108 / 133

Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は9

「もしかして、これは人間界の博物館と冥界の火山帯に連れていってもらう計画ですか?」 「はい、ちゃんとつれてってもらいます。イスラにーさまはおしごとがいそがしそうでしたけど、こんどのおやすみまでにぜったいおわらせてもらいます」 「絶対ですか?」 「ぜったいです」  クロードがきっぱり答えます。  聞いていたエノとフェリシアも「まあ、勇者様が相手でも強気なのね」「とても立派な御姿です」と囁きあいます。  もちろん聞こえているクロードはさらに気分を良くしたようで。 「ゼロスにーさまもです! ゼロスにーさまはひとりでかってにめいかいにいってしまうので、わたしがみはっておきます!」 「見張るんですか?」 「みはります!」 「でもゼロスは冥王ですから、一人で冥界に行ってもいいんじゃないですか?」 「ダメですっ。わたしもいっしょにつれていってもらいます! またひとりでいったら、ゼロスにーさまにおせっきょうします!」 「おや、お説教ですか」  いつになく調子に乗ってるクロードです。  この理由は一つ、四大公爵夫人たちですね。  末っ子のクロードはプンプンしてもイスラやゼロスに軽くあしらわれてしまうことが多いのです。でもここでは「お強いのね」「勇者様や冥王様と渡り合うなんて」「頼もしいわ」と感心してもらえるので嬉しくなっているようでした。 「ちちうえからうまをもらって、たくさんれんしゅうして、じょうずにのれるようになったらブレイラといっしょにのります」 「それは楽しみですね。よろしくお願いします」  私が優しく笑いかけると、クロードは誇らしげな顔になりました。  小鼻がぴくぴくしているのでとっても気分が良くなっていますね。  クロードの利発な様子にダニエラとエノとフェリシアも目を細めます。  四大公爵夫人もまだ幼い次代の魔王には甘くなるようです。  いつにないクロードに私はクスクス笑いましたが。 「それで、クロード様は覚醒しましたの?」 「ッ!? メ、メルディナ……!」  ここに甘くない四大公爵夫人が一人、メルディナです。  メルディナの厳しすぎる質問にクロードも衝撃を受けたよう。  クロードはぎゅっと目をつぶって下唇を噛みしめる。ああ小さな肩がプルプルしてしまっていますよ。  私はメルディナを小声でコソコソ注意します。 「こらっ、どうしてそんないじわる言うんですか。分かってて言いましたねっ」 「見ていられませんわ。甘やかしすぎなのよ」 「そんなこと言って。クロードはまだ五歳ですよ」 「勇者と冥王は赤ん坊の時に覚醒していたじゃない」 「クロードにはクロードのペースがあるんです。焦らせてはいけません」 「調子に乗らせすぎですわ」 「五歳は調子に乗ってもいいんです」 「魔界の中枢はそんな甘い場所じゃなくってよ」 「それはクロードも分かっています。だから気にしてるんじゃないですか」  メルディナに言い聞かせました。  メルディナがクロードに覚醒を急かせる気持ちは分かります。これはメルディナなりの愛情で、クロードを守るためでもあるのです。  しかしまだ覚醒していないことを一番気にしているのはクロードでした。以前より悩まなくなりましたが、それでもクロードが気にしていないことはないのです。 「クロード、大丈夫ですよ。こういうのは自分のペースでいいんです」 「ブレイラっ……」 「勇者も冥王も自分のペースで赤ん坊の時に覚醒しましたわ」 「うっ、にーさまたち、あかちゃんのときっ……!」 「こら、メルディナっ」  隙あらば追い打ちをかけるメルディナ。  もう目が離せませんね。 「クロードはたしかにまだ覚醒していませんが、とっても優秀なんです。講師の方々も驚いているくらいですよ」  私がフォローするとクロードがぴくりっと反応しました。  座学全般はクロードの得意分野です。これで調子を取り戻してくれれば……。 「は、はい。わたし、たくさんおべんきょうしてるんです。むずかしいほんもよみます。よしゅうふくしゅうもわすれませんっ」 「ふーん、まあまあやるじゃない」 「まあまあ……」 「まあまあではありませんっ。クロード、これはとってもスゴイことなのですよっ」  すかさずフォローしました。  しかしメルディナのクロードチェックは続いてしまいます。 「座学は問題ないようですけど、魔力制御の方は……。ふーん、まだ不十分なんじゃないかしら。クロード様、精進なさいませ。無尽蔵の魔力を制御できてこそ真の魔王ですわ」 「ま、まりょくせいぎょ……」 「魔力制御のできない魔王はただの暴君。今は当代魔王様や勇者や冥王に甘えてればよろしいかもしれませんけど、いつまでもそんなこと許されませんのよ」 「は、はいっ……。はいっ……」  クロードが下唇を噛んでこくこく頷いています。  プルプルする小さな肩を今すぐ抱きしめてあげたいけれど、これってメルディナなりの叱咤激励なんですよね……。  クロードも分かっているようで頷いています。  少し前までのクロードなら落ち込んでいたかもしれませんが、やっぱり少し成長したようですね。  こうしてなんだかんだありましたがガーデンパーティーは無事に閉会したのでした。

ともだちにシェアしよう!