」
…………。
………………。
……………………。
………………………………ん?
……なにか、なにか想像していたことと違うような……。
しかし黙ったままの私をクロードはとっても優しい眼差しで見つめてきました。
そして、膝に置いていた私の手に小さな手を重ねてぎゅっと握りしめ、私に言い聞かせるような口調で続けます。
「ブレイラ、あかちゃんがうめなくてショックなのはわかります。でも、ブレイラがうんだわけじゃなくても、わたしもイスラにーさまもゼロスにーさまもブレイラのこどもです。ブレイラのことだいすきなんです。だからげんきだしてください」
クロードは言葉を区切りながら、ゆっくりと慰めてくれました。
それはいつも私が大切な話しをする時と同じように、手を握り、目を見つめ、ゆっくりとした口調です。
そう、なぜか私が慰められる側になっているんですが?
そうしている間にもクロードは扉の外に向かって命じます。
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