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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は8

「……なんですか。笑いたいなら笑えばいいじゃないですか」  そう言ってじろりっと四人を見ると、フェリシアが笑いを耐えながらも慰めてくれます。 「さすがクロード様です。御自分の力で答えを導きだすとは」  それにエノとダニエラがすかさず続きます。 「その通りです。たくさんお勉強をされているのですね」 「すでに次代の魔王としてのご自覚が芽生えている様子。魔界にとってこれほど頼もしいことはありません」 「優しいフォローをありがとうございます……」  三人の慰めに私は苦笑しました。  完全に気を使ってくれています。  でもここに気を使ってくれない人物が一人。もちろんメルディナです。 「……普段なにをしていれば子どもにそんな勘違いされますの?」 「それは私がクロードに聞きたいくらいですよ」  言い返すどころか思わず同意してしまいましたよ。ほんと、どうしてでしょうね。  そうやって言い合っている私とメルディナにエノが微笑んでくれます。 「でもクロード様のお気持ちは安定しているご様子です。複雑な事情も自然に受け止められるということは、それほどにクロード様の御心が満たされているということですから」 「そうね、面倒なことになるより良かったですわ」  メルディナも肩を竦めて言いました。  たしかにその通りですね。面倒という言い方はともかく、クロードの気持ちが荒れてしまうようなことがなくて良かったです。  もちろん気持ちが荒れてしまったら落ち着くまで寄り添うつもりでしたが、クロード自身がすでに納得しているのならそれが一番良いのでしょう。  こうして私たちは世間話しや雑談をしていました。四大公爵夫人それぞれの日常も知れてとっても楽しいです。  ふと、庭園の入口がざわざわと騒がしくなりました。  見るとクロードがおずおずとした様子でこちらを見ています。  どうやら遊びに来てくれたようですね。まだ子どものクロードは北離宮への立ち入りを許されているので、今日は大庭園でガーデンパーティーを開くことを知っているのです。  姿を見せたクロードに夫人や令嬢たちも嬉しそう。 「クロード様だわ、なんて可愛らしい」 「以前より大きくなられたわね」 「とっても賢そうな御顔立ち。ステキだわ」  夫人や令嬢たちがざわざわと囁いて、うっとりとクロードを見つめています。  そんな視線にクロードは恥ずかしそうにしていましたが、奥のデッキに私を見つけるとパッと顔を輝かせました。 「ブレイラ!」  私の名を呼んでこちらに駆け寄ってきます。  嬉しそうなクロードに私も目を細め、「こちらですよ」と手を振り返しました。 「ふふふ、来るんじゃないかと思っていました」 「ブレイラ、わたしとあいたかったんですか?」 「はい、私はいつだってあなたに会いたいですよ」  そう言うとクロードが嬉しそうにはにかみます。  でもデッキの前で立ち止まりました。  ここには四大公爵夫人が勢揃いしているのです。いくら臣下とはいえ夫人たちの前でいつものように甘えることはできませんからね。クロードは幼いながらもそれをよく分かっています。  四大公爵夫人の四人もクロードの前で立ち上がり、恭しくお辞儀します。 「クロード様、お久しぶりです。お健やかな御姿を拝見できましたこと光栄でございます」  まず四大公爵夫人筆頭のダニエラが挨拶しました。  それに合わせてエノとフェリシアも「こんにちは。お会いできて光栄です」と丁寧に挨拶します。  そしてメルディナもクロードの前でお辞儀しました。 「クロード様、お会いできて光栄ですわ」  メルディナはいつもと変わらない様子ですが、クロードは一瞬だけ「あ」と表情を変えました。やはり意識するのでしょうね。子どもらしい反応になんだか微笑ましい。  でもクロードはすぐにいつもの表情に戻りました。 「こんにちは、ふじんがた。おひさしぶりです」  クロードは四大公爵夫人を前にして緊張しながらも挨拶を返しました。  メルディナもクロードもいつも通りです。それは二人が自分の立場を自覚しているから。  ならば私も自覚せねばなりませんね。 「クロード、こちらへ。上手に挨拶ができましたね」 「はいっ」  クロードが嬉しそうに私のところに来ました。  すぐにクロード用のチェアが用意されて私の隣にちょこんと座ります。  私はいい子いい子とクロードの頭をなでなですると、起立したまま見守ってくれている四大公爵夫人に声を掛けます。 「どうぞ着席してください」  私の許可で四大公爵夫人が着席しました。  四人とは信頼関係が結ばれていますが、私はどんな時も四大公爵夫人の主人であらねばならないのです。 「クロード、今日の講義が終わったようですね」 「はい、しゅくだいもおわりました。よしゅうもかんぺきです」 「えらいですね。さすがクロードです」 「こんどのおやすみのけいかくもたてました」  そう言ってテーブルにノートを置きました。  ノートの表紙には『にーさまたちとおでかけプラン』と大きく書かれています。  これは、もしかして……。

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