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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は14
「父上、行ってきます。おみやげいる?」
「なにが土産だ。くれぐれも自分の立場を忘れるなよ?」
「わかってるわかってる。今回の視察は冥王じゃなくて父上とブレイラの第二子として行くんだもんね」
「本当に分かってるんだろうな……」
うたがわしい……とハウストは疑います。
そんな二人のやり取りに私は苦笑してしまう。
今回の視察はゼロスも同行するのです。ゼロスは私の第二子として同行することになっていますが、……実際無理がありますよね。
子どもの時ならともかく、十五歳のゼロスはどこから見ても立派な冥王です。
建前として息子が同行するという形を取りますが、実際は誰もが冥王として見るでしょう。
昨夜視察先の王立士官学校にゼロスを同行させたいことを伝えると、突然の冥王来訪にたいそう驚いたそうです。でもわがままを通す形で了承を得ました。冥王たっての希望を拒否できる組織はありませんからね。
「ハウスト、それでは行ってきます」
「ああ、気を付けて行ってこい」
日帰りの視察なのになんだか名残り惜しい。でもそろそろ出発の時間です。
こうして私たちはハウストに見送られ、馬車に乗って王立士官学校へ赴くのでした。
「キャー! 王妃さま~!」
「王妃様、こっち見て~!」
「見て、冥王様とクロード様もいらっしゃるわ! 冥王様!! クロード様~!!」
大歓声があがる中、華やかな王妃の隊列が王都の大通りを進みます。
隊列の中心には魔界の王妃の旗を掲げた大型馬車。そこには私とゼロスとクロードが乗車していました。
車窓から見えるのは大観衆。隊列を少しでも見ようと王都の民が大通りに集まってくれたのです。
私とゼロスとクロードは窓から手を振って歓声に応えます。魔族に受け入れてもらえていることは人間の私には嬉しいことでした。
こうして大通りを抜けてしばらく進むと雑木林の通路に入り、観衆の姿もまばらになっていく。ほっと息をついて手を置きます。
するとコレットがすぐに冷たい飲み物を用意してくれました。
「お疲れさまです。どうぞ」
「ありがとうございます。みなさんに迎えてもらえることはありがたいことです」
「ブレイラ様らしいことです」
コレットが目を細めて微笑んでくれました。
視察にはコレットも一緒に来てくれています。側近女官として私を支えてくれている彼女は、常に私と行動を共にしてくれるのです。
「もうしばらくしたら王立士官学校に到着いたします。到着するまでにこちらの名簿をご覧ください。本日行なわれる魔力闘技会準決勝進出者の名簿です」
「ありがとうございます。無理を言いましたね」
「いいえ、他にもご要望があればお申し付けください」
名簿は私が要望していたものでした。
過去の王妃も御前試合に招待されることはありましたが、わざわざ名簿を要望してまで出場者の名前を知ろうとした王妃はいなかったそうです。
それは多忙ゆえの理由もあるでしょうが、私としてはせっかく学生たちが日頃の努力の成果を出すのですから名前ごと知りたいと思いました。
私はさっそく個人戦と団体戦に出場する生徒たちの情報を確認します。名簿には名前、成績、戦歴、経歴などが載っていました。
「まずは個人戦で準決勝に勝ち残った四人を見てみましょう」
トーナメント戦で行なわれるので準決勝には四人が勝ち残っています。
まずハーラルトという男子生徒。初めて聞く名前でした。
まだ十三歳という年齢は士官学校でも低学年ですが、成績優秀で戦闘力も学校内で指折りの存在のようです。特に剣技にいたっては学内で一番のようですね。
「すごいですね。まだ十三歳で神業のような剣技を見せるようです」
感心したように呟くと、聞いていたコレットが付け足してくれます。
「その少年はオルダー家の嫡男ですね。元伯爵の家柄です」
「オルダー家……、聞いたことないですね。元伯爵とはどういう意味ですか?」
「オルダー家は先代魔王様の時代は名のある伯爵家の家柄でした。先代様に格別に気に入られていたこともあり、オルダー家はあの時代に、その、先代様に加担していた咎があり……」
「そういうことでしたか、それで元伯爵なのですね」
「はい。当代魔王様が叛逆して魔王の座についた時、爵位と財産を没収されて遠方に追放されたしだいです」
先代魔王は暴虐の限りを尽くした魔王です。その先代魔王に加担したことで多くに恨まれたのでしょう。貴族にとって爵位と財産を没収されることは処刑されるも等しいことです。これがオルダー家の受けた罰なのですね。
私は名簿に書かれたハーラルトの名前と経歴を見つめます。
ここには文字でしか書かれていないけれど、その文字の向こうには想像を絶するハーラルトの人生があるのでしょう。
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