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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は12
「……気持ちは分かるが、行っても会えるとは限らないぞ。リオとルカは学校で特待生として扱われているが、冥王のお前が個人的に特別扱いをすることは公正さに欠けることだ」
「分かってる。二人はただの留学生だからね」
リオとルカは特待生として留学を許可されましたが、だからといって特別待遇を受けられるということはありません。
冥界の民なので冥界からの留学生ですが二人の身分は『学生』です。
留学を終えて学業終了となれば冥王ゼロスからなんらかの役職と仕事を与えられますが、それがどんなものになるかはリオとルカの能力次第でした。二人がこの留学期間になにを学び、どれだけ強くなるか、それは二人の将来を左右するものです。
でもね、卒業するまでは普通の学生。他の生徒たちと同じように扱わなくてはなりません。ましてや士官学校は実力主義なので尚更でした。
それはゼロスも充分承知しているようですね。
「遠くから見るだけで充分だよ。学校に元気に通ってる姿が見たいんだ」
「ハウスト、私からもお願いします。私もリオとルカの元気な姿が見たいです」
私もお願いすると、ハウストが苦笑して頷いてくれました。
渋々といった様子ですが許可してくれます。
「……分かった。手配しておこう」
「ありがとうございます。良かったですね、ゼロス」
「うん! 父上、ありがとう~!」
ゼロスが嬉しそうな笑顔になります。
やり取りを見ていたクロードもパッと顔を明るくしました。
「それって、ゼロスにーさまもいっしょってことですか?」
「そうだよ、僕も一緒に行くよ。よろしくね」
「クロードも良かったですね」
「はいっ!」
急遽ゼロスも一緒に行くことが決まりました。
予定になかった冥王の訪問に士官学校側は大慌てになってしまうでしょうが、リオとルカに会いたいというゼロスの気持ちを無碍にはできません。
こうして明日、私とゼロスとクロードは王立士官学校の視察へと赴くのでした。
◆◆◆◆◆◆
――――魔界王都・王立士官学校。
それは王妃ブレイラが視察にくる一週間前のことである。
王立士官学校の円形闘技場から大歓声が上がっていた。
闘技場では今、魔力闘技会の準々決勝が開催されていたのだ。
そして闘技場の舞台には、激闘の末に勝ち残った個人戦の八人と、団体戦を勝ち残った八チームの姿があった。
観覧席は興奮した大歓声と拍手で祝福している。舞台にあがっている学生は、このエリート揃いの全校生徒から勝ち残った存在。士官学校の中でもひと際才覚に恵まれた存在といってもいいだろう。
その中には留学中のリオとルカの姿もあった。
教官が舞台の生徒たちに向かって厳格に告げる。
「準決勝進出おめでとう! ここにいる者たちは一週間後の御前試合で戦うことになる。みな存分に力を発揮できるよう、鍛錬を怠らずに御前試合に臨むように!」
『御前試合』
その言葉に生徒たちの間に緊張が走った。
一週間後、魔界の王妃ブレイラが王立士官学校の視察にくるのである。その時に魔力闘技会の準決勝と決勝が御前試合として行なわれる。
そこで優勝すれば王妃から優勝旗を賜れる栄光に授かれるのだ。それだけじゃない、最優秀賞は王妃によって選ばれる。最優秀賞に選ばれることは学生たちにとって最上の名誉だった。
準決勝に残った者は誰もが最優秀賞を狙っているといっても過言ではないのだ。
こうして無事に魔力闘技会の準々決勝が終わったのだった。
その日の夜。
リオとルカは寮の食堂で準決勝進出を祝っていた。
テーブルにはたくさんの料理が並び、真ん中にはでんっとホールケーキが鎮座している。
魔力闘技会は王立士官学校の年間行事のなかでもっとも盛大に行なわれることもあって、準決勝まで勝ち残った者には特別料理が振る舞われるのだ。
「リオ、準決勝進出おめでと~! かんぱーい!」
カチン。二人はグラスを鳴らす。
中身はもちろんジュースだが、こういうのは気分の問題だ。
今夜は二人して二人のお祝いだ。リオとルカは個人戦でも団体戦でも準決勝まで勝ち残ったのである。
「お前もおめでとう。あとにーちゃんって呼べ」
「双子なんだからどっちが上とか関係ないと思うんだけど」
「ある。大事なことだ」
「えー」
ルカは少し不満そうにしながらもグラスを煽り、肉や野菜を皿に取り分けていく。お祝いのケーキはデザートなのでまだ我慢である。
こうして夕食のご馳走を食べるリオとルカ。
もちろん食堂にいるのは二人だけではない。
食堂のあちらこちらのテーブルから「準決勝進出おめでとう!」「おめでとう! 頑張れよ!」「応援してるね!」と学生たちの声が聞こえてくる。
祝福や応援の声が飛び交うが、しかしそれは二人に向けられたものではない。
そう、二人に友だちはいなかった……。
準決勝進出を決めた他の学生はたくさんの友だちに囲まれて祝われているが、二人は二人を祝うのみである。
たまにちらちらとこちらを見てくる学生もいるが、遠巻きにされるだけで誰も二人に声をかけないのだ。
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