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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は13
「みんな楽しそうだね」
ルカがきょろきょろしながら言った。
その様子にリオの目が据わっていく。
「……そんなことないだろ」
「そんなことあるよ。友だちとワイワイして楽しそう……」
ルカは賑やかな学生たちの姿を羨ましそうに見た。
まだ両親が生きていた時は二人も村の小さな学校に通っていた。そこではみんなが友だちで、学校がとても楽しかったのを覚えている。
しかしリオはルカをぎろりっと睨む。
「ここには友だちを作りにきたわけじゃない。勉強して強くなって、冥王様のために働くためだ。そうするって二人で決めただろ」
「そうだけど、王妃様も冥王様も学校生活を楽しめって……」
「うるさいっ」
「またそうやって怒る……」
「俺たちの目的を忘れるな。魔力闘技会は絶対優勝するぞ」
「分かってる。王妃様からの優勝旗、絶対欲しいもんね。それに優勝しなくちゃ王妃様に会えない」
「ああ」
リオは力強く頷いた。
そう、優勝しなければ王妃ブレイラに直接会うことはできない。
二人の留学は冥王ゼロスが魔王ハウストに要請して手配された特別待遇のものである。しかしここでそのことは秘密にされていた。王立士官学校の総責任者である学長しか知らないことなのだ。
そのため二人から王妃に会いに行くことは不可能なのである。
また、王妃ブレイラも他の学生の前で二人だけを特別扱いしないだろうと、二人はなんとなく察していた。それが魔界の当代王妃ブレイラである。
「頑張ろうね。絶対に優勝しよう」
「ああ、それ以外ない」
ルカとリオは頷きあう。
王妃は身寄りのないリオとルカを保護してくれた。そのせいで軟禁されてしまったというのに、それでも守ってくれたのだ。そのおかげで二人は冥界の民となり、冥王ゼロスのはからいで魔界・人間界・精霊界の学校に留学できることになったのだ。二人はこの恩を生涯忘れることはない。
でもだからこそ期待にこたえたい。
王妃も冥王も学生として学校生活を楽しむことを望んでくれたが、二人はそれに甘えるつもりはなかったのだ。
恩に報いるため、最高の成績を王妃に捧げたかった。そしてその力で冥王の役に立つのだ。それが今の二人の夢である。
実際、二人は王立士官学校に留学してから特待生の名に恥じぬ成績を残していた。
それというのも二人は魔族と精霊族の混血児。混血児の中でも稀にみる特異体質で規格外の魔力を持っている。特に二人が魔力を合わせると莫大な力となり、異形の怪物すら召喚できるほどになるのだ。
そのこともあって、本人たちは気付いていないが二人は留学当初から謎めいた存在とされていた。
このエリート揃いの王立士官学校に特待生として留学してくるだけでも異例中の異例なのに、二人の身元は学生たちに明かされていないのだから。
「誰が一番強敵になると思う?」
ルカが食堂内をぐるりと見回して聞いた。
リオは食堂のなかで目立っている集団に目をとめる。
「団体戦ではあいつだろ」
「ああやっぱり、レベッカ先輩か」
集団の中心にはキリッとした面差しの女生徒がいた。
王立士官学校で成績は首席、高い魔力とトップクラスの戦闘力。なにより学生会会長として全校生徒を統率している生徒である。この学校で彼女の名前を知らない者はいないだろう。レベッカは個人戦にも団体戦にも出場が決まっており、今もたくさんの友人に準決勝進出をお祝いされていた。
ルカは納得したように頷くと、また質問する。
「他には?」
「次に気になるのは……あいつだ」
「うん、なるほど。ハーラルト君ね」
次に差したのはハーラルト。
こちらはレベッカと打って変わって食堂の隅で一人食事をしていた。
ハーラルトは眉目秀麗な少年だ。年齢はリオやルカと同じく十三歳。
成績も戦闘力も魔力もすこぶる優秀で、剣技にいたっては上級生でも敵う者はいないほどである。
ハーラルトは個人戦での準決勝進出を決めていたが……。
「ハーラルト君って、団体戦には出場してないんだね」
「あいつ友だちいないからな」
「僕たちだっていないよ。無理やりチームに入れてもらっただけだから」
「うるせーな。チームを準決勝まで連れてきてやったんだからいいんだよ」
リオはそう言い返すと、遠目にハーラルトを見た。
ハーラルトの目の前にはお祝いのケーキが鎮座しているが、それをちらりと見ることもない。顔面を鉄仮面で覆ったかのような無表情で淡々と食事をしている。当然ながらそんな気難しそうな少年に友だちがいるはずがない。
しかし、厄介な強敵になることは間違いなかった。
こうして二人は強敵になり得る要注意人物をチェックしながら夕食を食べるのだった。
◆◆◆◆◆◆
晴天の朝。
王立士官学校の視察当日を迎えました。
用意していただいた衣装は濃緑色の詰襟デザインのローブ。シンプルながらも動くたびに袖と裾がさざ波のように揺れる上品なローブです。
そして今、ハウストの見送りを受けていました。
イスラは夜明け前に政務に行ってしまったので見送りはハウストだけです。イスラの顔を見たかったのですが政務なのだから仕方ありません。
「それでは行ってきます。クロード、あなたもご挨拶してください」
「はい。ちちうえ、いってきます!」
手を繋いでいたクロードがハウストに挨拶をしました。
その隣にはゼロスもいます。
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