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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は10

 その日の夜。  家族揃って夕食を終えた私たちは広間で憩いの時間をすごしていました。 「ゼロスにーさま、どうしてかってにめいかいにいくんですか!」  クロードのプンプンの声があがりました。  それというのもこの時間に今日の出来事を話していたわけですが、ゼロスが冥界に行っていたと話したのです。冥王ゼロスが冥界に行くのはおかしなことではないのですが、ガーデンパーティーで強気に見張ると宣言していたので面白くないようですね。  プンプンのクロードにゼロスが苦笑します。 「そんなに怒んないで。冥界に行ったのは仕事だよ。約束してた火山帯じゃないから」 「ほんとですか?」 「ほんとほんと。僕がクロードを置いてくわけないでしょ。ちゃんと連れてってあげるよ」 「やくそくですからね! ぜったいつれてってくださいね!」  クロードはそう約束をとりつけると、次にはイスラを振り返りました。  その様子にイスラも察して頷きます。 「分かってる。今度の休みに人間界の博物館行こうな」 「はい、ぜったいですからね!」  クロードが上機嫌に返事をしました。  二人のにーさまとお出かけの再確認ができて安心したようです。イスラもゼロスも多忙ですから心配だったようですね。 「僕も今日のガーデンパーティーに遊びに行きたかったなあ」  ふとゼロスが残念そうに言いました。  幼い時は『ぼくだよ、ゼロスだよ~! おじゃましまーす!』と元気に気軽に北離宮を出入りしていたゼロスですが、さすがに十五歳になった今は北離宮に立ち入ることはできません。ましてや今日のガーデンパーティーは北離宮で開かれた私主催のものなので尚更です。 「では今度は本殿でガーデンパーティーを開きましょう。ハウスト主催のものならイスラとゼロスも遊びに来れますから」 「やった。楽しみにしてるね。夜のパーティーもいいけど昼のも好きだよ。なんか気楽だし」 「ふふふ、雰囲気が明るいですからね。私も好きです」 「わたしがきょうのパーティーのおはなししてあげます!」  クロードが張り切ってイスラとゼロスに今日のガーデンパーティーのことを話し始めます。  パーティーでメルディナに詰められていたクロードですが、そんな都合の悪い部分はわざわざ話しません。自分が褒められたことしか話していません。  そんなクロードがおかしくて小さく笑ってしまう。  以前は生真面目すぎるところが心配でしたが、なんだかんだちゃっかりしたところも出てきて気持ちも強くなっているようですね。  三兄弟の様子を見守っていると隣に座っていたハウストが穏やかに話しかけてきます。 「今日のガーデンパーティー楽しかったようだな」 「おかげさまで。久しぶりに会えた方々もいて楽しかったです」 「そうか、お前が楽しめたようで良かった。四大公爵夫人たちも変わりないか?」 「はい、四人とも相変わらずでしたよ。みな元気そうでした」  私は今日のガーデンパーティーのことを思い出しながら話しました。  そして少し離れた場所でイスラとゼロスにおしゃべりしているクロードをちらりと見て、ハウストの耳に唇を寄せます。こそこそ話しです。 「四大公爵夫人にクロードのことを話しました。クロードに出自を打ち明けたことを」 「あのことか……」  ハウストも打ち明けた時のことを思い出したようで、ムムッと眉間に皺を刻みました。  私は小さく笑って指でモミモミしてあげます。 「ふふふ、そんな顔しないでください。私もびっくりしましたがクロードらしいじゃないですか」 「あれがクロードらしいのか……」 「とてもかわいい五歳児です。しかも疑問を覚えたら自分で考えて答えを導ける子です。次代の魔王様はよく考える賢い子どもですよ」  そう言ってハウストに笑いかけると、彼も優しく目を細めました。  でも今日のガーデンパーティーではそれだけではありません。 「あ、でもメルディナに覚醒はまだなのかと詰められていましたね」 「メルディナらしい。あれは権威の集中する場所でなにをどうすれば誰を守れるかよく知っているからな」 「はい、私も教えられることがたくさんあります。クロードはたじたじでしたが」  たじたじでしたが、かといって引きずっている様子はありませんね。  今もイスラとゼロスに身振り手振りを交えてガーデンパーティーの話しをしていてとっても楽しそう。  今日のメルディナとクロードは互いに自分たちの関係を知っていました。知ったうえで以前となんら変わりない様子でした。それは二人が自分の立場を自覚しているから。そういうところ二人はやはり似ているのでしょうね。 「メルディナもじゃれていたようだな」 「ふふふ、あれをじゃれると言っていいのか分かりませんが」 「お前だって俺と結婚する前からメルディナとよくじゃれあっていただろう」 「ふふふ、私とメルディナも、…………ん?」  ちょっと待って。  これはちょっと聞き捨てなりませんよ?  あなたと結婚する前の私とメルディナの衝突が…………じゃれあい?  今でこそ私とメルディナは和解して義兄妹として信頼しあっていますが、結婚前はお世辞にも良好な関係だったとはいえません。  それなのに、じゃれあい? 「……じゃれあい、ですか?」 「ブレイラ?」  声の調子が変わった私にハウストが不思議そうな顔をします。  なんですかその顔。  ……そういえばこの人、結婚前に私とメルディナを仲裁したことがなかったような……。  その理由が、結婚前から私とメルディナのケンカがじゃれあい程度だと思っていたなら納得がいくというものでっ……。 「…………ハウスト」  思わず低い声が出ました。  雲行きの怪しさを察知したハウストが「ブ、ブレイラ?」と警戒します。

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